バレンタインデー、謝氷さん(右)は李暘さんに赤いバラを贈った

 「節」とは、中国語で祝祭日や節気、記念日を意味する。

 謝氷さんと李暘さんは、小学校時代の同級生。中学、高校、大学は別々だったが、近所に住み、チャット仲間でもあることから、いつの間にか恋人同士になった。

 その時から、バレンタインデーが二人にとって大切な記念日になった。毎年2月14日になると、他の若者と同じように、赤いバラとチョコレートで互いの気持ちを確かめ合う。二人は夕方から一緒に過ごし、デパート巡りや映画観賞をしながら、ロマンチックな夜のひと時を楽しむ。

 いまの中国の都市部では、バレンタインデーを知らない若者はほとんどいない。一部の中年夫婦ですら、時代に遅れまいと、バラの花束で平板な家庭生活にロマンチックなムードをもたらす。

 経済のグローバル化が進む今日、中国では、経済生活が世界の歩みに近づくだけでなく、外国の文化やライフスタイルとの融合に直面している。

クリスマスになると、若者は願いを記した紙をツリーにくくりつける

 1990年代半ば、西洋人が大切にする祝祭日や記念日が、ビジネス習慣とともに中国に入ってきた。ここ数年、北京や上海のような大都市では、12月になると街のあちこちにクリスマスツリーが飾られ、バレンタインデーが近づくと赤いバラとチョコレートが目に付くようになる。

 中国には、多くの伝統的な「節」がある。節気の移り変わりに合わせた農事の「節」、宗教色が強い神々や先祖を祭る「節」、歴史上の人物や重要な出来事を記念する「節」などがある。新中国成立後にも、新たな法定記念日が作られた。国慶節、国際婦女節、国際労働節、中国青年節、国際児童節などである。最近は教師節、植樹節なども新設された。

 改革・開放以降、中国人は、忘れていた伝統的な「節」を徐々に懐かしむようになり、「文化大革命」で一時途絶えた様々な風習を復活させた。

 80年代半ばには、春節(旧正月)の除夜の鐘が突かれると、北京全体に爆竹の音が響きわたった。打ち上げられた花火は壮観で、興奮したものである。中秋節、元宵節、端午節などには、月餅、元宵(ダンゴ)、チマキなどを買いに走り、若者は年配者に作り方を教わり、これらの時節の食品を贈り物として交換する。古い伝統がもたらす新鮮感が、中国人にひと味違った楽しみを与えた。

スーパーは春節前の買い物客で大入り。十分な供給で庶民の需要を満たす

 ここ数年で、大衆の伝統的な「節」への関心は、さらに高まっている。ギョウザ、元宵、チマキなどはいつでも手に入るが、特定の「節」には欠かせないため、大いに歓迎される。立春、冬至、重陽、清明のような農事の節気にも、次第に多くの人が伝統的な飲食習慣や活動を復活させるようになっている。

 立春に春餅(小麦粉で作ったギョウザの皮のような「餅」に野菜を巻く、クレープ状の食べ物)、冬至にギョウザを食べ、清明節には墓参りをし、重陽節には山に登って遠方を眺めるなど、様々な活動がある。これらの伝統的な習慣どおりに過ごすことで、ようやく生活が円満、着実で、愉快であるかのように。

変化し続ける習俗

 「節」の楽しみは、様々な習俗の中にある。地域によって習俗は異なるが、一点に限って言えば、どこも似通っている。「節」の飲食が、普段よりも手が込み、ごちそうであることだ。年越しのギョウザ、年ク竅iもち)、各種の煮込み肉や揚げ物は、多くの人にとって良い記憶である。

申年の今年、人々は「唐装」を着たサルのぬいぐるみとともに新年を迎えた

 かつての貧しく苦しい時代に、立派な食事をとるのは簡単なことではなかったが、「節」の食事のために、人々はお金を惜しまなかった。しかも、準備したたくさんの料理には、それぞれ吉祥の意味がある。例えば、中秋節の月餅や元宵節の元宵には一家団らん、春節の年コウは生活レベルが高まることを願う意味が込められている(「コウと「高」は同音」。

