ひと味違った新しい休日

北京城市海景楽園で楽しい時を過ごす陸洋さん家族

 北京在住の陸洋さん(39歳)は、避雷設備メーカーを経営している。もっとも重視しているのは、事業の成功と子どもと過ごす時間で、「ウイークデーは仕事を中心に考え、週末は子どもと過ごすために使っている」と話す。

 彼の妻は貿易会社に勤めていて、同じように忙しい。そのため七歳の息子は、ふだんは陸さんの両親の家で寝起きし、学校に通う。陸さんは、どんなに忙しくても、週末には休みをとって、息子を迎えに行き、息子の世話をお願いしていた両親には二日間休んでもらう。

 陸さん夫婦は、週末の二連休のうち、少なくとも一日は子どもを連れて遊びに出掛けるため、北京郊外の遊び場は、すでに行き尽くしてしまった。幸いにも、遊び場はどんどん増えている。海のない北京にも、人工波がある「北京城市海景楽園」というレジャースポットが生まれ、きれいな砂浜や真っ青な「海水」、それに押し寄せる波を存分に楽しめる。特に子どもには人気のスポットだ。

 子どもと遊ぶことで、陸さん夫婦も一週間の疲れを癒すことができる。また、陸さんの両親も、いたずらな孫の世話から開放され、夫婦そろって長年の友達を誘って公園を散歩したり、京劇を唄ったりして過ごす。

スポーツ施設で汗を流す人も少なくない

 中国人が、このように休日を楽しめるようになったのは、ここ数年のことだ。かつては、大多数の中国人の生活は常に忙しく、楽ではなかった。週六日間働き、買い物、掃除、洗濯などの家事は、すべて日曜日にしていた。家事がまとわりついて、日曜日になると、ウイークデーよりも疲れたほどだ。「忙しく動き回る日曜日、疲れ果てる月曜日」という言葉は、ひと昔前の人々の心をよく表している。「休暇を楽しむ」とは、ブルジョア階級のぜいたくな生活の代表で、庶民とは関係のないものだった。

 「改革・開放」後、中国の経済力と生産力が大きく向上しただけでなく、庶民の生活の質にも、根本的な変化があった。市場に供給される物資は十分になり、各種各様の電気製品が、庶民の生活に入ってきた。それにより、家事にしばりつけられていた人々が徐々に解放され、ポケットにもお金が残るようになり、生活がかつてのように無味乾燥でつらいものではなくなった。

 1995年、中国では週休二日制が始まった。それ以前は、映画の中の外国人が、週末に「休暇を楽しむ」様子を見るだけだったが、ついに、中国人の生活にも同じような環境が生まれた。

 1999年9月、さらに一年に3回の長期休暇(七連休)がスタートした。中国人にとって最も重要な三つの祝日は、春節(旧正月)、「五・一」(メーデー)、「十・一」(国慶節)である。もともとわずか数日の祝日だったが、ウイークデーと週末を調整することで、一週間の長期休暇になった。この時を境に、ほとんどすべての中国人が、自分の休日の楽しみ方を考えるようになった。

過熱気味のホリデー観光

観光業の急速な発展にともない、家族での海外旅行も人気

 20年以上前には、中国の旅行会社は、ほとんどが外国人観光客のために設立されたもので、一部のおみやげショップにいたっては、完全に外国人向けに開設されていた。お金も暇もなかった頃には、中国人にとって、旅行は単なる夢でしかなかった。

 かつて、『桂林に行きたい』という歌が流行したが、歌われていたのは、天下一の呼び声高い桂林の景色にあこがれていながら、旅費がなく、あきらめざるを得なかった青年の話だ。そして、一生懸命働いてお金を手に入れたところ、今度は時間がなくなった。

 しかし、週休二日制の導入で、人々の生活は大きく変わった。週末になると、都市の大きな公園だけでなく、都市から遠く離れた郊外の山村でも、家族みんなで遊ぶ様子を見かけるようになった。大自然の中で新鮮な空気を吸い込むことで、人々は疲れた体と心を癒すことができる。また、七連休の誕生により、旅行にあこがれていた人々は、近郊への旅行だけでなく、南へ北へ、都市から都市へ、有名な観光地へと足を伸ばすようになった。

