特集2
流行の秘密はどこに |
胡さんがよく見るフラッシュアニメのテレビ番組『閃天下』は、一週間に四日、放送されている。視聴者はネット上のフォーラムや携帯電話のショートメッセージを通して、自分の好きな作品をリクエストすることができる。 インターネットに接続すれば、各大手ポータルサイト上のアニメページで、数多くのフラッシュアニメを見たりダウンロードしたりすることができる。また、フラッシュのグリーティングカードの専門サイト「卡秀」(カードショウ、www.kaxiu.com)などもあり、祝祭日には好きなカードを友人の電子メールに送信することができる。中国では、環境保護の意識が高まるにつれ、ペーパー式のグリーティングカードの需要は減り、こういった電子カードがそれの代用品となっている。 さらに、もし胡さんの携帯電話がインターネットに接続できるならば、携帯電話用のフラッシュアニメをダウンロードすることもできる。CDショップに行けば、フラッシュアニメのDVDを買うことができるし、アニメグッズの店には、フラッシュアニメのキャラクターグッズがたくさんある。 胡さんの従兄の李炎さんもアニメが大好きだ。今の男子学生は、多かれ少なかれ、みんなフラッシュを使って遊んでいる。李炎さんも例外ではない。彼は時々、従妹の胡さんの写真を持ち出して、フラッシュの中でそれを左右に揺れ動くゴキブリの姿にかえて楽しんでいる。
また、数年前には大学の自習室の席取り合戦をラップ調で歌った『大学自習室』という歌に合わせて作られたフラッシュアニメが大流行した。これを知らない若者はいない。各地からやってきた大学生が一堂に会したとき、共通の話題がなければ、『大学自習室』を歌えばいい。そうすれば自然に親しみがわき起こる。 それでは、フラッシュアニメの魅力はどこにあるのだろうか? なぜこんなにも流行しているのだろうか? お笑い第一主義 フラッシュアニメが流行したのは、まずそれが若者文化であるからだ。その最大の特徴は、気楽で自由なこと。作品は恋愛系、お笑い系、動作系、時事系、ミュージックビデオ系など数種類に分けることができるが、中でも最も作品数が多く、人気を博しているのはお笑い系だ。 中国の大手サイトのほとんどが、フラッシュアニメのランキングを行っている。各サイトのランキングとも、お笑い系の作品が約半数を占め、人気も非常に高い。こういった作品がネット上で発表されると、二〜三日後にはもう、ちまたの話題となる。そのため、フラッシュは新しい笑いの手段を提供していると言う人もいる。フラッシュアニメの魅力は、「お笑い第一」というスタンスにあるのだ。
前述した『大話三国』は、非常に人気の高いお笑いアニメである。このシリーズはすでに三十作以上発表されており、その一部は『草船借箭』(草船で矢を借りる)や『三英戦呂布』(三英雄、呂布と戦う)、『桃園結義』など『三国志』を題材としたもので、そこに現代的な内容をふんだんに取り入れているだけだ。 周瑜や諸葛孔明などが広東語を話し、携帯電話を持っている。彼らはときどき英語を交えて話したり、小さなプラカードを上げて質問に答えたりする。ポストモダン版の『三国志』と言えるだろう。また、『大話世界杯』(ほらふきワールドカップ)や『黒客事件』(ハッカー事件)などの作品は、『三国志』のストーリーからはかなり離れ、登場人物のイメージと性格だけを使って、彼らを現代社会に放り込み、笑いのタネにしている。 お笑い系の作品は、『大話三国』のような歴史を茶化したもののほか、時事を風刺したもの、名作映画をパロディー化したもの、学校生活を叙述したものなどがある。このほか、方言もよく笑いのタネにされる。例えば、ある歌手が悲しいラブソングをリリースし、それが広く流行すると、ネット上ではすぐさま、河南弁や山東弁、重慶弁などで歌った「カバーバージョン」が発表され、非常に誇張して、笑いをとる。
このようなフラッシュアニメは、若者たちに人気の香港の映画スター・周星馳(チャウ・シンチー)の映画を思い起こさせる。これらには、気楽で面白く、名作をパロディー化するのが大好きで、遠まわしに周りの人や物事を風刺するのを好むなど共通点がある。彼らのお笑いは、現実の生活と密接に関係しているのだ。 専門家から見れば、これらの作品には深みや意義がなく、優れたものだとは言えないだろう。しかしこういった作品がフラッシュアニメの人気を上げ、若者たちのお笑いや冗談に対する渇きを満たした。それらは、青春期の反逆心、まじめすぎる生活への反抗を体現しているのだ。かつての「怒れる若者」と比べると、この世代の若者の反逆心はより温和で、反抗するときも冗談まじりに行う。
