特集 世界に広がる中国語学習ブーム [専門家はこう見る]

中国語は質的に飛躍する
                   北京語言大学副学長、世界漢語教学学会秘書長 崔希亮

崔希亮さん(北京語言大学副学長、世界漢語教学学会秘書長)

 「1990年代以来、中国語ブームが現れた主な原因は、中国の国際的な地位が高まったからだと、私は考えています。国際的地位というのは、政治的地位のみならず、経済的地位のことでもあります。現在、多くの人が中国語を学んでいますが、一種の手段として学んでいて、面白いと思って学んでいるとは限りません。主として中国経済の発展の潜在力に注目し、それが大きな市場となると見ているのです」

 「1970年代にも、世界的に中国語ブームがありました。これと比較して言えば、今回の中国語ブームは主として3つの特徴があります。第一に、もっとも根本的な変化は、国費留学の学生が少なくなり、自費留学の学生が多くなったことです。第二は、中国に留学する目的がさまざまであり、多くの人が功利的な目的で留学してきていることです。第三に、以前は、世界各地からかなり平均的にきていた留学生が、今はその大多数がアジアから来ていることで、北東アジア、東南アジアからの留学生が多く、とりわけ韓国、日本、インドネシア、ベトナムからの留学生が多くなっています」

北京語言大学出版社は、フランスで開かれた第23回国際言語博覧会に参加した。劉傑先生はそこで観客たちに教材について説明した(北京語言大学提供)

 「もし、中国が現在の状況の通りに発展して行くと、中国語を学ぶ人はますます多くなり、それが一定程度にまで達すると大きな変化が起こるでしょう。それは質的変化と言ってもよいでしょう。現在、我々は、中国語を学ぶ人の数が増えていることだけを見ているが、多くの人は中国語を学んでも、会得してはいない、ちょっとしゃべれるだけで、使うことは出来ない。私が質的飛躍と言うのは、中国語を深く学び、使うことができるようになることを指し、1年学んでちょっと分かればよいということではないのです。現在、世界における中国語の地位は、それが本来、達しているべき位置にはまだ遥かに及んでいません。だから開発すべき大きな潜在力があるのです」

 

日本の中国語学習ブームに思う
                                 お茶の水女子大学教授 相原茂

相原茂教授(撮影・林崇珍)

 私が学生の頃は、中国語をやっていますというと、変わり者扱いされたものである。なにしろまだ中国とは国交も回復していなかった。

 それが今は「先見の明があったね」などと言われる。こんな時代になるとは想像もしなかった。もちろん私に先見の明があったわけではない。単に漢字で表される文字列に心惹かれるものがあっただけだ。漢文や中国の古典に得体の知れない郷愁を覚えたというぐらいの動機だ。しかし、中国語を学ぶのにこれよりも強い動機があろうか。

 つい先日、高校で中国語を教えている人と話をした。今年は70人ほどが中国語クラスを希望し、フランス語希望はゼロ。このアンバランスを調整するのに大変だったとのこと。どうやら高校生でも、これから発展する中国を意識しているようだ。

日本では、各種の中国語を教える学校が増えてきている。東京の中国語専門学校である「日中学院」もその一つだ。(写真提供・李鐘)

 勢いのある中国、経済的にも重要度を増しつつある中国。彼らの将来に、中国という国とその言語は何らかの関わりをもつようになるのではと予測しているのだろう。

 だが、かつては中国語の学習者というと、日中友好の理想に燃えていたり、中国の文化に憧れていたり、ともかく中国に心が傾いていた。精神的に何か惹かれるところがあった。少年の頃の私がそうであったように。それが今はないのではないか。全くないとは言わないが、希薄になってきている。

 実は学習者は、大学ではそんなに増えてはいない。横ばいか、やや減少傾向にある。これは大学が、必ずしも第二外国語を必須としなくなったこととも関わる。どうやら増えているのは社会人、つまりビジネスマンではないか。これは仕事の必要から手を染めざるを得ない人々だ。やむにやまれずの、まあ仕事みたいなものである。だから、中国語学習者が増えているといっても、そう手放しで喜んでよい情況とは思えない。精神的なものから、実利的なものへ変わっている。

中国語研究の学術団体「二四四会」で研究する相原茂教授(中央こちら向き)(撮影・林崇珍)

 学習者は増えていてもこの現象を「ブーム」とは呼べない。「ブーム」は熱く燃えるものだが、そういう熱気はない。

 しかし、どのような動機であれ、中国語は中国語である。真剣にことばを学ぶ過程において、学習者は中国語の特異性や面白さを知る。日本人にとっての中国語は、実に知的好奇心をそそられる対象である。

 例えば「たべる」は「食」かと思うと、これが「吃」と教わる。「のむ」は「飲」かと思うと、これは「喝」と教わる。「吸烟」の他に「抽烟」もある。かたや書面語的であり、かたや話し言葉だ。2つを比べてみると、日本人には書面語のほうが親しみがもてる。

アスク出版社から最近出版された『中国語旅行会話』。同社は26年の語学教材出版の歴史を持ち、現在、毎年、十数種の中国語関係の教材を出版している

  書面語:食 飲 吸
  話し言葉:吃 喝 抽

 現在、いろいろなチャンネルを通して中国語学習ができるようになった。NHKのラジオやテレビの中国語講座はもっとも国民に親しまれ、利用されているものだろう。4月のテキスト発売部数はそれぞれ十数万部に達するという。テキストが安価であり、また講師陣がしっかりしているので安心して学ぶことができる。

 さらに民間の各種学校があり、入門から上級、通訳や翻訳まで需要にあわせてクラスを選ぶことができる。

東京の書店で売られている中国語教材

 また最近は、パソコンを利用して直接、中国在住の講師と会話ができるサービスを提供するところもあらわれた。自分の部屋に居ながらにして留学の気分を味わえる。テレビも中国の中央テレビや上海テレビなどを中国と同じように楽しむことができる。ニュースやトークショー、ドラマなど、学ぶ素材はそろっている。実にすばらしい時代だ。やろうと決心し、時間とお金さえかければ誰でも中国語がマスターできる環境が整っていると言えるだろう。

 日中関係はこれからの両国にとってきわめて重要なものになってゆくだろう。互いを正しく理解するのに、言語を通しての理解ほど強固なものはない。中国語の学習はますますその必要性が高まるに違いない。(2005年7月号より)


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