自信を取り戻す

張蘭英さんは整形後、若かりし頃の自信を取り戻した
 張蘭英さん(56歳)はある美容センターで受付の仕事をしている。一緒に仕事をしているのは、ほとんどが20代の若者だ。若い同僚たちは、張さんの年齢が自分の母親と同じぐらいであるにも関わらず、張さんを「蘭英姉さん」と呼ぶ。

 張さんは2年前に、目の下のたるみ取り、二重まぶたなどの美容整形手術を受けた。「顔だけじゃなく、心まで若返りました。気力があふれてきましたよ」と、まるで昔に戻ったかのように、仕事に全身全霊を注ぎ、余暇もダンスや水泳などをして健康と体形を維持している。時には、若い同僚たちと一緒にディスコに行くこともあるという。

 張さんはかつてバレエダンサーだった。中央バレエ団で15年間踊り、33歳で引退した。1980年代半ば、中国では社交ダンスが流行り始めていたので、ある会社から社交ダンスの指導員として招かれた。その会社は90年に美容センターを設立し、当時40歳だった張さんはそこで働き始めた。しかし3年前、その美容センターは閉じられることになり、仕事を失ってしまったのだ。

「人造美女」で有名になった楊媛さん(右)は「人造美女コンテスト」で、自著『私は人造美女だ』を観衆にプレゼントした

 「あのとき、自分に対してまったく自信がなくなり、毎日、自宅や近所でマージャンを打っていました。あっという間に老けてしまい、更年期症状まで突然現れたのです。重い不眠症のため、しょっちゅう客間で一晩中ぼんやりしていました」と当時の状況を振り返る。

 かつてステージ上で美しく踊っていた張さんにとって、日に日に老けていく自分の顔や何もやることがない現状を直視するのは非常につらかった。

 そんなとき、ある友人が別の美容センターでの働き口を紹介してくれた。張さんはこの仕事を非常に大事に思い、自分の青春や美を取り戻すために、整形しようと思い立った。

 しかし実際に心を決めるまでは簡単ではなかった。何人もの医師に相談し、家族とも率直に話し合って支持を得た。「手術したら、本当に若い頃の姿を取り戻すことができました」と、張さんは満足げに話す。

韓国ドラマで普及

上海のある医院は、美容整形では最先端とのイメージが強い「韓国式」整形の広告を出している

  中国で美容整形が一般に知られるようになったのは1990年代初期のこと。それまでは、整形というと事故や先天性の原因による身体の欠損部を治療、修復することが主だった。最初に美容整形を試みたのは、一部の俳優たちと美を追求する中年の女性たちだ。

 一般の人々は初めの頃、顔を整形したと聞いても、どうしてそんなに多くのお金をかけて自分の顔を変えるのか理解できなかった。整形して若返り美しくなった顔を実際に見ても、自分とは関係のない別世界のことだと思っていた。

 しかし20年以上の改革・開放を経て、中国人の生活は物質面で大きく変化したばかりか、精神面でも一新した。人々は外の世界を知ると同時に、古い考えや習慣の束縛から徐々に抜け出した。美容整形もしだいに社会に広まり、関心を抱いたり、試してみたりする人が増えた。

 ここ数年、中国でも韓国ドラマがブームになっているが、韓国スターたちは整形していると言われており、そのことが美容整形の普及を助長している。病院の形成外科(中国では一般病院の形成外科でも美容整形手術が行われている)や美容センターを訪れる人はますます増え、上海市第9人民病院の形成外科の統計によると、91年から02年の10年余りで、美容整形手術を行った人は3倍に増えたという。ほかの大都市でも年々増加の傾向にある。

死より老を恐れる

整形手術を行う北京邦定整形・美容医院の尹林医師

 北京邦定整形・美容医院の形成外科の副主任を務める尹林医師は、美容整形の仕事をして20年余りになる。

 尹医師によると、美容整形を行うのは25〜40歳ぐらいの女性が多いが、中高年の数も増えていて、60代の人を受け持ったこともあるという。「『死は怖くないけど、老いるのは怖い』と考える中高年の方が多くいます。特に40代、50代の方々は『文革』に青春を奪われた世代なので、社会環境がよくなり、家庭の負担も減り、経済的にもゆとりができた今、美容整形を通して失われた青春を取り戻したいと考えているのです」と分析する。

