特集4  アジアで固く手を結び、欧米へ進出を
中国電影集団公司総経理インタビュー

中国映画産業の明るい未来を描いている韓三平総経理

  中国の映画産業の現状と展望について、中国電影集団公司(中影集団)の韓三平総経理に話を聞いた。

  ――あなたが映画の仕事に携わってからの経歴をお聞かせください。

  韓三平総経理(以下、韓と略称) 私は1975年に映画の世界に入り、監督、北京映画製作所の所長を経て、2003年から現職に就いています。映画の仕事を始めて、もう30年以上になります。私が中心となって撮った映画は250本、中国では多いほうでしょう。30年余りの私の経験からみると、ここ5年来の中国映画は、もっともよい状況にあると言えます。

  これまでの30年の中で、75年から85年の10年間は、他の国家と同じように、中国の映画も非常に輝いていた時代でした。映画は、唯一無二のもので、他に代わるものがない大衆メディアです。この10年間は、何をどのように撮ってもお金になったと言ってもいいでしょう。このとき、映画はたいへん大きな産業となったのです。

  85年から95年の10年間は、科学技術が発展し、外国文化が大量に流れ込んできました。さまざまな娯楽の消費方法が出現し、娯楽はその形式から内容まで多種多様になり、空前の繁栄を迎えます。これにより映画は、かつての京劇と同じように大きな打撃を受けるのです。

  体制から見ると、映画は産業ではなく、計画経済における宣伝文化という位置付けだったため、その敷居は高く、一般人や外国人は気軽に映画を作ることができませんでした。そこで映画は大きく衰退しました。しかし、転換期の必然的な現象の1つであったとも言えます。

昆明市に設立された新しいシネコン

  ――ここ10年、第5世代監督は、多くの作品を生み出していますが、これをどう見ますか。

   彼らの成功は、主に芸術面に体現されますが、当時の中国映画の体制は、すでに明らかに時代から立ち遅れていました。映画の思想性や芸術性を強調しすぎると、映画の娯楽性が軽視されます。上部構造は発展した経済的土台に伴って調整をしなければ、かえってその発展を制約することになります。中国の映画産業は深刻な危機を招いたのです。

  折悪しく、このときハリウッド映画が中国市場に大量に流入し、観衆をさらっていってしまいました。中国映画は瀬戸際に立たされ、この間の最低の年間生産量はたったの80から90本でした。全盛期には、年間300本以上を生産していたのにです。さらに恐ろしいことには、これらの作品の半分以上が赤字だったのです。

事業から産業へ

  95年以降、中国政府と映画の関連業界が活路を求め始めました。まずは体制上の改革を行い、かつての事業を産業へと転換させました。少しの違いのように思えますが、性質を根本から変えたのです。事業では公益効果ばかりを唱え、見返りには言及しません。しかし産業は、投入するものも大きいため、必ず見返りを求めます。現在、中国映画1本あたりの平均投資は、800万から1000万元です。

  映画を文化産業にし、政策の上でその敷居を大幅に低くしました。民間資本や海外資本も映画の製作、配給、上映業に参入できるようになりました。これにより、映画業界は大量の資金を得ただけでなく、映画の経営に新しいメカニズムや理念が導入されることとなりました。中国映画はようやく、経済発展の法則に合致した正常な道を歩み始めたのです。

  ――政策の調整後、具体的にどんな変化が現れましたか。

   ここ5年、中国映画は新たに繁栄する兆しが見えています。役者の出演料設定制度が始まり、プロデューサー主導制が実際に機能し始めました。役者の出演料は、完全に市場によって決定され、彼らの多くは自分のマネージャーを持っています。中国の出演料の設定は、たぶん日本とは異なり、ハリウッドのメカニズムに似ていると思います。

北京映画製作所のオフィズビルのロビーに聳え立つ労農兵像。後ろは毛沢東の揮豪「為人民服務(人民に奉仕する)」

  映画復活の兆しは、主に中国本土に現れています。同時に、国際市場での影響も拡大し始めています。かつての中国映画の成功は、国際映画祭に進出し、芸術の範疇にありましたが、現在は商業の範疇で、何度も成功しています。例えば、アン・リーの『グリーン・デスティニー』、周星馳の『カンフー・ハッスル』、張芸謀の『HERO』や『LOVERS(十面埋伏)』など。特に陳凱歌の『THE PROMISE』にいたっては、中影集団が投資した映画はまだ公開上映されていないのに、上映権の販売によってすでに世界中から投資を回収しているのです。

  ――新興技術とメディアはしばしば映画に大きな打撃を与えますが、今のところそれらとどのように共存していますか。

   経済が急速に発展し、テレビ、カラオケ、インターネット、電子ゲーム、携帯電話などの新しい娯楽から受けた打撃は、最初は大きなものでした。しかし、しばらくすると、それらから刺激を受けて新しい突破口を得たり、それらの場を借りて大量の投資を回収したりするようになりました。

