分配形式だった住宅

住宅購入の夢がまもなく実現する陶汪泓さん(写真中央)

 出版社に勤務する陶汪泓さん(51歳)は、仕事で忙しい毎日を送っている。最近は週末や休日にもやることが増えた。近々住宅を購入しようと思っているので、数人の友人たちと連れ立って、下見に行くのだ。

 陶さんは夫と22歳の娘の三人家族で、二部屋ある住宅(建築面積80平方メートル)に住んでいる。広いとはいえないが、住むには困らない。

 それでも家を買おうと思った原因は、70の坂を越えた姑にある。病気のために一人で生活ができず、今は未婚の義弟と一緒に暮らしているが、陶さんや他の兄弟もしょっちゅう面倒を看に行く。陶さんの夫は長男なので、義弟が結婚して家庭を持ったら、母親の面倒を看なければならない。そこで「二部屋だけでは、義母が住む場所がありません」と焦っているのだ。

陶汪泓さんはベランダの一角を改造して簡単な書斎にした(写真・高原)

 家を買わなければこの問題は解決できない。ここ数カ月、多くの場所へ出かけ、市内や郊外の住宅、高層マンションや別荘などを見てきた。

 探している住宅への要求はあまり高くない。勤め先から遠すぎず、姑が病院へ行くのに便利な場所にあること。そして、生活設備が整っていて、環境がよく、価格が適当なことである。まだ納得のいく住宅は見つかっていないが、できるだけ多くの場所に足を運び質問を重ねれば、いろいろと比較ができて、気に入ったものを見つけることができるだろうと考えている。

 中国で一般の人々が住宅を商品として購入できるようになったのは、ここ十年ぐらいのことだ。改革開放以前は、計画経済だったため、住宅は実物分配の形式をとっていた。国家の経済力が強くなかったので、住宅の建設は人口増加のスピードに間に合わず、人々の住宅事情はだんだんと深刻化していった。

陶汪泓さんの現在の家では、居間が客間、食堂、仕事場を兼ねた多機能な部屋となっている。これは都市の住宅事情ではよくあることだ(写真・高原)

 都市住民の多くは狭い住宅に住んでいた。今の中年世代の中には、三世代で一部屋に同居し、大人になってからも二段ベッドで眠り、近所の人たちと共用のトイレやキッチンを使うなどといった経験を持つ人が少なくない。

 住宅が必要であれば、職場から分配してもらうしかなかった。職場に住宅がない場合、若者は実家に住まざるをえない。住宅があったとしても、どのくらい余裕があるかは職場によって異なる。従業員が多い割に住宅が少ないのが普通だった。

 職場はそれぞれの状況によって分配政策を立てた。勤務年数、年齢、職務、家族数などさまざまな条件をみて住宅を分配した。若者は結婚証明書をとっても、住宅分配の順番を待たなければ結婚できなかった。何年も待たなければならないこともあった。住宅分配については、同僚の間でよくトラブルが発生した。

 陶さんは大学卒業後、中学校で語文(国語)の教師をしていた。教師の仕事はとても好きだったが、学校には住宅がなかった。娘が小学校に入学するまで、一家は陶さんの実家で暮らしていたが、いろいろと考えた挙句、住宅分配の順番を待つことができる職場に転職した。そして三、四年後にようやく自分の住宅を得た。

住宅購入の幸せと難題

一緒にマンションを借りている劉さん(写真右)と羅茜さんが2人で住んでいる部屋。1月に1人約500元ずつ出し合って家賃を支払う

 1990年代半ばから、中国は住宅制度の改革を始めた。職場にあった共用の住宅を、原価を計算して従業員に売り、新築住宅も市場価格に従って売買を始め、50年近く行ってきた住宅分配制度を廃止した。

 それ以来、中国の不動産市場は急速に発展し巨大なものとなった。これまでの住宅は粗末で代わり映えがなかったが、一夜にして多種多様に様変わりしたかのようであった。高級な別荘、改良した新式の四合院、そしてさまざまなタイプのマンションができた。