 張蘭英さんは、周囲の人々で自分の整形について悪く言う人はおらず、大部分が理解して受け入れてくれているという。夫や息子は最初は反対していたが、それは心配からだった。

 張さんが現在働く美容センターは、祝祭日や学校の長期休暇の期間が最も忙しい。ベット数が足りなくなるほどだ。休みを利用して整形手術を受けに来る大学生も少なくない。「ほとんどが3年生や4年生の女子学生です。より美しい容貌で、よい仕事を探したいと考えるからでしょう」と張さんは理解を示す。

 就職がますます難しくなっている現在、求職者たちは自分のセールスポイントを最大限にアピールしたいと考えている。もし学歴や才能が同じレベルなら、当然、容姿によって左右されるのだから。

美も資源の一つ

河南省出身の出稼ぎ労働者、王玉林さんはあるスターと同じ容貌になりたいと希望した

 2004年、整形に関する興味深い騒ぎが起きた。

 ファッションモデルの楊媛さんは、自分があまり売れない原因は容貌が普通すぎるためだと考え、11万元かけて11回整形を施し、「人造美女」(整形美人)となった。

 そして04年、国際的なミス・コンテストの北京予選で初戦、準決勝などを勝ち抜き、決勝に進んだ。しかし「人造美女」にミスコンの参加資格があるかという議論が巻き起こり、法廷にまで持ち込まれる騒ぎとなったのだ。

 楊さんは紆余曲折を経て、かえって有名になり、モデル業のかたわら、女優活動をしたり、自伝を出版したりして、一躍、時の人となった。

 このことから、一部の人は美容整形を現状を変え名利を得る近道と見なすようになった。彼らは美貌と才能はどちらも重要な資源で、教育を通して知識や能力を高めるのと同じように、整形を通して美しさに磨きをかけ、成功をつかんで何がいけないのかと考えている。

広東省中山市の美容整形医院は王玉林さんに無料で顔の整形を施し、華南地区初の「人造美男」を製造した

 現代社会では、美は重要な経済要素の一つとなっている。求職、キャリアアップ、そして結婚にまで密接に関係しているのだ。もちろん、多くの中国人は、個人の美を追求する権利を認めつつも、こういった「一夜のうちに名をあげる」ような行為にはやはり賛成しがたい。美の究極は自然の美しさであり、学識や才能がもっとも重要だと考える人が多い。

 「中国人の美容整形に対する理解、関心、試行はまだ初期の段階にあります。自分の美意識をもっと高めなければなりません。スターの写真を持ってきて、このような目にしてくれとか、あのような鼻にしてくれとか要求する人がよくいますが、彼らは美とは個性的なものであり、全体のなかで調和がとれていることが大切で、自分に合ってこそ美しいのだということをまだ理解していないのです」と尹林医師は話す。

 尹医師はまた、中国の美容整形業はまだ規範が整っていない部分があると指摘する。美容医療の資格がない美容センターが規則を犯して整形手術を行っている例もある。こういったことが手術の失敗を招き、手術を受けた人の心身を傷つけるだけでなく、業界全体に対して悪い影響を与えている。


参考データ
 

○100万人
   2005年、中国で美容整形を行った人数は100万人を突破、毎年200%の伸びで増加している。

○第5の消費の柱
   美容・整形産業と化粧品産業でおもに構成されている「美容経済」は、毎年20%以上の伸びで発展している。「美容経済」は不動産、乗用車、電子情報、観光につぐ、第5の消費の柱となっている。

○一般的な整形手術
   中国で一般的に行われている美容整形手術は、二重まぶた、目の下のたるみ取り、こめかみリフト(こめかみや目尻の周囲のしわやたるみを引き上げる)、豊胸、脂肪吸引など。(参考費用:北京邦定整形・美容医院では、二重まぶた、目の下のたるみ取り、こめかみリフト、隆鼻の4つの手術がセットで約1万元)(2006年7月号より)


美容整形ブームが高まるにつれ、都市にはたくさんの専門医院が出現した

 
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