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恐ろしい病魔、重症急性呼吸器症候群(SARS)は、世界的範囲に広がり、大きな緊張をもたらしている。とりわけ注目されるのは、経済が急速に発展している中国が、この危機にいかに対処するかである。確かに、突如襲ってきたこの危機は中国の新指導部に対する厳しい試練であり、十三億の中国人に対しても同様に大きな試練である。
それなら、現在までに政府はどのような対策と措置をとったのだろうか。病気の感染分布とそのコントロールはいったいどのような状況だろうか。SARSに対する科学研究の面で、中国はどのくらい発展しているのだろうか。また、今回の伝染病の危機への対応は、中国の将来にどのような影響をもたらすだろうか。
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二〇〇三年のメーデーを迎えるに当たり、中国政府は従来の七日間の連休を取り消し、法律で定められた祝日と土日を休日とするよう改めた。この措置の目的は、広範囲で人口が流動するのを抑え、SARSの伝染を防ぐことにある。
中国衛生部の高強・常務副部長は四月二十日の記者会見で、記者の質問に「これは、中国の観光収入に大きな影響をもたらすに違いない。しかし中国政府は、人命と健康を第一に考えている」と答えた。
中国では去年十一月、最初のSARSの患者が出た。広東省に続いて北京、山西、河南などで続々と感染者が発見され、伝染病は絶えず蔓延する勢いにある。この病気の感染力はかなり強く、また本当に効果的な薬物がまだ見つかっていないため、一次は中国にパニック状態を引き起こした。
この突発的な伝染病の危機は、中国の新しい政府指導部が直面した重大問題となった。四月十二日と十四日、温家宝総理と胡錦涛国家主席はそれぞれ北京と広東の伝染病の状況を視察した。
広東で胡錦涛主席は、第一線の現場で働く人々に対してねんごろに「私たちは大変心配している」「非常に焦っている」と述べた。また深ロレでは、香港特別行政区の董建華・行政長官と会見し、SARSで苦しんでいる香港市民に対し、中央政府の強い関心と配慮を表明した。
温家宝総理は、危機に対し、つつみ隠すことなく、SARSが中国の観光、交通、ビジネス、貿易、対外交流などの活動に影響することは避けられないと率直に述べた。しかし同時に「我々は長期的展望に立って、一時的な損失を気にする必要はなく、しっかりと仕事をしさえすれば、局面は必ず、間もなく改善される」と自信をもって語った。
中央政府は終始、SARSを非常に重視してきた。しかし、社会のすべての力を動員し、SARSと全面的に宣戦を布告する段階に入ったのは、中国政府の中でしっかり仕事をしなかった二人の政府高官を罷免してからである。
四月二十三日、温家宝総理は会議を招集し、国務院に、統一的に全国のSARSの予防・治療の仕事を指導する「SARS予防・治療指揮部」を設立した。そして呉儀副総理が総指揮に当ることになった。中央財政は特別に、二十億元の基金を設け、SARSの感染予防と治療に用いることにした。
中央政府は上から下まで総動員し、すでに連続して三回、国家機関の関係部門の責任者が率い、医学専門家によって構成された「SARS予防・治療の観察・監督組」を各地に派遣した。彼らは北京、山西、河南、新疆などの省・直轄市・自治区へ赴き、その地の予防・治療の仕事を直接指導した。政府がSARSの予防・治療を重視した結果、市民たちもSARSの予防・治療に熱心に取り組み始めた。
伝染病をコントロールするカギは、最新のウイルスの感染状況を掌握することである。しかし、中国の医療機構はその管轄が別々になっているため、統計をまとめるのが大変難しい。伝染病の発生状況が比較的重い北京を例にとれば、現有の三百余りの医療機構が、市、区、軍など多くの部門にそれぞれ分かれて属しており、情報の伝達が悪く、一時は患者の数を正確に上部に報告することができなかった。
現在、北京市政府はすでに、防疫に関する統一的指導システムを設立した。これによって衛生・医療に関する資源を統一的に調達・分配し、伝染病の状況を収集して取りまとめ、報告することになった。
一週間にわたり感染者の数を漏れなく調べた結果、北京地区にあるすべての病院が収容・治療している患者の数がすでに明らかとなった。高強・衛生部副部長は「このとき以来、我々は伝染病をすばやく予防・治療するうえで大きな進歩を遂げた」と述べた。
「ゼロの報告」制度は、衛生部がもっとも新しく作った措置である。これは各地の政府を督促して、厳格にSARS感染者数を報告させるためのものである。SARSの発見の有無にかかわらず、SARSの確定診断がたとえゼロであっても、すぐに上部に報告しなければならない。衛生部の疾病防治局の孫新華局長は「四月二十二日から衛生部は毎日一回、全国の最新の統計データを発表している。確定診断された患者数を発表する以外に、感染の疑いのある患者数も発表している」と述べている。世界保健機関(WHO)の中国駐在のベケダム代表は、中国の感染状況の統計が「大いに進歩した」ことと認めている。
各地の政府は各クラスの病院に対し、発見された患者の収容を、いかなる理由があっても拒んではならない、条件の比較的良い一部の病院は隔離された専門的な呼吸器疾患の外来診療部門を設立しなければならない、感染の疑いのある人は直ちに隔離しなければならない、と厳格に要求している。
中国政府は、感染がまだ発見されていない農村への伝染を非常に警戒し、重視している。SARSの感染が始まったばかりのころ、財政部、衛生部、労働保障部はすでに、支払い能力が乏しい患者や農民に対して医療費の補助制度を実行し、中央と地方の財政当局がすべてその費用を支出しなければならない、と指示した。
