北京五輪いよいよ
北京オリンピック 準備着々と
                            王浩 沈暁寧=文 王浩 沈暁寧 馮進=写真

北京オリンピックのメーンスタジアム「鳥巣」の建設工事は順調に進んでいる

 「八」という字は、日本では「末広がり」、中国でも「吉祥」を意味している。北京オリンピックは、ちょうど一年先の2008年8月8日午後8時に開会式を迎える。

 世界各国から数万の選手や報道陣、それに数十万の観光客がやってくるだろう。

 いま、北京のいたるところでクレーンが動き、巨大な体育館や競技場の工事や交通網の建設が急ピッチで進んでいる。

 多くのボランティアがすでに働き始めた。だが、オリンピック精神の普及や市民のマナーの向上も大きな課題だ。

 開会式や閉会式、競技会場のチケットの予約受付も始まった。公平、公正にチケットが配られるよう、さまざまな工夫が凝らされている。

 すべての面で北京はいま、大きな試練の場に立たされている。開幕まであと一年。北京オリンピックの準備は――


2008年オリンピック北京地区競技会場分布図

特集1           新しい都市づくり目指して
 

 中国で初めて開催される北京オリンピックは、北京の街そのものを大きく変貌させている。地下鉄など交通網が網の目のように広がり、巨大な競技施設が姿を現し始めた。

 しかし変貌するのは外見ばかりではない。多くのボランティアが活動を始めた。人々のマナーや公衆道徳も少しずつ変わり始めている。

 オリンピックを契機に、北京は新しい都市に生まれ変わろうとしている。

地下鉄など3路線が開通

山東省済南でも、70歳を超した郭玉倫さんがお年寄りたちとともに自転車で市内を回り、オリンピックの宣伝活動を行っている

 朝8時ごろ、北京の東直門一帯は、出勤する人々でごった返す。ここは多くの路線バスの始発駅になっているばかりでなく、北京の地下鉄環状線と都市鉄道13号線との重要な乗り換え駅となっているからだ。

 東直門の立体交差橋の北東の角に、巨大な囲いの工事現場があり、建設機械がうなりをあげている。これは、東直門と北京空港を結ぶ「快速鉄道空港線」の建設現場である。

 この線は全長28キロ。空港と市内とを結ぶ最初の鉄道で、オリンピック開幕前に開通する予定だ。そうなれば、オリンピックを見に北京にやってくる人々は、空港から直接、電車で市内に行ける。沿線の交通混雑も緩和される。

 これまでのオリンピックでは、主催都市は、程度の差こそあれ、どこも交通問題を抱えていた。1996年のアトランタ・オリンピックでは、千人以上の選手やチケットを持った観客が、競技会場へ行くバスを長時間待たなければならないという事態が起こった。北京ではどうだろうか。

進んでいる北京市の交通網

 実は、北京の交通渋滞もきわめて深刻である。マイカーが増え続け、それにつれてますます交通が不便になり、市民たちの頭を悩ませている。この難題を解決し、オリンピックが順調に進むよう、北京市は、軌道交通を大いに発展させる方針を決めた。

 2002年から、市政府は、もともとある3本の軌道交通(1号線、2号線と都市鉄道13号線)に加えて、9路線の軌道交通を新増設することを計画した。そのうちの3路線は、オリンピック開幕前に開通する。同時に、80%以上のオリンピックの競技場や体育館を、この軌道交通の近くに建設する。人々がオリンピックを見に行くのに、軌道交通が一番便利な交通手段となる。

 また、市民が路線バスに乗って出かけても便利なように、市政府は、「バス優先」の原則を確立した。バスや地下鉄などの都市交通がすべて乗れるプリペイド・カードを割引きで発行し、切符なしで、カードで乗れるよう簡素化した。このカードを「一カー通」といい、文字通り1枚の「カー」(カード)で何でも乗れる。さらにオリンピック開催期間中は、オリンピック用のバス専用道を設置して、選手団の移動を保証することにしている。

 北京市の王岐山市長は「オリンピックが開催される二十数日間、北京の交通は絶対に問題を起こさないことを保証します」と約束している。

31の競技施設ができる

建設中の国家体育場

 永定門を起点として南から北に正陽門、紫禁城、景山、鼓楼、鐘楼と続く建造物は、北京という都市のもっとも重要な中軸線を構成している。昔の北京城は、この中軸線を中心に発展した。現在、この中軸線の北端の延長線の両側に、新たに二つの建造物が加わろうとしている。それは「鳥巣」と呼ばれる国家体育場と「水立方」と名づけられた国家水泳センターである。

