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劉世定教授 |
いまや彼らなしには、都市が機能不全になるほど、質、量ともに巨大な存在になった農民工は、これからどうなって行くのか。彼らが都市に定住すれば、耕地はどうなるのか……この問題に詳しい北京大学の社会学部と社会学人類学研究所の教授であり、中国社会・発展研究センター主任の劉世定さんに話を聞いた。
――社会学学者として、農民工をどう評価していますか?
劉世定教授 現在、農民工はすでに中国のブルーカラーとなりました。彼らの出現は、中国の都市化が加速されることを示しています。農民工は、中国の都市化の推進者と言ってもよいでしょう。
――将来、中国の都市化はどう発展していくと思いますか?
劉教授 中国は巨大な人口があり、将来、中国には、超大規模の都市群が現れるでしょう。統計によると、中国の人口のピークは16億人になる見込みです。かりにそのうち10億人が都市に入ってくると、人口1000万人の大都市が百都市、必要となります。つまり北京や上海と同じような規模の都市が百都市、必要になるのです。
これほど大規模の都市化は、どの先進国も経験したことがありません。近隣の日本なら、少し比べることができます。日本は国土が狭く、人口が多い。東京のような人口密度が高い大規模の都市群は、中国にとって、重要な参考になります。
大きな農村社会から超大規模な都市社会へ転換するには、大きな変化に直面しなければいけません。このような都市社会を管理することに、中国にはまだ経験がなく、管理する能力にも限りがあります。
広東省の東莞市はもともと、人口わずか百万人だった小さな都市でしたが、現在は800万人以上に達し、その中に多くの農民工がいます。社会治安の維持だけを考えれば、このような都市にはかなりの規模の警察が必要です。しかし、東莞の警察の規模は、以前と変わっていません。ただ、訓練を受けていないガードマンを少し増やしただけです。そこには間違いなく、大きな問題が存在しています。
もちろん、多くの地方で、この問題の検討が続けられています。例えば、広東省の経済特区、深セン市には、数年前から、深センで数年間働いた農民工は、中等専門学校の卒業証書を持っていれば、深センの戸籍がもらえるという規定があります。こういう方法で、農民工がその地の法律を守り、自分の知識レベルを高め、良き市民になるように奨励しています。
――農民工は都市に入ってから、多くは流動的で安定せず、生活水準も都市の市民とかなりの格差があります。これは中国社会にどのような影響をもたらすでしょうか?
劉教授 農民工を長期間、流動的な状態に置き、彼らが心理的にその土地になじまないと、少なくとも治安上、安全が保証できません。また、都市に多くの「二等公民」が長期的に存在するのは、公平でないばかりでなく、都市の管理もうまくいくはずはありません。
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農民工の出現は、中国の改革のペースを加速した |
経済発展の角度から見れば、もし農民工が都市に定住することができず、自身の素質を高めることもできず、ただ弁当を食べながら、なんとか節約してためたお金を家へ送金し、それで建築材料を買って住宅を建てるだけなら、文化教育や医療など潜在的な経済発展のチャンスは小さくなり、都市の安定した市場もなかなか形成できません。
ですから、長期的にみれば、農民工をだんだんと安定させ、都市に定住させなければなりません。中国の一部の地方で、すでにこれを模索しています。例えば東莞では、農民工が定住できるように、小型で、安価な住宅を建て始めています。
同時に、国も農民工に社会保障を与えるべく、政策を調整し、新たな政策を打ち出しています。これはすべての人にかかわる大切な問題です。都市の基本的な保障がなければ、いったん経済が不景気に陥ったら、大量な失業者が出て、非常に深刻な問題になるからです。
そのほか、農民工に対する教育も必要です。改革・開放や産業の高度化に連れて、農民工も都市の発展と変化に追いつき、それに適応しなければなりません。だから国は、農民工の教育計画を打ち出し、現在、各地で実施されています。
――農民工が都市へ出稼ぎにくることによって、中国の労働賃金が比較的低く抑えられる結果になっています。このような状況は続くと思いますか?
劉教授 労働集約型の企業や技術をあまり必要としない企業なら、現在のように農民工が流動的な状態にあることは、企業の負担を軽くします。同時に、労働力の競争が激しくなるので、雇い主は労働賃金を低く抑えることができます。
現在、政府は、農民工の待遇を良くする一部の政策や措置を打ち出しました。しかし、別の問題にも直面しています。例えば、外資が重視しているのは中国の安い労働力であり、もし労働者の賃金を高くすれば、コストが増えるので、外資は別のところへ移っていくかもしれない、という問題です。
中国は広いので、競争は市場だけではなく、各地の政府の間でも競争があります。各地の政府が外資や市場を奪いあっています。これが、雇い主が低い待遇で労働力を雇用できる外的な条件を与えているのです。
沿海地区にある一部の輸出企業は、もともと廉価な労働力の優位性によって国際市場のシェアを占めてきたので、利潤を伸ばす余地は、本来、大変小さい。もし労働者の賃金をアップすれば、企業はやって行けないのです。
この問題を解決の道はもちろんあります。それは企業構造の再調整や市場全体のモデルチェンジにかかっています。廉価な労働力に頼らないのであれば、技術的なイノベーションに頼るほかはありません。それにはさらに高い技術やより優れた加工能力が必要です。それらの能力を私たちは高めなければなりません。
だから、廉価な労働力市場は、これから数年間続くとしても、永遠に続くことはないと私は考えています。
――農民が出稼ぎに出た後、耕地はどうなりますか?
劉教授 中国の農地は少なく、長期的に見て土地を荒廃させることはないと思います。土地の又貸しすれば、借りた農民の土地は大きくなり、農民の個人の収益は増えます。もし、耕地からの収益が出稼ぎよりも大きければ、一部の働き盛りの農民は耕作を続けるでしょう。
長期的に見れば、中国の大問題は、土地の荒廃ではなく、都市化による土地の占用です。中国で都市の発展にもっとも適した場所は、まさしく農業の発達したところなのです。例えば、珠江デルタ地帯や長江デルタ地帯はもとは食糧生産の盛んなところでした。
国は耕地占用の制限や節水型の都市建設を打ち出しています。私は将来の中国の都市の発展は、日本のような、つまり家が隙間なく建ち並び、上へ上へと発展するなどの特徴を持つべきだと考えています。(2007年3月号より)
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