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この20数年にわたる中国の社会、経済の変化につれて、中国人の生活様式は大きく変化してきた。1999年の夏と秋に、北京大学社会学人類学研究所は、米国の未来研究所とともに『中国人の生活様式の変遷の研究』に関するアンケート調査を行った。調査地点は北京、上海などの7都市と3カ所の農村地区で、アンケートの質問は、家庭・結婚、流行、消費、娯楽、交通手段など多方面にわたる。アンケート調査の結果は、現代中国人の生活の現状や未来の生活の姿を示している。
この調査結果のデータはあまりに膨大なので、ここではその一部分を選び、調査を行った劉能氏に分析してもらった。
特集の「その1」で取り上げた項目に関して、実例を取材し、それを「その2」にまとめた。そこに書かれた具体的な実例から、現代中国人の生活の実像と考え方を理解していただければ幸いである。
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その一 |
広がるジェネレーション・ギャップ
北京大学社会学人類学研究所 劉能
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私たちは、65歳から15歳までの現代中国人を5世代に分け、世代ごとに同じ質問を行った。そして回収されたアンケートから、多くの問題に関して、年齢による差異が世代間格差(ジェネレーションギャップ)を生んでいるが、共通の文化・伝統の中で育ったために、五世代の人々は少なからぬ共通性を持っていることがわかった。
この世代は1945年以前に生まれたすべての人である。その中でも年をとった人の大多数は、20世紀初めの社会的動乱と混乱を経験し、軍閥の統治や抗日戦争、さらにそれに続く国内戦争を経験し、壮年のころに中華人民共和国の成立を目撃した。
比較的若い人の多くは、抗日戦争や国内戦争の時期に生まれ、新中国成立後の初期に成長し、自然に共産主義を信奉するようになった。
この世代の人たちは、戦乱後の国家の新たな統一と、新旧社会の鮮明な対比に深い印象を受け、同時に富強となった現在の中国に対しても深い感銘を受けている。
1946〜1955年の間に生まれた世代。彼らの中の多くはかつて「知識青年」の身分で農村に行った。そこで貧農と下層中農による再教育を受けるという名目だったが、実は、都市の就業圧力を軽減・緩和する犠牲者だった。彼らは新中国の旗の下で生まれ、共産主義の理念に対して熱情に満ちていたので、指導者の呼びかけに熱狂した。
しかし「文化大革命」は、国家に大災害をもたらし、この世代の彼ら個人も、農村に下放されて理想が壊されたり、多くの人が政治闘争や迫害を受ける状況の中で、家庭の離合集散による喜びや悲しみを味わったりするなどの目にあった。彼らの一生の中で文革はもっとも大きな影響を与え、彼らにとってもっとも貴重な、教育を受けるべき10年の歳月を浪費してしまった。このためこの世代の共通した特徴は、次の世代に対し、自分たちが若いころ実現できなかった夢や希望を託すことである。
1956〜1967年の間に生まれた世代。彼らは生まれるやいなや、3年連続の自然災害と文革に相次いで見舞われた。彼らの子どもの時代は、幸せの光がまったく射し込まなかったと言ってもよい。現代のように消費物資を享受することも無縁だった。これは二つの結果を生んだ。
第1。彼らは文革の世代とは異なり、理想主義の熱狂はなく、最初から幻滅し、物事を考える世代となった。
第2。彼らは子どものころ、後に続く二つの世代のように、小さいころからかなり高度の物質文明を享受するようなことはなかった。
この世代は、1980年代の中国の思想解放運動を推進した重要な力になり、同時に80年代の改革・開放の発展の潮流に身を投じた若き精鋭部隊となった。彼らの中の多くは、中国の次世代の政治・経済・文化の指導者となるだろう。
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上海の外灘で、「自由恋愛中」の若者たち |
1968〜1979年に生まれた世代。この中で、やや遅く生まれた人は、文革時代の動乱について子どものころの記憶は希薄であり、日常生活で享受する物資的条件はますますよくなった。その他の各世代と比べてこの世代の特徴は、おそらく、比較的整った現代の正式な教育を受けた現代中国で最初の世代だという点にある。私たちがこの世代を「サンドイッチ世代」と呼ぶのは、主として彼らの世代の知識体系が、前の世代の体系と後の世代の体系との間にあるからだ。その前の世代の知識体系はイデオロギー主導の体系であり、後の世代はグローバルな知識を人々がともに享受する体系である。
これは80年代以後に生まれた人たちである。中国社会が経済の高度成長の道をひた走り、中国が次第にグローバルな経済の重要な構成部分となるのにともなって、彼らも育った。このため、この世代の一つの重要な特徴は、大多数が家庭では「一人っ子」である点だ。彼らが成長した社会環境が非常に恵まれていたので、前の各世代とは価値観、趣味、心の中の偶像、社会的責任感などがみな異なっている。
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花で飾られた婚礼用高級車。結婚する現代の若者にとって必需品となった |
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結婚式を挙げる新郎、新婦 |