 それでも、ほとんどの人はやはりマンションを選ぶ。市内には、20階建て以上の大きなマンションが多く、郊外には6階建て以下の小さなものが多い。ゆったりとしていてとても優雅だ。経済的に余裕がない人たちにも、政府の優遇政策によって建設された経済住宅や中古住宅という選択肢がある。

北京の古い通りや胡同(横町)の一部は、居住環境があまりよくない

 これらの住宅の面積は数十平方メートルから2、300平方メートルと異なり、形もさまざまで、その変化も速い。特に、メゾネット式など新しいタイプの住宅は、人目を惹いている。

 始めの頃は、狭い住宅から脱出したばかりだったためか、人々は大きな住宅を好んだ。居間だけで40〜50平方メートルもある住宅も少なくなかった。しかし住んでみると、大きすぎる住宅はコストもかかり、通常の掃除でさえもたくさんの時間と労力を費やし、負担となってしまう。人々は住宅を一つの商品としてしだいに冷静な目で見るようになり、要求も便利で実用的かつ個性的なものへと変わった。

 住宅事情の改善は、大きくてゆったりとした生活空間をもたらした。一家三世代が一緒に住む必要はなく、結婚した息子や娘は自分の住宅を持つようになった。しかし、新しい問題も出てきた。誰が年老いた親の面倒をみるのか?

北京市西城区の不動産取引市場

 親と同居すれば、二世代の間で理解できないことがたくさん発生する。生活習慣、消費観念、子どもの教育など、多くの事柄でジェネレーション・ギャップが生まれる。それらが上手く処理できないと、家庭の調和が乱れてしまう。親と別居すれば、親の健康状態や日常生活、衣食住や外出が心配になり、やはり安心できない。このような悩みを抱えている人は多い。

 この問題を考慮に入れ、住宅を購入する人も増えてきた。たとえば、大きな住宅を一軒買うのではなく、同じ団地または同じ棟に小さめの住宅を二軒買う。こうすれば自分の生活空間も確保でき、親の面倒を看ることもできる。

住宅販売所「北京三環新城」の前で、経済住宅を購入しようと列をなす人々

 住宅制度の改革後、職場は新入社員に住宅を提供しなくなった。就職して数年の若者は、ある程度のお金を持っていても、大きな住宅を購入するほどはない。そこで、数十平方メートルの小型住宅に目が向く。

 ハルビン出身の王涛さんは、北京の大学を卒業後、引き続き北京に留まって仕事をしている。数年間は賃貸でルームシェアをしていたが、そろそろ住宅を購入するつもりである。購入予定のものは、北京市の西部にある80平方メートルの小型住宅だ。頭金の不足分は両親に借りるという。毎月の支払いは現在の家賃とあまり変わらない。住宅を購入すれば、自分の不動産になるだけでなく、今後譲渡や賃貸をする場合、値上がりする可能性もある。

「我愛我家」という中古住宅の取扱いチェーン店は、北京市街区の各地にあり、中古住宅の売買や購入に関する情報を提供している

 市場が成熟するのと同時に、消費者の考え方もますます柔軟になっている。一部の人々は、値上がりする可能性がある場所に住宅を購入し、それを売ったり貸したりする。住宅の売買を投資の手段にしているのだ。近年、このような投資型の住宅購入者は増加の傾向にある。

 住宅購入の際、銀行のローンが重要な資金源となる。「明日のお金を今日に使う」ということは、ここ最近現われたばかりの消費観念である。ローンという形式を認めてはいるが、始終借金している状況にあることは、やはり心地よいものではないと思っている人が多い。自分は「負(債)人」(「負」は「富」と同音なので、それもかけている)であり、実際的には銀行のために働いているのだとみなしている人もいる。

 出版社で働く陶汪泓さんもローンで住宅を購入するつもりだ。しかし心理的に、負債という状況には慣れていないので、なるべく早くローンを返したいと考えている。「長くても5年、一家団結してローンを返していきます」

