欠かせない家族の一員
高鵬さん(30歳)は不動産会社でプロジェクトマネージャーをしている。妻の馬さんは別の不動産会社でマーケティングの仕事をしている。この業界は競争が激しく、プレッシャーもかなり大きい。2人は、夜の10時以降になって、ようやく帰宅できる毎日だ。 帰宅した2人を迎えてくれるのは、1歳半になる飼い犬の「閙閙」だ。「ナオナオ」は、ギンギツネのように、全身は真っ白な長い毛に覆われ、尻尾はまるで満開の白菊のように美しい。主人が帰ってきたのを知ると、自分の玩具をくわえてきてまとわりつく。一緒に遊びたいとアピールしているのだ。そこで、高さん夫妻は「ナオナオ」を連れて外へ出て、緑地を走り回らせてあげる。これは、一家にとって至福のひとときで、一日中忙しく働いてきた高さん夫妻も、心身をリラックスさせることができる。
2人は、「ナオナオ」を自分たちの子どものように思っている。忙しい生活のなかでも、毎日、「ナオナオ」のために、ドッグフードを用意したり、体を洗ってやったり、さらには一緒に遊んだり、散歩に連れて行ったりすることを欠かさない。特別な事情があって、「ナオナオ」の面倒をみることができない場合は、馬さんのお姉さんの家に預ける。「ナオナオ」は、そこでもしっかりと面倒をみてもらえるのだ。 馬さんの姉夫妻は、ある研究院に勤めている。よって、生活リズムも馬さん夫妻よりは規律的で安定している。また、家の近くには広い緑地があるため、「ナオナオ」を思う存分遊ばせることができる。馬さんのお姉さんは「ナオナオ」が大好きで、他にペットを飼おうとは考えていない。「『ナオナオ』がしばらく姉の家に行っていると、家の中が寂しくなり、とても恋しくなります。『ナオナオ』は欠かすことができない家族の一員となっているのです」と馬さんは話す。
高さんはペットを飼うことについて、「実は、高齢者のほうがペットを飼うのに適しています。今の私たちのような仕事は、ペットを飼うのに向いていません。『ナオナオ』は一日中、独りで家にいて、とても孤独なのですから」と話す。高さんの両親の家では、ペットを飼っておらず、2人の老後生活は穏やかで規律正しい。「母は、私たちが犬を飼っていることに反感は抱いていません。時には『ナオナオ』を預けることもあります。しかし、子どもがいたらもっといいのにと言います」。高さんは両親の思いを理解している。両親は一日も早く孫を抱きたいと願っているのだ。 高さん夫妻は今、仕事の上で発展期にあるので、あと数年は一生懸命努力し、さらに前進したいと考えている。将来の生活のためにより良い基盤を築こうとしているのだ。そこで、子どもを持つことは、もう少し待たなければならない。 馬さんは、「『ナオナオ』を飼うことで、私たちは子育ての気持ちを体験しています。将来、本当に子育てをするときに役立つのではないかしら」と冗談交じりに話す。 生活のパートナーに
大都市では、高さん夫妻のようにペットを飼う家庭が一般的になった。早朝や夕方、住宅街の付近の緑地や並木道では、たくさんの人が犬の散歩をしている。 こういった現象はここ十数年のことで、それまでは、一般の中国人家庭でペットを飼うことは少なかった。一部の人が暇つぶしのために猫や金魚、ハト、小鳥などを飼うだけで、都市で犬を飼っている人はほとんどいなかった。農村で犬を飼うのは、番犬にするためだった。 改革開放以降、人々の生活は変わった。熾烈な市場競争がもたらした大きなプレッシャー、どんどん速くなる生活リズム、家族の小型化、平屋に取って代わったコンクリートのマンション……。人々は、閉塞感と孤独を感じるようになった。