 長い伝統から、中国人の心には、「節」イコール「食」という概念が生まれ、これらを口にしてはじめて、「節」を無事過ごしたと感じるようになっている。「節」と「食」を待ち望む気持ちは、自然と一体化している。

 このような考え方は、なかなか変わるものではない。かつての中国人は、物不足に苦しんでいたために、どんなに願っても、大晦日にごちそうにありつくことは困難だった。筆者が幼い頃には、たった一切れの冷凍肉を買うために、食品売り場に四時間も並び、寒さで足の感覚がなくなってしまったことがあった。

 80年代以降、中国人の懐は豊かになりだした。しかし当時の市場には、私たちを十分に満足させる供給能力はなく、春節前には、買い物こそ最も重要な仕事だった。普通、家族総出で買い物に出かけ、知恵をしぼって、必要な食品――米、小麦粉、魚、肉、卵、野菜などを手に入れた。必要な材料が手に入ってはじめて、安心して春節を迎えられたものである。

赤いちょうちんと切り絵が祝日の雰囲気を高める。かつては自宅で迎えた新年だが、最近ではレストランでの年越しが人気

 しかし、このような伝統は、挑戦を受けている。改革・開放がもたらした経済成長は、人々の懐を豊かにしたからだ。市場供給が豊富になり、どんな食品もいつでも買えるようになったことで、いまでは、ふだん口にする食品が、年越し料理以上に豪華なことも多くなっている。

 おまけに、健康のために、ごちそうばかりを食べる習慣を捨て、あっさりした料理を選ぶ人が増えている。そのため、年越しに何を食べればいいんだろう、と戸惑う人まで出てきている。

 大いに食べて飲むという習慣がなくなった今、「節」をどのように過ごせばいいのだろうか。

 サラリーマンの張さんは旅行が趣味で、年次有給休暇を一度にとって遊びに出かけることが多い。昨年の春節には、思い切って父母を伴って海南島まで旅行し、海辺で年越しをした。張さんは、「父も母も最初は迷っていた。お金が掛かるし、家を離れて年越しすることに抵抗を感じていたみたい。ただ、旅行に行ってからは、孝行息子だって誉めてばかり。心から楽しめたようだった。こんな過ごし方は、最高だね」と話す。張さんのように、新しい年越しの楽しみを味わう人が増えている。

「節」に生花を贈ることが、最近の流行

 年越しや祝祭日に贈り物はつきもの。親戚や友人の家に行き、贈り物を贈ることは、今まで以上に仲良くしたいという気持ちの現れだ。夫婦双方の両親への贈り物には、真心が込められる。一家が幸せに暮らせるように、と。

 そのため、贈り物選びは軽視できない。時代によって、その基準も変わってきた。

 50〜60年代には、一般的に紙パックに入った菓子や飴のたぐいを贈った。70〜80年代には、豪華な食材が最上の選択となる。年越しはちょうど冬のため、カチカチに凍った魚や肉を贈れば喜ばれた。90年代になって、健康関連の商品を選ぶ人が増え、長寿、美容、健康などの目的を問わず、そのような贈り物こそが最高のお祝いとなった。

 ここ数年は、より新しく、優雅で、個性的な贈り物を選ぶようになってきた。生花は優雅でお祝いにも最適のため、年齢を問わずに喜ばれている。また、友達を水泳、球技、エステなどができるフィットネスクラブに誘うことが、若者の間で流行っている。子持ちの人が贈り物を交換する際には、おもちゃや絵本を準備する。また、一部の経済力のある人は、高齢の両親に海外旅行をプレゼントし、観光地で一家団らんする。

変わらぬ家族愛

里帰りのピーク時には交通機関はパンク寸前

 謝氷さんは、クリスマスとバレンタインデーも好きだが、心の中で最も重要な位置にある「節」は春節だという。春節になるたびに、彼の両親は、謝さんを祖父母の家に連れて行く。謝さんの両親の兄弟家族も合わせ、十数人が一堂に集うと、とてもにぎやかだ。謝さんと同世代の中国人は一人っ子ばかり。従兄弟が集まる貴重な機会である。

 中国人の生活は日に日に多様化しているが、多くの伝統は変わらずに残っている。その一例が、家族愛であり、これはすべての「節」の主役である。かつての春節もいまの春節も、変わりがない。

