バーの雰囲気をエンジョイ

友人と一緒に北京のイタリア風のバーでビールを飲む李博さん(右から3人目)

  夕暮れ時、北京のあるイタリア風のバーに友人5、6人と一緒に飲む李博さん(48歳)の姿があった。オレンジ色の照明、落ち着いた耳ざわりのよい音楽、イタリアンビールの芳醇な香りにつつまれ、和やかで楽しいときを過ごしている。

 商売をしている李さんは、仕事の都合上、週に3、4日はバーでさまざまな友人と飲む。人との付き合い方として最も好きなのがビールを飲むことなのだという。ビールはアルコール度数が低いため、ほとんどの人が多少は飲める。バーで雑談や食事をするとき、ビールを飲むとその場が打ち解け、にぎやかになる。

 中国の都市には、すでにたくさんのバーが出現している。主に各種のワインやビールを提供するバーが多い。夜のとばりが降りると、日中忙しく働いた人々は、自分のお気に入りのバーで友人とおしゃべりをしたり、あるいは一人で酒を味わったりしてリラックスする。

街にはビールの広告が溢れている

 李さんは誰かと一緒にビールを飲むとき、その人の地元のビールをよく注文する。南方の人であれば「珠江ビール」、北方の人であれば「青島ビール」という具合に。東北の人は「ハルビンビール」に特別な思い入れがある。「北京の人だったら当然『燕京ビール』ですよ。だけど今日は、ヨーロッパに留学していた友人が2人いるので、このイタリア風のバーにやってきました。ヨーロッパのロマンチックな雰囲気に浸りたかったのです」と話す。

 もちろん、すべての人がバーの雰囲気を好むわけではない。葉林(46歳)さんは自宅派だ。ビールを飲むのは好きだが、仕事を終えて帰宅してから飲む。運転手をしている葉さんは、仕事中はいつも精神が緊張状態にある。昼間は酒が飲めない。そこで、夕食時にビールを一本飲み、心身をリラックスさせる。これは、彼にとって毎日の楽しみの一つだ。 暮らしの中に入り込む  中国では長い間、ビールを楽しむのはごく一部の人だけだった。以前は、ほとんどの人がその味を受け入れられなかったのだ。特に、アルコール度数が高い白酒(蒸留酒)や紹興酒(醸造酒)に慣れていた農村では、ビールは酒とはみなされず、お金を払って飲む値打ちはないとさえ思われていた。

 しかし生活が豊かになるにつれ、農村の人々もビールを受け入れ、好むようになった。今では、ビールは安くて酔いにくいため、棟上げや結婚、春節(旧正月)などの祝いの場で、必須の白酒を用意するほか、ケース単位でビールを買い、振舞うようになっている。もし酒席でビールが足りなければ、主人のメンツがたたないとまでいわれている。

若者に人気の北京三里屯バーストリート

 北方の麦畑では、夏になると農機具のそばで食事をしている人の姿をよく見かける。農家の麦刈りや種まきを手伝いに来た「麦客」たちだ。農家は彼らのために、ラオ餅(こねた小麦粉を丸く伸ばして鍋で焼いたもの)やゆでた落花生、各種のおかずに加えて、ビールも必ず準備しなければならない。ビールを添えてこそ、もてなしの気持ちを表せるのだ。

 建築現場では、出稼ぎ労働者たちが路肩にしゃがみこんで、夕食を食べながら道行く人々を眺めている姿をときどき見かける。彼らは、マントー2つとおかず一品、そしてビール1本を美味しそうに口にしている。

 都市では農村よりも早くからビールを楽しみ始めた。葉林さんは今でもはっきり覚えている。1980年代の初め、北京ではビールの供給が足らず、商店に行っても手に入らないことが多かった。そこで人々は、レストランで提供しているビールを求めた。瓶や缶ではなく、自分で持っていった容器やビニール袋に入れて持ち帰る。当時、一般の家庭には冷蔵庫がなかったので、ビールの冷たさを維持するために魔法瓶を持って買いに行くこともあった。ビールを買うために順番待ちをすることさえあった。

ビール祭りで早飲みを競い合う市民たち

 しかしレストランはビールだけでは売ってくれず、3リットル買うためには少なくともつまみを2種類買わなければならなかった。そこでよく、ゆでた落花生や醤油で煮込んだ肉を一緒に買ったと葉さんは振り返る。

 中国のビール産業は1980年代から急速に発展した。多くの都市が地元のビール工場を設立。生産量もどんどん上昇した。市場の大きな潜在力に引かれ、中国に進出する海外のビールメーカーも増えた。日本のアサヒやキリンのほかに、バドワイザー(アメリカ)、ブルーリボン(アメリカ)、カールスバーグ(デンマーク)、パウラナー(ドイツ)などの外国銘柄は、中国の消費者にもよく知られている。今では、バーやスーパーマーケット、デパートそして道端の小さな売店でも好きな銘柄を買うことができるようになった。 快楽の源泉  李博さんが若いころのビールの飲み方は、どのくらい飲めるかを競うものだった。「たくさん飲めることが『いい男』の証明だったのです」と話す。これについて葉林さんは、「あのころ、酒の席はいつも騒がしかった。飲みっぷりがよくないと、ばかにされたものだ。あまり飲めないと『男じゃない』と笑われるし、酔っ払うと『いくじなし』と言われた」と笑う。