そこで、ペットを飼う楽しみに気が付いた。当初は、先に豊かになった人にしか犬を飼う余裕はなく、高級な犬はあまりいなくて、中国でもっともよく見かけるペキニーズでさえも1万元以上した。しかしここ数年、ペットの犬の種類はどんどん増えており、価格も少しずつ下がってきた。もともと1万元以上した犬も、今ではたった数百元で購入できる。それと同時に、一般の人々の生活もよくなったので、家で犬を飼う人も増えてきた。 犬を飼うのが好きなのは、中高年が少なくない。ほとんどが、すでに定年退職をしているか、あるいは子どもが成人して家を出てしまった人である。これまでの忙しい仕事や生活から突然解放されて、静かな暮らしになり、それに順応できなくて戸惑う。そんなとき、人の心に通じている犬は、飼い主の孤独を紛らわし、楽しいパートナーとなってくれる。
数年前に定年退職した郭さんは、毎日公園に行って体を鍛えている。家では習字をしたり絵を描いたりと、ゆったりとした生活を送っている。郭さんの一番の楽しみは、週末になると息子が孫を連れて会いに来てくれることだった。しかし昨年、息子一家はオーストラリアに移民してしまった。その際、飼っていた小犬を郭さんの家に置いていった。 郭さんはもともと、ペットに興味はなく、「巴巴」という名のその小犬を、仕方なく飼ったに過ぎなかった。しかし幾日もたたないうちに、「バーバー」は息子一家を恋しがり、目に涙をためて、何も食べず何も飲まなくなった。これを見た郭さんは、驚くと同時にとても感動した。そして「バーバー」を慰めているうちに、2人は気持ちが通じ合うようになったのだ。 それから後、郭さんが遠く異郷に住む息子や孫を思い出すたびに、「バーバー」は傍にやって来て鳴き、郭さんのズボンの裾をくわえて外へ引っ張っていくようになった。2人で外の緑地を何回かまわると、気分がよくなる。今では、2人は互いに頼り合って生きている。郭さんは「バーバー」のためにタバコと酒をやめた。また、退職金のかなりの部分を「バーバー」のために使っている。 広がるペット産業
ペットを飼うのは、高齢者だけではない。1人っ子である小中学生の子どもの相棒にするために、ペットを飼う家庭も少なくないし、一部の若者の間では、家で美しいペットを飼うことが、興味本位からはじまって1種のステータスとなっている。 犬や猫だけでなく、蛇やキノボリトカゲ、カメなど奇妙で醜い動物を飼いたがる人さえいる。北京野生動物保護センターのホットラインは、もともと野生動物を救助するためのものであるが、最近は、「珍獣」の診察を求める専用ラインとなっている。「珍獣」を飼うのが好きなのは、若い女性にも少なくないそうだ。 ペットブームによって、大都市には巨大なマーケットが形成された。ペットのために専門のサービスを提供する病院、美容院、写真館、テーラーなどが相次いで出現し、スーパーマーケットでは、ドッグフードやキャットフードだけでなく、犬猫専用の玩具、衣服、小屋、ボディーシャンプー、香水なども売っている。 北京の北郊外に新しく建設された住宅地は、居住環境がゆったりとしているので、大型犬を飼っている家が少なくない。そこで、その近くに「国都ペット公園」がオープンした。園内には噴水広場や広い緑地、林が作られ、人々は愛犬を連れて遊びにやってくる。
このペット公園の中には、ペットの美容訓練学校「北京派特盟技術訓練センター」もある。同校の李瑩瑩校長の紹介によると、中国のペット業界にはまだ関連の規準がないので、同校では、香港で学び国際認証を獲得した教師を招聘して授業を行っている。 この訓練クラスの学費は安くはなく、1カ月7000元もかかる。しかし、受講希望者は多く、ペットショップの店主のみならず、一般の飼い主もやってくる。ここでは愛犬を美しくするための勉強だけでなく、グルーミングやかかりやすい病気などの基礎知識も学ぶことができる。 動物愛護とペットマナー