人口の急速な増加を抑えるために、1980年以後、中国は計画出産政策を実行してきた。さらに現代の結婚観の変化もあって、中国の家族構成は日増しに小型化している。1067人の調査で、2人から4人の家庭は七3・7%を占め、各戸平均では3・33人となっている。
結婚観に関しては、各世代で比較的大きな差異が現れた。とくに結婚や離婚の動機については、「父母のために結婚しなければならないかどうか」という問いに「ノー」と答えた比率は、《回復の世代》と《自分第一の世代》がかなり多かった。「子どものために、離婚すべきではない」との問題について、年齢が低いほど「ノー」と答える人が多かった。「経済的利益のために結婚してもよいか」という問題については、各世代とも「イエス」は少数だった。これは大多数が「経済のために結婚する」という考えに反対していることを示している。
「お金のために結婚する」のに反対するという以外にも、家庭や結婚観に関して各世代がかなり一致しているのは、「結婚後は必ず老人の世話をする」「結婚している人はより信頼できる」「夫婦がもし一致できなくなれば、離婚してもよい」「信頼と忠誠は結婚後の生活のもっとも重要な要素である」という点である。
中国文化の中には、子どもが「竜になる」(出世する)ことを望む観念がある。このため子どもの前途に関しては、答えがすべて一致する傾向を見せた。「子どもの将来のために全力を尽くすかどうか」を問うと、各世代ともほとんど一致して、とりわけ《文革の世代》と《回復の世代》は、子どもの発展のために良い条件を創り出すと答えた。これは、社会では多くの変革が起こっているにもかかわらず、中国の家庭文化の中では、子どもを重視する伝統が依然引き継がれていることを明らかに示している。
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日曜日だというのに、大人たちは仕事を忘れることはできない |
「子どもは独立して生活することを学ぶ必要があるかどうか」については、各世代とも意見はほぼ一致していた。これは、市場経済の浸透にともなって、競争力と独立性を備えることが、子どもたちの将来の発展に対し、ますます重要な作用を果たすということを、中国社会がすでに認識していることを示している。
この二つの設問の答えの中に、私たちは中国の家庭文化が次第に変容する可能性を見てとることができる。時代の進歩と地球規模の文明は日増しに融合し、個人の独立あるいは自立を強調する観念も、次第に中国社会の視野の中に入ってきた。
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表V 「私は子どもが将来、出世することを決して頼りにはしていない。子どもがただ正常な生活をおくればそれでよい」 |
こうしたグローバルな文明の融合の影響は、子どもに対する期待が変わって来たことに示されている。すなわち「私は子どもが将来、出世することを決して頼りにはしていない。子どもがただ正常な生活を送れればそれでよい」という考えに対して、【表V】に見られるように、各世代間にかなりの違いがあるものの、これに同意する者が多数を占めていることである。
これは伝統的な「竜になる」のを望む観念と相反するように見える。しかし、中国の開放がさらに大きくなり、西洋の家庭文化が浸透してきたことやマスコミの誘導によって、中国人の子どもに対する期待にも方向転換が生じて来たことを示しているのだ。少なくとも、観念上のニセの方向転換であるとしても、多くの人は自分の子どもが普通の人としての生活を送ることをすでに受け入れている。
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「将来は竜になれ」と、子どものコンピューター学習に付き添う親たち |
アンケート調査で私たちは、いくつかの子育てに関する問題を出した。その問題とは「子どもの養育は人生の楽しみである」「子育ては非常に煩わしい」「老後は子どもが面倒を見るべきだ」などで、人口の出生率が低くなっている中国では、人々はこの問題にどう答えるだろうか、を調べるためだった。
そしてその回答から、おもしろい現象がわかった。それは、子どもの養育の問題では、各世代で一定の差があるということだ。各世代とも多数の人が依然、子育てがある程度の楽しみをもたらすと考えているものの、それに反対する声がすでに出てきている。
性別で見れば、若い女性で反対の意見をもつ人が比較的多い。しかも、「子育ては煩わしい」に対する答えは、年がいった人ほど「イエス」と答える比率が高くなっている。父母になった経験のない《自分第一の世代》は、なんと「ノー」と答えた比率が最高になっている。これは実際の生活では「ディンクス」(とも働きで子どものいない夫婦)の家庭がますます多くなっている現象とは合致していない。
子どもの養育とは反対に、子どもが親を扶養することについては、一定程度、東洋社会特有の家庭文化の特質が見られる。回答の中でも依然として、子どもが親を扶養することに同意する人が、各世代とも多数を占めている。しかし否定できないことは、中国の家庭文化もまた変容の兆しを現し始めたことである。中年に達した《回復の世代》と《サンドイッチ世代》は、子どもが自分たちの面倒を見る必要はないという考えを明確に表している。
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ローラースケートも子どもの性格を鍛えるためだ |
社会的な人と人との交際の面で、中国人の社会的な助け合いネットワークは変化が起こっているだろうか。
「あなたは助けが必要なとき、次のどの人に助けてもらうことがもっとも多いですか」という問いに対し、「家庭のメンバー」が依然としてもっとも重要だが、かつては重要な意義を持っていた親戚とか隣人などの社会的助け合い関係における地位が次第に低くなる一方、同僚や友人など近代的な社会関係がますますその重要性を帯びてきている。