 現代社会の速い生活リズムと、仕事から来る大きなプレッシャーは、人々に、より深い心の交流の必要性を感じさせている。これは、家族間だけではない。春節休暇には、街のレストランや各種の娯楽施設で、同僚や学生時代からの友人と過ごす人たちを見かける。中には、数十年来の友人や長年会うことのなかった友人もいる。すべての人が、心を通わせたいと願い、人と人との関係をより緊密にし、今後もうまく協力し合って発展したいと望んでいる。

廟会(縁日)は、都市の伝統的なお祭りの一つで、北京の春節の一大イベント

 農村生まれの人の年越しは、都市の人よりずっと伝統的だ。四川生まれの張淑敏さんは1998年、夫とともに北京に出稼ぎに来た。学歴が高くはない彼女は、北京で家政婦をし、夫は建設現場で働く。生活費を稼ぐ目的で故郷を離れたため、どんなに苦しくても我慢できるという。

 「一年に一回、春節に里帰りして六歳の息子に会う。家族みんなで年越しを祝う。北京で一年、春節を待ち望みながら頑張って、その翌年もまた、春節を楽しみにするんです」

 張さんのような出稼ぎ労働者は、中国の都市部に大勢いる。これは改革・開放後に、中西部と沿海部の経済発展の格差拡大が生んだ現象である。都市部に出稼ぎに出ることで、農民はより多くの収入を得ることができるからだ。いまでは少なくない人が、安定生活を送ることができる場所を見つけ、故郷から家族を呼んで都市生活をはじめている。

 しかし、春節になると、こんな出稼ぎ労働者たちは、どんなに遠く離れた故郷にも戻り、家族とともに時間を過ごす。この団らんのために、苦労して貯めたお金を使うだけでなく、移動の辛さを味わう。水・陸・空の交通部門は、春節休暇のわずか数週間のうちに、ふだんの数倍の乗客を輸送する。これは明らかに、許容能力を超えている。

獅子に扮した子どもたちが、お祭りのイベントで大活躍

 北京鉄道局の管轄区間を例にすると、ピーク時には、北京で一日に乗車する旅客は28万人以上に達するという。毎年、まるで渡り鳥のように延べ十数億人が移動する光景は、世界中を見渡しても中国だけの特殊なものだろう。

 よく考えると、西洋の「節」が中国で重視されているのも、家族愛と関係がある。クリスマス・イブに、若者はレストランやバーで楽しい時間を過ごし、ウインドーショッピングや映画観賞を堪能する。謝さんと李さんは、春節は家族と過ごす「節」で、クリスマスは自分たちのような恋人が一緒に過ごす日と位置付けている。クリスマスの宗教的な意味を彼らはまったく考えていない。若者が必要としているのは、個性を存分に発揮でき、自我の快楽を表現できる場所である。

 西洋の「節」の温かさ、ロマン、それに束縛感のない感覚と、伝統的な中国の「節」はまったく違ったものである。こんな違いこそが、人々により多くの楽しみを与えている。(2004年4月号)



 中国人の生活に息づく主な祝祭日(節句)

 〇春  節    (旧暦1月1日)     旧正月
 〇元宵節    (旧暦1月15日)    小正月
 〇端午節    (旧暦5月5日)     端午の節句
 〇乞巧節    (旧暦7月7日)     七夕
 〇中秋節    (旧暦8月15日)    中秋の節句
 〇重陽節    (旧暦9月9日)     重陽の節句

 〇元 旦     (新暦1月1日)
 〇立 春     (新暦2月4日)
 〇国際婦女節 (新暦3月8日)     国際婦人デー
 〇植樹節    (新暦3月12日)    植樹の日
 〇清明節    (新暦4月5日ごろ)
 〇国際労働節 (新暦5月1日)     メーデー
 〇中国青年節 (新暦5月4日)     中国青年の日
 〇国際児童節 (新暦6月1日)     国際児童の日
 〇教師節    (新暦9月10日)    教師の日
 〇国慶節    (新暦10月1日)    建国記念日
 〇冬 至     (新暦12月21日か22日)