手軽さもフラッシュアニメが広く人気を博している理由の一つだ。パソコンに少し通じていれば、簡単な技術を学ぶだけでフラッシュアニメを制作できるようになる。敷居が低いフラッシュは、人々により多くの自己表現の場を提供しているのだ。 中国では、新聞、雑誌、図書などの出版物やテレビ、ラジオなどのメディアは、まだ完全には開放されておらず、これらのメディアが制作するものは、関係部門の許可と監督を経なければならない。ここ数年の新聞やテレビ番組は、かなり大衆化されてきているが、こういったところから発信される情報は、やはり何度もの審査を通り抜けた選りすぐりのものなのである。一般の人々が、特に何のキャリアも社会経験もない平凡な若者が、こうしたメディアを通して自分の意見を発表することは非常に難しい。
しかしインターネットは違う。新聞や雑誌など従来のメディアに比べると、容量が大きいので、一般の人々に自己表現する場を十分に提供できる。発表する内容が、反政府的、ポルノ的、暴力的などでない限り、どんなに取るに足りない事柄や日常生活のこまごまとしたことでも流すことができる。これが、表現の場を渇望していた若者たちを引き付けていることは間違いない。 2001年、各大学でブロードバンドサービスが始まった。学生たちの宿舎には、テレビやDVDプレーヤーがなくても、パソコンがないことはほとんどなかった。インターネットは当時の大学生にとって、最も大切な娯楽で、彼らのありあまる精力とパワーを発散する最高の場だったのだ。 学生たちは当初、掲示板への書き込みやチャットに熱中していた。しかし文字でのコミュニケーションには、フラッシュアニメのような痛快さはなかった。そこで、フラッシュアニメを見たり作ったりすることにハマり始めたのだ。
男子学生の多くは恋愛中、フラッシュアニメを作って恋人に思いを伝えた。失恋するとそのやるせなさを作品に表してネット上で流し、自分の気持ちを他人と分かち合った。 大学を卒業したばかりの周潔さんはフラッシュアニメについて、「初めは興味なかったわ。でもボーイフレンドが強く勧めるので、いくつか作品を見てみたの。そうしたらすっかり夢中になっちゃって……。だって、自分の心の声を表現しているんだもの。『大学自習室』のような歌や東北弁で歌ったラップなどが、テレビで放送されることはあり得ないでしょ」と話す。 周さんはコンピューターの授業でフラッシュの技術を少し学んだことがある。その際、ボールが転がる映像を制作した。非常に時間がかかったが、とても興奮したという。なぜなら、美術を学ばなければ漫画を描くことはできないし、監督の勉強をしなければ映画を撮ることはできないが、どんなに絵がヘタでも、考えがつまらなくても、フラッシュを使えば、自分が思い感じたことをみんなに伝えることができるからだ。多くの人が、当時はフラッシュに、現在はブログにハマっているのはまったく同じ理由である。 テレビによって助長
フラッシュアニメは、インターネットにより若者たちの間に普及した。そしてテレビにより、その影響力は各年齢層の人々に広がっている。 最近、フラッシュアニメのテレビ番組が増えている。例えば、前述の『閃天下』は、中国の大手フラッシュサイト「閃客帝国」(フラッシュ帝国)と提携して、ネットとテレビで同時に『狼婆婆』(狼ばあさん)というシリーズのフラッシュアニメを流し、小中学生だけでなく、彼らの保護者までも引きつけている。 西安テレビ局の『西安零距離』という番組は、フラッシュアニメを用いてニュースや事件を伝えようと試みており、視聴者からの作品も募集している。中央テレビ局の『軽松時分』(リラックス時間)や『快楽駅站』(楽しい宿場)もフラッシュアニメを導入した番組だ。これらの番組の中で影響力が最も大きいのは、やはり『快楽駅站』だろう。 04年10月、わずか十分間の番組である『快楽駅站』は広く好評を博し、視聴率も上位に名を連ねた。『快楽駅站』は、伝統的な民間芸能をフラッシュアニメに作りかえて紹介する、新しい感覚の番組だ。 例えば、『起名字』(名前を付ける)という作品は、有名な単口相声(一人で演じる漫談)の大家・馬三立の同名作品を改編したもので、馬三立が演じる声を単純でイキイキとしたアニメキャラクターに被せ、本来の抽象的な会話をユーモアたっぷりの画面で表現している。本物の相声が再現されて視聴者に懐かしい記憶をよみがえらせ、そしてアニメの形式によって、これまでにない面白さが加わる。 番組プロデューサーである林遠さんは、『快楽駅站』は大人をターゲットとしたアニメ番組としてスタートしたが、視聴者の反応を見ればその目的は達成していると話す。現在、『快楽駅站』の視聴者は、小中学生や二十代の若者のほか、これまでフラッシュとは何かさえも知らなかった中高年にも広がっているという。 中国の伝統的な考え方では、アニメや漫画は小学生や幼児が見るものである。そのため、日本アニメにハマる「漫画世代」の若者は、年長者から幼稚だとか教養がないなどと咎められていた。しかし、『快楽駅站』などの番組により、偏見を抱いていた中高年もフラッシュアニメという娯楽を徐々に受け入れつつある。(2006年4月号より) |
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