■ 正常化35年 中国と日本のこれから
特集2
 
日本の大学生は中国をどう見ているか
                                           馮昭奎=文

 2005年4月から、私は日本の愛知大学で講義を始め、今年で3年目を迎えた。毎年の春学期の私の授業は「日中関係論」を主なテーマにしている。講義を聴きに来る学生は1年生から4年生までいて、現代中国(現中)学部、法律学部、経営学部の学生である。今年は現中と法律二学部の200余人の学生が受講した。また、2005、06年の秋学期には博士課程の学生にも「日中関係論」の講義をした。

 講義を始めた2005年の春学期は、中日の政治関係が悪化し、5月には、中国の一部の都市でデモがあった。今年の春学期は、温家宝総理が日本を訪問し、中日関係には「氷が割れ、氷が融ける」改善の兆しが現れた。

 日本の学生は、現在の中国や、中国との関係をどう見ているのか、将来中日関係をどうすべきだと考えているのか――私が聞いた範囲での、彼らの率直な意見をここに紹介しよう。

温総理訪日で何を感じたか

 私の知る限りでは、温家宝総理個人に対する日本の大学生の印象は大変良い。訪日の意義に対しても学生たちは積極的な評価を下している。

 「温家宝首相の訪日は、日中友好を強化するための重要な一歩である。彼の訪問は日中関係全体にとって深い意義がある」(現中学部三年女子)

 「温首相の来日は確かに『氷を融かす旅』となった。これは日本にとっても中国にとっても積極的な政治的効果を生んだ。そして胡錦涛主席の訪日に道を開いた」(現中学部一年男子)

4月12日、中国の温家宝総理は、日本の国会で演説し、衆参両院議員の拍手を受けた

 学生たちはとくに、日本の国会での温総理の演説を賞賛している。

 「温首相は演説の中で、未来に目を向け、積極的に前向きにものを見ることを重視した。これは私にとくに深い印象を残した」(現中学部二年男子)

 「温首相の演説は、日中両国の人々を満足させることができる初めての演説だった。彼は歴史問題に触れたが、それは穏やかなものであり、日本側の謝罪に対しても、肯定的に評価した。これは小泉内閣の時期にはまったく見られなかったことである」(現中学部三年男子)

 訪日期間中の温総理のその他の活動も好感を持って受け取られた。

 「温首相の笑顔は、非常に親しみのもてるものだった。日中関係がこうした勢いで発展して行き、絶えず改善されることを望みたい」(現中学部三年女子)

 「温首相が朝のジョギングで、日本の市民と言葉を交わし、交流したのは、人の心をつかむものだった」(現中学部一年女子)

 「温首相が野球を体験したことは、日本人に好感を持たれた」(現中学部二年女子)

 温総理の訪日によって学生たちは、今後の中日関係の発展に対し、確信を深めた。

 「日中関係はすでに『政冷経熱』から『政温経熱』に発展したと言われているが、さらに一歩進んで『政熱経熱』と言われるようにまで発展してほしい」(法律学部三年男子)

 「私は、日中経済関係はさらに『熱く』できると思う。日中は互いに、相手の国へ留学する人をますます増やすべきだ。そうすれば日中関係は、経済、政治、文化の三つの面で積極的な変化が起こるだろう」(法律学部三年男子)

 「日中関係が良い方向に発展するのは大変良いことだ。経済面では『中国脅威論』はほとんど消えうせ、日中間の貿易、投資、政府開発援助(ODA)、技術協力などを肯定的に取り扱うように変わった。中国経済の成長は恐ろしいことではない。日本人は次第に、積極的な角度から中国の発展の現実を受け入れることができるようになってきた。日本人の中国人に対する意識もだんだんと、積極的な変化が起こってきている」(現中学部三年男子)

 しかし、中日関係の現状に対して、依然、不満や不安を感じる学生もいる。

 「私は日中関係が良好な状態になったとは言うことはまだできないと思う。さまざまな『トゲ』を解決する必要があるからだ」(法律学部四年男子)

 「現在、日中関係の改善は依然、表面的なものであり、ちょっとしたことが起これば両国関係が悪化しかねない」(現中学部二年女子)

 「温首相は自らの訪日を『氷を融かす旅』と言ったが、私も日中間のしこりが解け始めたと考えている。しかし人々は、氷が融けた後、いつまた気温が零度まで下がるか分からないと心配している。だから、日中関係は引き続き加熱して行かなければならない」(現中学部三年女子)

 「途中でやめれば、これまでの努力が泡になる。だから双方は引き続き、交流を深めなければならない」(現中学部三年女子)

