日本人パートナーと日本で起業 中国インターネット情報センターによると、2001年6月現在、中国のインターネット人口は2650万人。昨年末から半年間で、約400万人増えている。今後さらに拡大が見込まれる中国ネット市場。そこに狙いを定め、ネットマーケティングを仕掛けようと奮闘する人がいる。沈エンさん、11月で32歳になる。 「今はまだ、中国では本格的なネットマーケティングをビジネスとしている人はいませんからね。チャンスですよ」 若き起業家は自信を持って言う。 上海に現地法人が設立されたのは、昨年10月。そこから溯ること八カ月前、沈さんは日本で、日本人二人らとインターネットマーケティング事業を起こした。 沈さんらの起こした会社サイバーブレインズは、完全オーダーメイド型のインターネットリサーチが可能なサイトを開発し、日本のメディアでも話題となった。 このサービスは、利用者が専用ホームページに接続してアンケート用メールを作成。調査対象の性別や年齢層などを選択すると、同社の別のホームページに会員登録している消費者にアンケートを自動配信するというもの。会員は家族構成や関心のある分野などを登録しているので、調査者は調査対象を細かく絞り込むことができる。また、プロモーションとリサーチを一緒に実施できるのも特徴で、アンケートで特定の反応を示した会員だけを追跡してメール広告を打つことができるという。 そして昨年、沈さんが中国事業の責任者として上海で法人を設立、と同時に中国サイトもスタートした。わずか半年で、中国大陸の会員18万人、うち上海会員2万人を獲得している。ネットの特性を生かし、百サンプルであれば12時間、3000サンプルでも3日間で調査結果が出るのだという。 「中国のマーケティングは、とにかく人海作戦でしょう。時間はかかるし、コストも馬鹿にならない。ウチは、そんな中国のマーケティングとは違う」と、鼻息も荒い。 一時冷え込んだ日本企業の中国投資も、増加傾向にある。中国市場での確度の高いマーケティングデータを得るのに苦労している日系企業にとっては、強い味方となりそうな存在だ。 大学時代からベンチャーの世界へ 沈エンさんは、交通大学付属高校を卒業後、しばらくして日本へ留学。ほかの人と同じ道を歩いていくのがイヤだったから、と留学の動機を説明する。未知の世界にチャレンジしたいと、中国を出ようと決めた。 「高校、大学とずっと中国で勉強していくよりも、外国に飛び出したほうが学ぶことも多いと思って」 小学生の頃の夢は、発明家。新しい物を創り出し、世の中に貢献できる人になりたいと思っていた。大人になってからも、その思いは変わらない。 大学時代は机の上での勉強だけでなく、日本社会の仕組みやマネジメントを学びたいと、学業のかたわらベンチャー企業を設立した。国際電話の代理業務は、まわりにいる中国人留学生の便宜のため。中国語教室や中国旅行の企画は、中国に関心を持つ日本人学生のためだ。 「せっかく日本にいるのだから、日本の社会とつながりたいと思った。人と接する機会も増えるし、ビジネスの経験も身につくでしょう。それで、ほかのみんなもハッピーになれたら、うれしいじゃないですか」 就職して学んだ他人との協調性 エネルギッシュな沈さんが自身に課しているルールは、前向きに生きる、人に対する思いやりの心を持つ、他人との協調性を持つ、の三点。特に、最後の協調性は、日本で就職してその大切さを学んだ。 「会社を成功させるキーポイントは、まず人です。そして、集まった人たちがチームワークを発揮できるかどうかで決まると思います」 その点、現在の会社はチームワークも抜群だ。日本人のパートナーたちは、外資系コンサルティング会社で働いていた時の同僚だから気心も知れている。年齢も近い。オープンコミュニケーションを社風とし、互いの国籍の違いを強みとしている。 中国人は協調性がないと言われるが、沈さんが束ねる上海オフィスではチームワークもとれているようだ。中国人スタッフには常々、「互いに協力し合い団結できる会社にしよう」と訴えている。そして、一人一人を信頼し、責任を与える。各人が結果を出せる環境づくりを心がけているのだ。 「留学生仲間と時々、情報交換も兼ねて上海で集まったりするんですけどね、日本に行って良かったかどうかという話になります。私は後悔していない。日本に行って良かったと心から思います。視野も広がったから、中国しか知らなかった頃よりずっと高い見地から中国と日本の関係を見られるようになりました。それぞれの良いところをピックアップし、悪いところを補い合う、そんなビジネスをしていきたいと思っています」(2001年10月号より) [沈エンさんのプライベート] ◆マイイブーム…野球のTV観戦。巨人ファンです [筆者略歴] 日本での出版社勤務後、留学。北京週報社・日本人文教専家を経て、現在、復旦大学大学院生 |