北京で開催された「酒類博覧会」。各メーカーの展示ブースは人気を集めた

 しかし現実により人々の考え方は変わった。本当の価値は酒の席にあるのではなく、社会や事業の中にあるのだと分かるようになったのだ。「仕事や生活のプレッシャーが大きいため、みんなで集まる時間は最大の楽しみとなっています。酒の量を競い合うのは、つまらないことだと思うようになったのです」と李さんは言う。確かに、今日のビールの重要な効能は、人々の気持ちをリラックスさせ、日常のしきたりや束縛から解放させることにある。

 青島や大連、ハルビン、重慶、広州、北京などの都市では90年代から、ビール祭りを開催している。これにより、人々は快楽を自由に表現する理由とチャンスが与えられた。

 ビール祭りの最初の目的は、地元ビールのプロモーションにあったが、ビールメーカーが販促にいそしむと同時に、一般の人々も一年に一度のこの祭りを楽しむようになった。

 夏に開催されるビール祭りでは、飲兵衛たちはビールの試飲や早飲み競争を堪能する。多種多様のつまみも次々と登場する。スケボーやローラースケート、ストリートダンスなど流行のアトラクションが若者たちを引き付ける。伝統的な音楽もロックやジャズなど現代的な音楽とともに流れる。人々はビールの名を借りてお祭り騒ぎをする理由を見つけたのだ。 効能あれこれ  ビールは暮らしのいたるところに喜びをもたらしてくれる。すでに多くの人が、ビールは単なる酒の域を越え、多効能の飲み物であると考え始めた。夏は暑気を払う。冬は鍋料理や焼肉のお供として欠かせない。苦しいとき、ビールを飲めば悩みを忘れられる。うれしいとき、シャンパンよりも喜びの気持ちを表せる。

スーパーには国内外の各種銘柄がそろっている

 公園や郊外へのピクニック、旅行、汽車の旅、ビールは常備するものになっている。ワールドカップのような世界的なスポーツの大会で夜更かしするときのパートナーには、ビールのほかない。

 しかし一方で、都市には「ビール腹」の人が増えた。これまで少なかった痛風などの病気も、ビール好きの人々の中に現れるようになった。ビールのアルコール分を軽視し、飲んでから運転して事故を起こし、大きな代価をはらう人も出てきた。

 ビールを飲まない人の生活の中にも、ビールは潜んでいる。最近、北京の街角には「ビール・ローストダック」という看板を掲げたチェーン店が出現し、一年中にぎわいを見せている。「ビール・ローストダック」とは、適量のビールを混ぜた水の中に漬けたアヒルを焼いたもの。やわらかくてとてもおいしいと評判だ。

一般の家庭は、家の近くの売店でビールを買う

 牛肉や鶏肉の料理にビールを使うと、肉の臭みが取れ、やわらかくおいしく仕上がる。「ビール蟹」「ビール魚」「牛肉のビールあんかけ」「ビール鍋」などの新しい料理を提供するレストランも多い。その斬新な味は人気を博している。

 ビールを使った料理に啓発され、ビールを使った特製ドリンクを作る人もいる。炭酸水やコーヒー、紅茶と組み合わせると個性的な新しい飲み物が出来上がる。

 多くの家庭はビールをケース単位で購入する。飲み終わらずに賞味期限が切れてしまうこともある。そういうときは、植物にかけるといい。葉の緑はさらに鮮やかになり、花もさらに大きく美しく咲く。また、ビールを混ぜた水で髪を洗えば、髪の毛が柔らかくしなやかになる。家具を拭けばピカピカになる。このほか、洗濯に使ったり、冷蔵庫の中を拭いたりと、さまざまなところで効能を発揮する。(2007年2月号より)


参考データ
 

 ▽古代中国にも「醴」と呼ばれるビールに似たアルコール飲料があったが、漢代以後、麹で醸造する紹興酒に取って代わられた。

 ▽中国初のビール工場は、1900年にロシア人がハルビンに創設したもの。1903年にはイギリスとドイツ人が青島に酒造会社を設立し、それが青島ビール工場の前身となった。中国人自らが設立した最初のビール工場は、1904年にハルビンに出来た東北三省ビール工場。

 ▽中国のビール生産量は増え続けている。1978年には40万トン、1986年には413万トン、2005年には3189万トンに達し、4年連続で世界一。中国人の一人当たりの年間消費量は24.4リットル。

 ▽ローカルスーパーの缶ビールの価格
 燕京2.30元(約35円) 朝日5.50元(約82円) カールスバーグ5.80元(約87円)


ある展覧会で展示された種類豊富な中国国産ビール

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。