週末に郊外農家の料理を楽しむことは、都市生活者にとって欠かすことのできない楽しみの一つになった

 長期休暇のたびに、中国全体がまるで巨大な遊園地のようになる。鉄道や飛行機は、乗車率、搭乗率が100%を超え、ホテルは予約でいっぱいになり、観光、商業、通信、飲食、エンターテインメントなどの業界は、業績が一気に上がる。七連休のことを人々が「黄金週間」(ゴールデンウイーク)と呼ぶのも納得だ。

 それだけでなく、ますます多くの人が、活動範囲をさらに広げようとしている。以前は、あまりにも現実離れしていて想像すらできなかった海外旅行を、今では多くの人が楽しんでいる。中央テレビによると、1969年に1千万都市の上海で出国を申請した人はわずか24人で、認可されたのは10人だけだったが、2001年には私的理由での出国者数は延べ30万人になった。

 現在、中国人の海外旅行の目的地は、初期のシンガポール、マレーシア、タイのようなアジアの国々から、ヨーロッパ、アフリカの二十以上の国・地域に広がった。2002年、中国の経済景気監測センターが北京、上海、広州の700人の市民に行った調査によると、一年以内に海外旅行を計画している人は6割に達する。そのうち、21・6%の市民が2回目または2回目以上、42・2%の市民がはじめての海外旅行だった。

北京城市海景楽園は、北京郊外に、砂浜と波のあるプールを作り、海まで遊びに行けない忙しい若者を魅了している

 中国人の旅行熱は、徐々に「盲目」から「理性」に変わりつつある。中国青年旅行社の中国公民旅遊総部の責任者によると、最近の中国人観光客の需要は、決められたコースを旅するだけでは満たされなくなっている。さらに多くの新コース、さらに特色のあるコースが求められている。

 また多くの人が、ホテルのみの予約、エアチケットのみの予約、ホテルとエアチケットの予約、往復チケットのみの予約で出発する自由旅行を選んでいる。そんな旅行者の目的は、純粋な休暇であり、観光だけを目的にしているわけではない。

北京新東方学校の英語クラスには、夏休みに延べ3万人以上が申し込んだ

 陸さん一家は、長期休暇には、必ずと言っていいほど北京を離れている。広東省広州、江蘇省蘇州、上海、河南省鄭州、天津、河北省北戴河などがお気に入りのスポットである。

 目的地や遊び方を決める際には、子どもの意見を重視する。陸さんは、あちこちに出掛けることで、子どもに様々な経験をさせられ、成長によい影響を与えると考えている。そのため、交通手段も、飛行機だけでなく列車、船、バスなど何でも使い、体験させることに重きを置いている。

 ただ、まだ子どもが小さいために、出掛ける場所は、親戚や友達がいる地域を選び、食住の衛生環境がよく、現地の特徴的な場所に案内してもらうようにしている。また、一般の観光客が団体で行く混雑した観光地は避けることが多い。

 しかし海外旅行はまだしたことがない。子どもが小さすぎて、印象が残らないと思っているからだ。陸さんは、子どもが小学3年生くらいになってから、海外旅行に出掛けようと思っている。目的地はすでに決めている。日本のディズニーランドである。

ウィークデーに忙しく働き、週末は図書館で過ごす若者も多い

 「黄金週間」の観光は、中国の庶民の生活に彩りを与え、大きな経済的利益をもたらした。しかし、旅行の流行により、想像していなかった様々な不便が生まれた。列車や船などの切符が買いにくくなり、宿泊施設が不足し、観光地が人であふれ返った。多くの人の観光は、これらの不便により、楽しい時間が帳消しになってしまった。

 一部の専門家は、全国統一の休暇制度に異議を唱え、観光客が分散するような有給休暇制度の導入を提案している。そうすれば、さらに合理的に仕事と休暇を調整できる。

自分の休暇は自分で決める

都市の若者の中には、車で郊外に出かけて休暇を過ごす人もいる

 現在、中国人の一年間の公休は114日に達し、1年の3分の1を占めている。人々の休暇に対する心理も成熟に向かい、好きなことをして、より多くの体験や精神的な慰めを得ることが、休暇の出発点になっている。