 巨大な「鳥巣」に足を踏み入れると、心が揺り動かされるように感じる。この体育場の主な構造は、すべて鉄骨を組んで造られている。一本一本の白銀色の鋼柱と「鳥巣」の外形は、ポストモダンの建築美学の特徴をみごとに現している。ここで北京オリンピックの開会式と閉会式が行われる。場内の座席数は9万1000に達する。

 このプロジェクトを担当している国家体育場有限公司の総合弁公室の付宝光・副主任によると、「鳥巣」は、中国中信集団公司を代表とする企業連合体である「中信連合体」と北京市が共同で投資して建設されるもので、「中信連合体」が42%出資し、市政府が58%を補助する。協定によると、オリンピックとパラリンピックが終了してから30年間、国家体育場有限公司が、ボックス席の収入やスポンサーの入札などの経営と開発を担当することになっている。

八王墳―通州区を結ぶ都市鉄道「北京八通線」 

 「鳥巣」のように、政府と企業が共同で出資して建設し、一定期間、企業に経営権を付与する方式は、今回のオリンピックで初めて行われるものである。その目的は、オリンピック後のスポーツ施設を引き続き使用できるよう保証するとともに、施設の公益性にも配慮するためである。このほか、企業と政府が共同出資することによって、より多くの社会資本を吸収することができる。その他の北京のスポーツ施設の新築も、多くは、このモデルによって造られている。

 「節約してオリンピックを開く」――これは、北京オリンピックの基本方針の一つであり、スポーツ施設の建設もこのように行われている。

 北京オリンピックでは全部で28競技、300余の種目の競技が行われるが、馬術、ヨット、サッカーの予選が香港、青島、上海、天津、秦皇島、瀋陽で行われる外は、すべての競技が北京で行われる。主催者は競技施設の建設に当たって、もともと北京にある一部の体育場や大学の体育館を総合的、統一的に利用することにした。例えば、工人体育場(サッカー)や首都体育館、北京理工大学体育館(いずれもバレー)などである。

 こうしてオリンピックで使われる北京のスポーツ施設は、新築が12、改築が11、臨時使用が8となった。北京オリンピック組織委員会の蒋效愚・執行副主席は「2007年内に、『鳥巣』を除くすべての競技施設はほぼ完成する。『鳥巣』は開会式の会場となるので、内部に一部の特殊な設備を作る必要から、遅れて08年3月ごろに完工する」と言っている。

活躍する40万の都市ボランティア

蒋效愚・北京オリンピック組織委員会執行副主席(写真・劉世昭)

 最近のオリンピックでは、ボランティアはすでに不可欠な存在になっている。国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ主席は「ボランティアはオリンピック精神を代表しており、オリンピック運動の基礎であり、オリンピックのイメージ・キャラクターである」と述べている。北京オリンピックでも、ボランティアの募集は、重要な組織活動の一部となっている。

 開幕2年前の06年8月8日に、北京オリンピックと北京パラリンピックのボランティアの募集が正式に始まった。競技の必要から、今回のオリンピックとパラリンピックのボランティアは全部で10万人が必要である。その内訳はオリンピックが7万人、パラリンピックが3万人。競技会場のボランティアは主に、北京の大学生と一部の市民から構成されるといわれる。

 だが、オリンピックのボランティアになりたいと思っても、ことはそう簡単ではない。ボランティアは奉仕の精神が求められるばかりではなく、一定の外国語の会話の能力と知識・教養が備わっていなければならない。また、北京オリンピック組織委員会は別に専門のボランティアを募集し、オリンピックに参加する人々に通訳や報道、保安、医療などのサービスを提供する。

「都市文明協管員」の高おばさん

 07年6月の時点で、北京で応募したボランティアはすでに33万人を突破した。今年3月には、海外の華僑・華人と外国人のボランティアの募集が始まった。

 競技会場のボランティアのほか、40万人の都市ボランティアも募集されている。彼らは市内500カ所のボランティア・ステーションに分散し、道を教えたり、情報を提供したり、問い合わせに答えたりして人々の手助けをする。この活動は、07年6月から始まった。

 すでに北京のボランティアたちは行動を起こしている。週末や休日、祝祭日、あるいは大きな催しがあるときに、ボランティアの姿を見ることができる。ある大学生は「私たちはいま、機会あるごとに、オリンピックでより良いサービスができるよう、経験を積んでいるのです」と言っている。