  今では、映画の収入において、興行収入は一部分でしかなく、主要ではありません。テレビ、インターネット、ゲーム、広告などが映画のコスト回収を助けてくれるのです。新しい映画産業の運営パターンが形作られています。版権により、多種の媒体や方法を通して、また長いスパンでコストを回収することができるのです。映画収入の潜在力は、とてつもなく大きいと言えます。

  ――最近の中国の映画市場をどう見ますか。

   製作と配給の連結が重大な突破口を得たのは、97年の正月映画『夢の請負人(甲方乙方)』でした。私は当時、北京映画製作所の所長をしており、馮小剛監督と相談して香港・台湾の手法を用いることにしたのです。まずは中国人の伝統祭日「春節」(旧正月)にねらいをつけ、企画からマーケティングまで十分に調査しました。結果、庶民的なこのコメディ作品は、成功を収めたのです。これは、映画の潜在市場の存在とその見返りの大きさを物語っています。

映画の楽しみ方が多様化

伝統的な映画館も立派なシネコンに改築されている(北京青年宮)

  もちろん、映画館へ行って映画を観る人は確実に少なくなりましたが、このことは映画の絶対観衆が減っていることを意味してはいません。映画を楽しむ方法が多様化し、観衆が分散しただけのことです。

  しかし考えなくてはいけないのは、テレビで放映する映画の見返りがまだ適当でないことや、海賊版DVDの存在が健全な映画市場に大きな損失を与えていることです。これらの問題は、今後少しずつ解決されるでしょう。また、映画を観る人々の観賞水準が全体的に向上することも、映画の品質の改善に長期的な影響をもたらすことでしょう。

  現在、中国の都市市民が各種の方法で1年間に観る映画は、少なくとも平均10本というデータがあります。都市人口を3億人として計算すると、1年間にのべ30億人が映画を観賞しているのです。韓国とフランスでは最近、映画の観衆が全人口の15から30%に達しました。

  もし中国で、1本の映画の観衆が全人口の15%に達すると、のべ2億人近くになります。チケット1枚が10元(約140円)だと想定すると(実際は10元よりはるかに高い)、興行収入は20億元(約280億円)です。

  しかし、中国映画で過去最高の興行収入の『HERO』でさえ、2億4000万元で、たったの800万人余りしか動員していません。全人口の0.6%ほどです。経済の発展と都市化が加速するにつれ、観衆の人数を制約するタガが外れつつあり、ますます多くのシネマコンプレックスが建設されています。映画産業は前途有望なのです。

  ――グローバル化のもと、中国映画はどのようにハリウッド映画に対していきますか。

   私は、中国のような文化伝統の豊かな大国の興味や文化要求を変えることは、ほとんど不可能だと考えています。ハリウッド映画はある国の映画を消滅させることができるかもしれませんが、中国の映画は不可能です。

グローバル性を重視

武侠映画は東洋的なアクションとして世界にその魅力を再認識させた。今後、中国映画の世界進出を支える有力な資源にもなるだろう。

  中国はインドとは違います。映画産業の盛んなインド西部の都市ムンバイ(旧称ボンベイ)は、アメリカのハリウッドになぞらえ「ボリウッド」と呼ばれて、本国映画を守る堅固な市場となっていますが、海外に進出することは難しい。少しローカルすぎるからです。

  私たちは中国映画のローカル色だけを一方的に強調するのではなく、グローバルな共通性も表現するように注意しなければなりません。正月映画のように庶民の日常生活に接近し、みんなを楽しませる作品や、『グリーン・デスティニー』のように、想像力が豊かな作品は、たくさんの人を喜ばせ、国境を越えてさらに多くの観衆を得ることができます。

  中国の物語は、ハリウッドの監督たちを魅了しています。クエンティン・タランティーノは、『ドランク・モンキー酔拳』をリメークしたいと言っていますし、オリバー・ストーンは『花木蘭』(ディズニーは『ムーラン』としてアニメートとした)を撮りたいと言っています。

  今後の中国映画の市場戦略としては、大陸部を中心として香港・台湾と固く手を結び、日本や韓国に進出し、欧米にも浸透させていきたいと考えています。日本における中国映画の潜在力はとても大きいと思います。もし、産業構造と投資構造の上で可能ならば、大陸部、香港、台湾、日本、韓国の五地域で投資を回収します。こうすれば、中国映画の足場は固まるでしょう。

  これは日本映画にも利があります。例えば、日本の監督、中国の役者、香港のカメラマン、韓国の女優、あるいは中国の監督、香港・台湾の役者、日本や韓国の音楽など、さまざまな組み合わせで、東洋の芸術家の最高傑作が生み出されるのです。そして、それらの作品は1000万から1500万ドルの収益をあげることによって投資を回収し、欧米に浸透できる資格と条件を持つのです。実際、このような大作の企画について、撮影に入る前に、上述の国家や地域と合資の面ですでに検討を行いました。今後、こうした地域間での合作の道がますます広がることと信じています。このことは、地域文化の振興にもよい影響を与えるのです。(2005年12月号より)



 
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