 40過ぎの高さんは、北京にある不動産会社の責任者で、休みのたびに、刺激的な娯楽を試してみる。彼は、「チャレンジャー精神が必要で、リスクも大きい仕事をしているから、スポーツで体と精神力を鍛えたい」と話す。最近は、パラグライダークラブに参加し、自分の恐怖心を克服しようとしただけでなく、若い頃からの空を飛びたいという夢をかなえた。

 都市生活の長い人たちは、刺激の高いスポーツを好む。ラフティング、ロッククライミング、バンジージャンプ、野外探検などがその例で、愛好者たちは、専門のクラブを立ち上げ、定期的に活動を行っているほどだ。その他、さらに多くの人が選ぶのは、山歩き、水泳、卓球などのスポーツで、週末になると、体育館やスポーツ施設は大混雑となる。

リゾート地では、軽音楽とダンスを楽しみながらのんびりできる

 フィットネスクラブの北京青鳥商業健身センターには、週末、平日の夜を問わず、いつでも多くの人が汗を流している。同センターの年会費は6800元という高さだが、設立1年目に3500人以上の人が会員になった。いまでは毎日、600人以上が利用している。マネージャーの李ヒンさんは、「かつてはダイエットと筋力アップのための場所だったフィットネスクラブが、いまでは、健康な生活を送り、生活の質を高める場になった」と話す。

 市場経済の激しい競争の中で、生活に対するプレッシャーは大きくなっている。多くの人は、休暇にさらに多くの技能を身に付けようと勉強し、今後の発展のための道を模索している。そんな例として、大学院受験講座、新東方英語学校の英語講座、MBA(経営学修士)研修講座、各種資格試験の補習班などが、休日に開かれている。北京市教育委員会の統計によると、北京では毎年、自費で英語講座に参加する人は20万人にもなる。

 また、多くの人が休日に読書をして「充電」する。北京の国家図書館は、休暇のたびに席が埋まる。同図書館のスタッフによると、週末には1日1万人以上が入館するという。

優秀な人間に育ってほしいと願う親たちは、夏休みの補講に参加する子どもを校門で待つ

 もちろん、伝統的な休暇の過ごし方も残っている。国有の建築会社でマネージャーを務める50過ぎの阮さんは、ふだんは仕事に忙しく、なかなか家族と一緒に過ごせない。そこで、休みになると妻の家事を手伝うことにしている。彼にとって、家族と過ごす時間こそが一番大切な時だ。自分で作った料理を味わい、テレビを観ながらおしゃべりする時間がたまらないという。

 一方で若者には、ロマンティックな時間が欠かせない。大学が集まっている地域には、喫茶店や茶館、バー、インターネットカフェが集まり、流行の最先端を行っている。週末の夕方になると、若者の溜まり場になり、のんびりとした自由な雰囲気の中でリラックスし、お互いの距離感をより近づけることができる。2003年10月号より

▽中国人の旅行熱

 中国国家旅遊局の統計によると、1989年の中国国内旅行者数は、延べ2億4000万人に過ぎなかったが、2001年には延べ7億8000万人になった。

 また、1990年代初め、中国人の年間海外旅行者数は延べ300万人に過ぎなかったが、2001年には延べ1213万3100人となり、13年前の4倍に膨れ上がった。

 多くの庶民の旅行支出も年々増加している。2000年の都市住民の平均旅行支出は、1995年の167.6%となった。

▽エンターテインメントへの支出が増加

 零点調査公司の消費調査によると、1995年の中国の都市家庭平均個人消費支出は、3537.6元で、うち、エンターテインメント、フィットネス、文化・教育消費の支出は312.7元だった。

 2001年の都市家庭平均個人消費支出は5309元で、うち、エンターテインメント、フィットネス、文化・教育消費の支出は690元だった。

かつて、中国の伝統的な休暇である春節(旧正月)に、廟会(縁日)に出かけることは重要なイベントだったが、最近では、休暇の過ごし方は多様化した