これは、同僚や友人の関係がすでに、助けを提供する重要な源泉になっていることを示している。「単位(職場)」「社長・指導者」という、かつては重要な役割を果たしていたこの二つは、「単位制度」の衰退と、現代社会では公私の峻別が強調されることによって、だんだんと社会的な助け合いの体系の核心部分から退場させられている。
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美しい環境の海浜都市、青島 |
中国人の付き合いの範囲がどう変わったか、その変化を推し量るために、私たちは次の三つの問題を設定した。
「この2、3年の間に、あなたの付き合いに、かなり大きな変化がありましたか」
「今後2、3年のうちに、あなたの付き合いの範囲にかなり大きな変化が起こるでしょうか」
「今後2、3年内に起こるかもしれない付き合いの範囲の変化は何が原因で起こるでしょうか」
調査の結果は、若い世代ほど、付き合いの範囲の変化は大きかった。
中国人の付き合いの範囲の変化は、現代中国社会の変遷の歩みと一致している。住宅の取り壊しと移転、分譲住宅の購入、新たな「社区」(コミュニティー)の出現が、人々の居住構成の変動、仕事の変化、業務の拡大、教育や訓練を受ける機会の増加、社会団体や組織、公共の活動への参加、新たな交流手段(例えばインターネット)の使用などをもたらし、これらはみな人々の付き合いの範囲を変えた。
《自分第一の世代》は、学校に行き教育を受けることを、今後、これによって付き合いが変化する主要な原因と見なしている。教育制度は篩のようなもので、人々の社会流動の方向を決定する。
また大多数の中国人にとっては、仕事は、各自が社会関係を変える一つの主要な原因である。近年、職業の流動速度と商業の拡大速度がだんだん速くなっている。これがある程度、人々の社会関係ネットワークの形と特徴に影響を与えている。
老人について言えば、社会団体の活動(とりわけ「社区」が組織するいろいろな活動)に参加することが、新しい友達を知る主要な手段となっている。
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高層ビルが林立する広州の天河区 |
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もっとも近代的な都市、深セン |
今日、中国社会の流動性は日増しに強まっている。多くの都市は次第に戸籍制限を緩め、人々の転居が実現する可能性が出てきた。社会的流動の程度を考察するために、私たちはとくに転居を願うかどうかに関する項目を設け、人々がもっとも理想とする居住地はどこかと尋ねた。
その結果、年のいった世代に比べ、若い各世代が転居を望んでいることが非常に明白となった。しかし、一般常識と違ったのは、彼らが第一に選んだ場所は沿海都市だったが、その次は外国だったことである。また、北京、上海、天津、重慶の直轄市はかえって人気がなかった。これは一面では、直轄市は大きすぎ、交通は混雑し、人間らしい生活環境に欠けていることと関係があるし、別の一面では直轄市への転居の規制がかなり厳しく、転居に要する費用が高すぎることとも関係がある。
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IT産業で働くホワイトカラーは高給取りだが、付き合いの範囲は日増しに狭くなる |
最後にいくつかの分析結果を補充したいと思う。
非常に明確なのは、社会と経済の発展の歩みが加速したため、中国人の生活様式はまさに、分化し、新しいものが形成される初級段階にあることだ。そして同じ世代の中でもその差異がますます鮮明になってきている。とくに《自分第一の世代》は、これを五つの小さな世代に分けることができる。
社会の変遷のテンポが速くなったために、3年から5年ごとに、人々の成長する環境と社会に雰囲気が大きく変化し、小さな世代の間にも隔たりがある。このため、今後、中国の世代と世代の間の時間的間隔は大いに縮小されるだろう。そして「世代」という概念は、生物学を基礎とする概念から、完全に社会学の概念に変わるであろう。
次に、アンケート結果から見れば、中国人は生活の中で、考えと行動が明らかに隔たっていることがわかる。その深い根源を探求すると、中国人特有の「面子の文化」に帰着する。つまり、人々は社会的評価を非常に重視し、実際の行動では、自分の立場と態度が一致しない行動をとる。これは一面では、過去の大衆社会が強く求めた社会的服従性が残した痕跡であり、もう一面では、伝統文化の中にある「社会的比較」を重視する要素の反映でもある。
例えば、調査した対象のすべての人が、自分は年とった父母の面倒をみることに「イエス」と答えてはいるものの、「父母は成人に達した子どもといっしょに住まなければならないか」との問いに対し、半数近くが「ノー」と答えている。
このほか、ほとんどすべての人が、自分はブランド品が好きだと答えているのに、本当にこれを買った人はきわめて少ない。また、多くの人が良い仕事を探し当てたいと希望しているが、自分には必要な技能が欠けていると認めている。
中国の五世代の調査を通じて、各世代に差があることがわかった。しかし同時に、世代と世代との間に連続性があり、とりわけ文化的価値観は継承されていることもわかった。中国の各世代は、とりわけ家庭や結婚、子どもの教育などの考え方において、かなり価値観を共有しているのだ。(2002年12月号より)
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