「SARSを予防する漢方薬の処方が新聞で公表されてから、ここでは毎日、千服にも上る漢方薬を売らなければなりません」
北京芳草薬店の支配人である范さんはこのところ、仕事に忙殺されている。水を飲むひまもないほどだ。
科学的な研究の結果、SARSウイルスは免疫力の弱い人には、感染率と死亡率が高いことが明らかになった。特効薬の開発が待たれる現段階では、伝統的な漢方医学を主な予防策とする補助治療法に人々の目が向いている。
中華中医薬学会は四月八日、専門家たちを組織し、中国北方地区のSARSの特徴に対して、主に解熱・解毒と免疫力を高めるための予防処方を推奨した。また、一部の専門家もトマト、イチゴ、ニンジン、オレンジなどの食品を摂取し、ビタミンを補給する予防処方を提案した。統計によれば四月、北京市は市民に毎日十万本瓶詰めのSARS予防漢方薬を提供し、薬品が途絶えることがないようにした。
学校はSARS予防の重点となった。各大学の教職員や学生たちは、予防意識と自己防衛する能力をそれぞれ高めた。学校はまた、学生宿舎や食堂、教室、図書館、実験室などの主な場所を定期的に消毒し、空気の通風をよくした。学生宿舎に体温計を配り、SARSを入念に観察し、その疑いを徹底的に検査した。
ウイルスのさらなる拡大を防ぐため、北京市教育委員会は四月二十三日、全市の小中学校に対して二週間の休校を決定した。各大学もそれぞれの状況に基づき、休講や大学への出入りの管理強化などの措置をとった。
人の流動が激しい王府井百貨店、東方広場などの大型デパートでは、ツンとする消毒液のにおいが充満している。買い物客や店員たちはさまざまなマスクをつけており、自己防衛している。関係規定にそって、ショッピングセンターやスーパーなどの営業地点では毎日、定期的に施設を掃除・消毒し、通風を保たなければならない。レストランでも、料理を一人ひとりに分けるトレー式のサービスをスタートさせた。
中国民用航空総局は四月二十一日、すべての旅客が「健康申告表」に健康状況を記入し、提出するという規定を発表、SARSが空港や飛行機に拡散するのを厳重に防いでいる。北京首都空港の旅客出入国検査の通路には、赤外線体温観察システムを新たに三カ所設置し、SARS感染の疑いのある旅客を搭乗させないようにしている。また、列車、自動車、地下鉄などの交通機関でも毎日消毒が行われ、通風が保たれている。
SARSウイルスが広がっていた四月二十三日、経験豊かな一人の漢方医が感染したが快復したというニュースが流れ、多くの人に希望を与えた。その人はすでに七十二歳の医者・姜素椿さんで、中国人民解放軍三〇二病院の伝染病治療の専門医である。
三月初め、彼は、あるSARS患者に応急処置を施した際に感染してしまった。SARS治療の有効な方法を探るため、自らの身の危険もかえりみず、治療に成功した人の血清を注射した結果、病状は奇跡的に快復し、他の薬品と合わせた治療を経て、わずか二十三日間で退院した。
実は、科学研究者たちは、かなり早い段階で、SARSウイルスに打ち勝つための闘いをはじめていた。そのうち、軍事医学科学院は、もっとも早く研究をはじめた機関である。三月、同科学院では、特別グループを組織した。一カ月を超える研究を経て、四月十五日早朝、SARS患者の組織標本から、病気の元凶である新型の「コロナウイルス」の検出に成功した。これを機に、SARSウイルスの研究は飛躍的に進んだ。
四月十六日十六時五分、科学研究員は、SARSウイルスの全遺伝子配列を解読した。
四月十七日、血清抗体の検出方法である「免疫蛍光法」の快速診断技術を開発し、これにより、二時間以内に診断結果を確定できるようになった。
四月十八日早朝、患者の血液中のSARSウイルスのたんぱく質を抽出した。
四月十九日早朝二時十二分、臨床実験試薬が開発され、検査結果を導き出す時間が、さらに一時間短縮された。 四月二十一日午後、SARS予防になるという「ωインターフェロン」が、国家新薬専門家評価審査委員会の総合評価審査を通過し、SARSワクチンの開発は急速に進められている。
世界貿易機関(WTO)加盟や中国共産党第十六回全国代表大会を経て、政府機能の転換が中国政府の最大の課題となった。つまり、マーケットの成長と成熟にともない、政府は、重点を、経済活動ばかりに置くことから、主要な公共サービス事業に移しつつある。新指導部が発足したばかりの時期に、SARSによる危機に直面したことは、政府機能の転換の重要な契機になるだろう。今回のSARSに対する政府の対応はちょうど、政府機能の転換を証明しつつある。
その他、SARSが世界に広がったことは、中国政府が内政問題の処理も、国際ルールに従って行うという変化を促進した。実際に、医療衛生システムを主とする中国の各級政府部門の対応は、世界中の人の注目を集めた。SARSによって、中国経済の成長はマイナス影響を受けたが、このような短期的な損失に対して、新しい指導部が広範に作り上げた応急システムと、それによって法制化された政府情報の公開制度がもたらした大きな改革効果は、金銭ではとても計れない価値がある。
SARS騒ぎは、市民社会に向かう中国大衆の心構えに対する一大テストケースである。そしてこの中で、政府と大衆の間の理解は深まった。「適切な対応をすれば、大きな危機が、逆に多くの問題を解決できる」と話す学者もいる。確かに、この意味から言えば、数年後にこの事態を振り返れば、私たちはより深く、温家宝総理が言った「長期的展望に立つ」の深い含意を受け止めることができるだろう。(本誌編集部)
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