 「日中経済関係は良好だと言うことができるが、日本人と中国人の心と心の距離はまだ非常に遠い。日本人と中国人は過去を知らなければならないし、またつとめて相手を理解したいという気持ちを持たなければならない。経済関係はもとより重要だが、もっと人と人との関係が仲良くなれたら、と希望する」(法律学部四年男子)

歴史問題をどう考えているか

 近代日本の対外侵略のあの歴史について、日本の大学生たちは確かに知識がきわめて乏しい。これは、戦後の日本の教育と関係がある。2005年5月、当時の日本の町村外務大臣も、日本の中学校の教科書が扱う歴史は明治維新までで、その後に進められた近代の侵略戦争の歴史に対する教育はない、と認めている。

 当然、情報化の時代に、日本が「情報鎖国」をすることはできないし、後の世代に対して徹底的に歴史の真相を隠すこともできない。私が接触した数百人の大学生たちは、日本が過去に誤ったことをし、近隣の国々に侵略戦争や植民地支配をしたなどの基本的事実を知っている。このことは、国際的な往来の増加にともなって、日本の歴史教育の「孤立化」の道がますます狭くなり、行き止まりになっていることを示している。

 国際交流の拡大につれ、多くの日本の大学生たちは、日本の歴史教育には重大な問題があることを次第に感じ始めている。

 「もし将来、私が教師になったら、日本の視点からだけでなく、世界各国の視点から歴史の真実を見、それで子どもたちを教えたい」(現中学部三年女子学生)

 「日中間の歴史問題は、『水』と『鑑』のようなものだ。歴史問題は日本人にとっては『水』のようなもので、水に流し、忘れてしまう。しかし、中国人にとっては『鑑』のようなもので、すべてが現実の上に投影される。しかし、日本が歴史の教訓を汲み取らなければ、将来、また過去の過ちをくり返すかも知れない」(経営学部三年男子)

 「正確な歴史観の基礎の上に、愛国心と隣人愛の精神を育てなければならない」(現中学部三年女子)

 「日本は国民に対して、侵略戦争の歴史を教育していない。中国が行なっている愛国主義教育は、『反日教育』ではないとはいえ、日本が過去の行なった悪事を洗いざらい、国民に対して教育している。この二種類の教育の明確な差が、一方で中国の若い人たちの強烈な『反日』感情を引き起こし、もう一方で中国人がなぜそんなに強い『反日』感情を持つのかを、日本の若い人たちが理解できないようにさせている。だから、歴史問題を解決せずに、真の日中友好はない」(経営学部三年男子)

 歴史問題は中日関係にどう影響を及ぼすのか。

 「歴史問題は、日中関係の一つの大きな障害であり、今後の日中関係はなお歴史問題の影響を受けるだろう」(現中学部一年男子)

 「重要なことは、誰が靖国神社に行くかどうかではなく、日本があの戦争を忘れることが許されるかどうかにある」(現中学部三年男子)

 「日中両国は2000年以上にわたる悠久の友好往来の歴史がある。しかし、いったん関係が悪くなれば、『手を翻せば雲となり、手を覆せば雨となる』(杜甫『貧交行』)といわれるように、民族主義を煽って互いに攻撃しあう。私はこうした行為は非常に愚かなことだと思う」(法律学部四年男子)

メディアが重要な役割果たす

6月14日、中曽根元首相に率いられた日中青年世代友好代表団が、5機の航空機に分乗して、上海浦東国際空港に到着した

 多くの学生は、メディアが改善され、両国関係のためにもっと積極的な役割を果たすよう望んでいる。

 「私は一部のメディアの煽動が『反日感情』や『嫌中感情』の高まりを引き起こす原因だと思う。ネットの影響も大きくなっている。これらが、真実の状況を理解し、日中関係を考えることに影響を及ぼしている」(法律学部四年男子)

 「中国も日本も、相手の国を紹介するテレビの番組が少なすぎる。中国では、日本に関するプラス面のテレビ報道やテレビドラマが少ないし、日本でも中国に関するプラス面のテレビ報道やテレビドラマをめったに見ることができない」(現中学部三年男子)

 「日本のテレビは、韓国の連続ドラマを毎日放送しているのに、中国のドラマはほとんど放送されない。日中関係を良くするには、テレビや新聞が相手の国の出来事を絶えず紹介することが重要で、日本と中国のマスコミは大きな責任を負っている。ぜひ、恒常的に報道してほしい」(現中学部博士課程二年男子)