 北京オリンピック組織委員会は、ボランティアの養成をすでに始めている。オリンピックの競技会場では、きっと多くの立派なボランティアを見ることができるだろう。

市民の資質の向上も大切

北京では「列に並ぶ日」を定めてキャンペーンが続けられている。エスカレータは、日本の関西地方と同じように「右側に立ち 左は空ける」よう決められている

 昨年の夏から北京のバスの停留所に、統一した制服を着て、手に小さな赤い旗を持ち、乗車する人々を誘導する人が出現した。「都市文明協管員」と呼ばれる。「都市の公衆道徳やマナーを向上させる人」という意味である。

 東城区に住む高おばさんもその1人である。毎日、午前と午後の2時間ずつ、交通ラッシュの時に、彼女は家から遠くない景山バス停に行き、勤務する。バスが停留所に入ってくるたびに、「都市文明協管員」はバスに合図を送りながら、乗客が安全に乗車できるよう誘導する。

 出かけるお年寄りがいれば、進んで身体を支えてあげる。高おばさんはこの仕事を始めて一年余りになるが、「賃金は高くないけれど、やっていて楽しい。乗車の秩序も少し良くなったよ」と言った。

 北京には、高おばさんのような「都市文明協管員」が4000人以上いる。その大多数は、進んで志願した人である。北京でオリンピックが開催されるときには、ボランティアのサービスばかりでなく、広範な市民の参加とサポートが必要だ。北京オリンピック組織委員会の蒋副主席によると、オリンピック招致の時は、国民の支持率が96%に達し、招致に立候補した都市の中でもっとも高かった。この数年、オリンピック招致が成功した感動はだんだん薄れてきたが、市民の情熱は依然、薄れていないという。

 「組織委員会には毎日、どのようにしてオリンピックに参与したらよいかという問い合わせの電話が多くかかってきます。90歳を超した老婦人が、自分で作った切り紙を、組織委員会に贈ってくれたこともあります。市民の情熱に私たちは感動しています」と蒋副主任は言っている。

 先日、朝陽区双井街道の居民委員会とここにある体育学院がいっしょにオリンピック学校を開き、住民にオリンピックでの礼儀や歴史などの知識講座を開いたが、講座を聴きに来た住民は非常に多かったという。居民委員会事務所の王海玲さんは「オリンピックに対する住民の関心は、オリンピックが近づくにつれてますます高まり、公衆道徳やマナーもある程度良くなった」と言っている。

700万枚のチケットは

オリンピックまで500日のカウントダウンを記念して、生徒たちは長い巻物の上に書画を描いた(第159中学提供)

 2007年4月15日、北京オリンピックのチケットの、国内販売分の公開予約が始まった。そしてわずか一日のうちに、組織委員会はインターネットで25万枚の予約注文を受けた。その後も大量の注文が絶えず来ている。こうした状況を見て、多くの人が「オリンピックのチケットはなかなか手に入らないのでは?」と問い合わせてきている。

 責任者の話によると、北京オリンピックのチケットは全部で700万枚で、そのうち中国国内で販売されるのは75%の525万枚、国外で販売されるのは25%の175万枚。外国でオリンピックのチケットを買いたい人は、その国のオリンピック組織委員会やその代理機構に申し込むことになっている。

 北京オリンピックのチケットの定価は、これまでのオリンピックに比べ、ずっと安くなっている。もっとも高いものでも5000元(約7万5000円)である。ちなみに、アテネ・オリンピックのときの開会式のもっとも高いチケットは950ユーロ(当時のレートで約9500元)だった。

 また、小中学生には特に安いチケットが用意される。一部の競技会場には、臨時の補助席が設けられる。「チケットを安く抑えたのは、より多くの市民が競技会場に入り、オリンピックをじかに感じてもらえるようにするためです」と組織委員会は言っている。

北京に住む外国人も市民といっしょに、オリンピックを迎える長距離ウォーク活動に参加した(中国ボランティア協会提供)

 今回のオリンピックのチケットの公開販売では、開会式、閉会式や一部の人気の高い競技に対しては、最終的に抽選で決定することになった。開会式を例にとると、チケットは全部で6万枚しかない。そのうち国内向けに一般に販売されるのは2万6000枚。2004年のアテネ・オリンピックでは、EUの国々に配ったのは33.3%で、これに比べると10%多い。しかし開会式を見たい人は多く、チケットは明らかに足らない。そこで主催者は抽選という方法を取らざるを得なかったのである。

 このほか、チケットの購買について数量の制限も実施される。開会式、閉会式のチケットは1人1枚に制限し、人気の高い競技では1人2枚に限られる。その他の競技は、人気の程度によって1人3〜5枚となる。また、開会式、閉会式のチケットは他に譲渡できない。もし必要があれば必ず、規定に則った譲渡の手続きをとらなければならない。(2007年8月号より)

 

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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