賃貸方法の多様化

 中国人の伝統的な考え方では、「家や土地を持って安住する」ことが人生の重要な追求だった。自分の家がなければ、安心感と生活の幸福感を得ることができないかのようだった。家を持ってこそ、社会の中で安定した基盤があることを証明できたのだ。

質やサービスなどが保証されているので、何らかの賞を獲得している分譲住宅は、売れ行きがよい

 しかし現在の若者は、もっと現実的な考え方をする。経済力がないので、賃貸住宅で生活するのが一般的だ。就職したばかりの若者は、なるべく早く家庭や親の制約から抜け出したいので、たとえ実家に住む場所があっても、自分で外に家を借り、自由な生活を送っている。

 職場が遠いため、交通費や時間がかかり、職場近くに家を借りて住んだほうが経済的だという人もいる。若い夫婦の中にも、住宅を購入して長期ローンを背負う毎日を送るよりも、一月数百元の家賃を払って、気楽な日々を送りたいと考えている人もいる。

 賃貸住宅に住むのは、都市に流れてきた地方の人が多い。全国各地からやってきた彼らにとって、都市は仕事をし、奮闘する戦場だ。多くは一人で出稼ぎにきている若者だが、中には、家族を呼び寄せている商売人もいる。いつか故郷に帰る人もいるし、都市に留まる人もいる。

人々の住宅事情を改善するために、北京市は都市の改造と住宅の建設を続けている。

 都市の賃貸住宅の多くは、販売した後に都市住民の手元に残った古い住宅だ。そうした市民が大家となり、家賃は彼らの重要な収入となる。30年前には、誰も想像できなかったことである。

 賃貸住宅に一家で住んでいる人もいれば、2〜3人でルームシェアしている人もいる。二部屋に7〜8人で住み、まるで寄宿舎のようなところもある。

 四川省出身の劉さんと羅茜さんは、昨年大学を卒業したばかり。中学・高校と6年間同じ学校に通った親友同士だ。二人とも北京で満足できる仕事を見つけた。

 卒業間近に、二人はインターネットで場所や価格が適当な賃貸住宅を見つけた。2LDKで家賃は1月1600元。2人は大きなほうの部屋に一緒に住み、もう一つの部屋はネットで募集した人に貸し出した。居間は3人で使う。新しくやって来たルームメートは、2人より2年早く大学を卒業した湖南省出身の男性。北京のソフト開発会社に勤めている。

 二人は、物を運んだり、電灯や水道管を修理したりと生活の中で男手が必要な時に便利だし、若い女性二人で住んでいては不安なこともあるからと、男性のルームメートを募集していた。羅さんは「三人で一緒に住めば、一人一人の家賃の負担も減るでしょ!」と言う。

北京市の西第四環状道路沿いに建設された「世紀城」2期分譲住宅

 劉さんも、見知らぬ男女が一緒にマンションを借りることは、何も驚くに値することではないと考えている。「契約する前に、お互いに身分証を見せ合い、それぞれの勤務先を確認しました。問題はないと思います。三人とも仕事が忙しく、帰宅後もそれぞれ自分のことをします。交流する機会はあまり多くありません」。両親は心配していないのかと尋ねると、「羅茜さんとは非常に仲が良い友達なので、両親も安心しています。もしルームメートがみんな知らない人だったら、ちょっと面倒だったと思います」と答えた。

 若者たちにとって、このような賃貸方法は手軽でごく普通なことだ。数人で一緒に一つの住宅を借りれば、お互いに助け合うことができ、もしそりが合わなかったら別れればいいのだから。しかし年配者は、伝統観念の影響から、どこか腑に落ちない。(2005年5月号より)



 ▽ 1999年以降、北京市の不動産の市場取引面積は急速に増加している。一方、市場取引価格はこの6年間下落しており、2004年の市場取引平均価格は、前年と比べ1平方メートル当たり600元下がった。(偉業顧問公司の分析より)

「新浪」(中国の大手ポータルサイト)の不動産コーナーは、北京市の不動産発展の詳細な情報を提供している


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