高鵬さんと馬?さんが犬を買ったのは、一時の衝動からだった。白い綿毛の鞠のような「ナオナオ」に一目惚れし、あまりためらうことなく買ったのだ。 愛情と責任感のある家庭では、ペットは家族の一員のように面倒をみてもらえる。しかし責任感がなく、命を大切にしない人もいる。彼らはペットをおもちゃのように扱い、遊び飽きたときや引越しをするとき、またはペットがケガや病気をしたときに、まるでゴミのように捨ててしまう。社会はこのような行為を激しく非難しているが、なくなりはしない。 その一方で、心温かな人は、捨てられたペットを自発的に引き取って飼ったり、ケガや病気の手当てをしている。北京の昌平区には、捨てられた小動物を専門的に救助する民間機構「人と動物の環境保護科学普及センター」がある。このセンターを設立した張呂萍さんは、捨てられた小動物を救うため、十数年来、自分の精力と財産を惜しまずに投入してきた。これまでに救った小動物は合わせて千匹近くになる。
張さんが小動物を救っていることは、多くのメディアや社会から広く注目されている。積極的にセンターへやって来て仕事を手伝う人も少なくない。一部の企業や個人も、センターに物資支援を行っている。張さんもさまざまな機会を利用して、動物への愛や生命尊重の道理を広めている。 動物に対して思いやりを持つかどうかという問題のほか、ペットと人間の間の摩擦やペットを飼っている人と飼っていない人の間の矛盾も、日増しに社会の焦点となっている。 都市の住宅街を歩くと、ペットの糞便の痕跡をよく見かけ、不愉快になる。夕方、散歩をしていると、つながれていない犬が突然走ってきて、子どもやお年寄り、犬恐怖症の人を怖がらせる。見知らぬ犬同士が顔を合わせると、互いにほえあって、人々をうんざりさせる。マンションの廊下やエレベーターで、威勢のいい犬や大型犬に出くわすと、緊張して胸がドキドキする。犬にかまれてケガをする事例も発生している。
ペットをかわいがっていても、程合をわきまえていない人もいる。ペットを自分の子どものようにみなし、隣近所の人に出会うと「ホワホワちゃん、おじさんにあいさつしなさい」などと言う人がいる。より親密感を出すためにそうしているのだが、他人にとっては不愉快だということに気づいていない。 中国人にとって、ペットを飼うことは新しい事象なので、必要な公徳意識を持っていない人もいるし、国家の関連法規も十分でない。政府も社会もこの問題には非常に関心を寄せていて、北京市では1994年に犬を飼うことに関する規定を制定した。その施行後、2003年には、各種の現実問題に合わせた管理規定(参考データ参照)が新しく発表された。そこには飼い主の道徳や行為に対する規範がある程度、盛り込まれている。(2005年11月号より) |
▽ 2003年に制定された北京市の犬を飼う管理規定の一部 ・病院や学校の構内、学生の寄宿区域で飼うことは禁止。 ・天安門広場と東・西長安街、及びその他の主要道路での散歩は禁止。 ・北京市の8つの市街区では、1戸あたり1匹しか飼ってはいけない。気性が荒い犬や大型犬は飼ってはいけない。 ・飼い主は専門の動物診療機構で犬の健康検査を行わなければならない。その際、狂犬病予防のワクチンを無料で注射してもらい、健康免疫証を受け取る。 ・犬を飼う管理サービス費:1匹あたり初年度は1000元、その後は毎年500元。 ・目が不自由な人の盲導犬や体が不自由な人の介護犬は、管理サービス費を免除。避妊手術を受けた犬や生活が困難な独居老人の犬は、初年度の管理サービス費が半額。 ・市場や商店、商業街、ホテル、公園、公共緑地、学校、病院、展覧館、映画館、劇場、スポーツ施設、コミュニティーの公共ジム、娯楽施設、駅の待合室など公共の場所には犬を連れて入ってはいけない。 ・タクシー以外の公共の乗り物に犬を連れて乗ってはいけない。犬を連れてタクシーに乗るときは、運転手の同意を得なければならず、口輪をはめたり犬用の袋やかごに入れたり、またはしっかりと抱いていなければならない。 ・犬を連れてエレベーターに乗るときは、込む時間を避けなければならず、口輪をはめたり犬用の袋やかごに入れたりしなければならない。 |
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