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デパートの下着売り場で下着を選ぶ戈紅聯さん |
流行の服を身にまとった専業主婦の戈紅聯さん(38歳)は、はつらつとしていて、実際の年齢よりかなり若く見える。子育てをしながら、心の問題や家庭・結婚の相談に応じるボランティア機関の活動にも参加している。
下着(インナー)のことを話題にすると多くの人はきまり悪そうにするが、戈さんはアッケラカンとしている。そのうえ、自宅のクローゼットを開けて、さまざまな色、デザインの下着や寝間着を披露してくれた。
「体に合った下着を身につけてこそ、上に着る服がきれいに見えるのです。それになんだか元気になれますよ。このような軽く柔らかくて美しい寝間着は、家庭生活に華麗さを添えてくれます。ロマンチックで温かいムードもかもしだしてくれますし」。戈さんは下着を上に着る服と同じように重要視しているのだ。
買い物の際には、必ず下着売り場を覗くという。もし、デザイン、色、価格が適当だったらすぐに購入する。「去年、広州で気に入った寝間着を見つけ、色違いを5〜6枚買いました」と言いながら、それらを体に合わせてみせてくれた。
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南京市のデパートが開催した下着のファッションー。2006年の新型の下着が展示された |
戈さんの身近にいる数人の友人たちも、下着のデザインや品質にこだわり、そのためにはお金を惜しまないという。「普段のおしゃべりの中で、下着が話題になることはあまりありませんが、夫婦関係や夫婦生活について話すときは下着や寝間着のデザインなどに触れますよ」と戈さんは笑いながら話す。
現在、街には下着の広告が増えている。きれいなモデルの大胆な広告看板を目にしても、街ゆく人々は平気なようすだ。デパートで下着を選ぶ人々も余裕があり、これまで「秘め事」であったはずの下着が、ごく普通に話題にされる。「セクシー」という言葉を美的価値の一つとして受け入れる人も増えてきた。
かつての下着
中国の女性はかつて、「肚兜」と呼ばれる腹かけを使っていた。これは胸と腹を覆うもので、背中の部分は空いている。胸のふくらみを強調するブラジャーという概念は、1930年代にハリウッド映画を通して伝わったものだ。
その後、中国でも体にフィットするコルセットや胸の形を整えるブラジャーなどが出現したが、それを使用していたのは、ごく少数のオシャレな女性だけで、一般の女性にとっての下着とは、袖なし肌着とズロースが主だった。
70年代まで、女性の下着は簡単かつ質素で実用的であればよいと考えられ、何のかざりもなかった。
戈紅聯さんは少女のころ使っていたブラジャーについて、「白い木綿で作られたもので、後ろにホックがついていました。前でボタンをかけるタイプや、袖なし肌着のように腰まであるものもありました」と話す。
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中国の女性がかつて使用していた「肚兜」 |
当時、下着のデザインは3〜5種類しかなく、デパートのカウンターに、手のひらほどの大きさに畳まれ、紙箱の中に積み重ねられていた。購入の際は、自分のサイズを告げると、店員は包装紙でしっかりと包み、見えないようにして渡してくれた。
中国では伝統的に、下着は他人に見せるものではなく、人に見られるのは非常に恥ずかしいことであると考えられていた。洗濯した下着でさえ、人目があるところには干せなかった。
店員と客の間でも暗黙の了解があるように、下着を広げて選ぶ人はおらず、その場で試着しようなどと考える人はもちろんいなかった。そこで、もしサイズが合わなければ、自分で家で直すほかなかった。
下着を手作りする女性もいた。年配の女性は節約のためだったが、手先が器用な若い女性の場合は、より美しく、より体に合わせるためだった。
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クローゼットから出して広げられた戈紅聯さんの下着の数々 |
80年代中期、日本の下着メーカー・ワコールが中国市場に進出してきた。中国初の海外下着ブランドである。このとき受けた大きな衝撃を、多くの中年女性は今でもはっきりと覚えている。
50代半ばの王春華さんは、ワコールの下着を見たときのショックを次のように話す。「シルクと同じような軽くて薄い素材で作られたブラジャーを見たのはあのときが初めてでした。色は白のほか、ピンク、ベージュなどもあり、レースがついているものもありました。一目見たとたん心が踊り、ブラジャーとはこんなに美しいものだったのかとびっくりしました。しかし価格はものすごく高く、ちょっといい上着と同じくらいでした」
高いとは思ったが、オシャレが好きだった王さんは、思いきって160元を払い、ボディースーツを一枚買った。「当時そのような下着を身につけている人はあまりいませんでした。でもその上にワンピースを着れば、バストアップとウエストシェイプができ、着心地もよいですし、スタイルもよく見えたのです!」と王さんは笑いながら当時のことを思い出す。その下着はもう着られないが、今でも大切にしまってあるという。
世代間のギャップ
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広州交易会で中国産の下着を買いつける海外のバイヤー |
戈紅聯さんが初めてブラジャーを買ったのは14歳のころ。母親がデパートへ連れて行ってくれた。「女の子は大きくなったらブラジャーをしないと見苦しいのよ、と母に言われたので、ブラジャーは恥を隠すものだというのが最初の印象でした」と話す。
10歳になる娘の月月ちゃんは、まだブラジャーをつける年頃ではないが、母親の美しい下着に興味シンシンだ。つける真似をしながら、「私はいつこれをつけられるの」とよく聞いてくる。そんなとき戈さんは、「それをつければさらにきれいになれる時が来たらね」と答えている。
「娘はこのようなことに対して、少しも気恥ずかしく思っていないようです。何でも包み隠さず私に聞いてきます。私が娘と同じ年頃のときは、恥ずかしくて母親に話せないことは隣のお姉さんにこっそりと聞いていました」と戈さんは感慨深げに話す。
現在、デパートには、白やベージュなど単調な色のものは少なくなり、色とりどりの華美な下着が並ぶ。さまざまな色やデザインのレースが施され、オシャレな下着はより美しくなっている。
個人個人の需要に応えて作られた現在の下着は、奇抜なデザインのものや、いろいろな機能をもつものが増えている。シェイプアップのほか、マッサージや保健効果があるとうたい、販売を促進しているメーカーもある。下着ブランドも数多くあり、お気に入りのブランドを持っている人も少なくない。
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街のいたるところにある下着の広告 |
寝間着の選択肢も多い。素材はシルク、綿、綿麻混紡など、タイプはパジャマ、ネグリジェなどバラエティーに富む。
価格も数十元から数百元と幅が広い。一般的に、20〜30歳の女性はあまり価格を気にせず、色やデザイン、素材などを見て、美しさや保健性、そして上に着る服に合うかどうかを重視する。
一方、年配の女性は消費感覚が異なり、「私のような世代は、いい時代に間に合いませんでした。オシャレに目覚めた青春時代には、こんなにたくさんのモノがなかったのです。今はもう歳なので、高額のブラジャーを買う必要もありません。数十元のもので十分です」と王春華さんは言う。それでも、寝間着にはこだわっている。着心地がいいので、綿100%のものしか買わない。
戈さんによると、美しいシルクの寝間着を親しい間柄に贈る友人も少なくないという。斬新かつオシャレで、気の利いたプレゼントとなっているようだ。(2006年6月号より)
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