 「日本の一部のメディアは、ひとたび中国のマイナスの面を発見すると、まるで鬼の首でも取ったかのように大いに宣伝するので、人々はこれを本当のことだと信じてしまう。テレビでつくられる中国のイメージは、貧しく、汚く、ニセモノを造り、がやがやと騒ぐ、というものだ。翻って言えば、中国のメディアも日本の良いところをあまり報道しない。日本の良い面を多く報道すると、愛国主義教育の展開に影響を及ぼすに違いないと思い、日本に何か悪いことがありさえすれば先を争って報道する。それによって中国人が日本という国はなんて悪いのだろうと思わせようとしているみたいだ」(経営学部三年男子)

 「メディアの一面的な報道のせいで、少なからぬ中国人が、日本は依然として昔のあの軍国主義の日本なのだと認識している。そして少なからぬ日本人が、中国の発展が日本にとって脅威になると考えている」(現中学部三年男子)

 「テレビや新聞、雑誌で、中国やアジアのニュースや社会、歴史、文化に関する報道がきわめて少ない。西欧のテレビや新聞は、ほかのヨーロッパ諸国の事情をしばしば報道している。報道は国民に共通の価値観を扶植し、EUの結成に大きな役割を果たしてきた」(法律学部三年男子)

 「実は、『国民意識』は、メディア、とくにテレビ画面から産み出されたものだ。日中両国のメディアはともに、偏向的で感情的、一面的な報道を避けなければならず、『国民自身に考えさせる』報道をしなければならない」(現中学部三年女子) 中日関係をどうしたらよいか  いかにして中日関係をさらに改善するか。学生たちはさまざまな見方や提案をしている。

 「政治家の相互訪問は、日中関係を良好に保つための欠くべからざる要件であるが、会談の結果がいつも完全に一致するとは限らない。政治体制の異なる日本と中国で、意見の不一致があっても、ことさら騒ぎ立てる必要はない。国交正常化のとき、毛沢東主席が田中角栄首相に『喧嘩は済みましたか。喧嘩しないと仲良くなれませんよ』と言ったように、仲良くなるには議論をすることが大切である。会う前から相手を敬遠し、拒絶するなら、迷惑するのは両国民である」(現中学部博士課程二年男子)

 「一人一人の日本人と、一人一人の中国人の友好関係を少しずつ積み重ね、絶えずそれを増加、拡大すれば、国と国との関係改善を推進することができるだろう」(経営学部二年男子)

 「相手の言語を学ぶのが早道である。言葉は文化の象徴であり、言葉の学習を通して国民の思考、風俗、習慣を学び、理解を深めることが、誤解を少なくし、感情的対立をなくすもっともよい方法だ」(現中学部博士課程二年男子)

 「日本人と中国人の結婚は年々増加する傾向にある。厚生労働省の統計によると、2004年には、日本人の夫と中国人の妻の婚姻は1万1915件、中国人の夫と日本人の妻の婚姻は1104件だった。これをあわせると1年間に約1万3000組の日中の架け橋が誕生したことになる」(現中学部博士課程二年男子)

 「日本も中国も、過去にあまり拘泥する必要はなく、もっと現在と未来に着眼しなければならない。そうしてこそ良好な関係を築くことができる」(現中学部三年男子)

 「海底油田問題など、日中間には問題が多いが、まず戦略的互恵関係を確立し、その考えの下でこうした問題を解決しなければならない。朝鮮半島の非核化、中国の省エネと環境問題などなど、日中両国は相互に助け合わなければならない」(現中学部四年男子) 交流を数倍にしよう  今後の中日関係の発展について、私は「慎重な楽観」という見方をしている。

 「中日の戦略的互恵関係」を本当に実現させるためには、両国は大きな努力をしなければならない。とくに戦略的互恵の原則に照らして、重大で敏感な問題を含む中日間の具体的な問題を一つ一つ処理しなければならない。これによって戦略的互恵関係を打ち立てるという双方の誠意を証明する試金石としなければならない。

 日本人も中国人もともに事実を重んじ、事実をもって戦略的互恵関係を打ち立てるという両国政府の誠意を証明し、両国人民が「戦略的互恵関係は空論に過ぎない」と感じるようなことは避けなければならない。

 多くの人が、中日両国は人の往来と交流を拡大しなければならない、と提案している。しかし私の見るところ、両国関係を真に改善するためには、普通の「交流の拡大」でははるかに足りない。交流は数倍に拡大しなければならない。

 大幅な拡大の中には、各領域、各業界の人々の交流が含まれ、また旅行、留学、修学旅行、中高生の相互訪問、大学生の交流、学者の交流、メディアの交流、文化・芸術の交流、タレントの相互訪問などが含まれる。とくに軍事の領域での人の交流を重視し、軍民参加型の艦隊の相互訪問を実現する必要がある。

 中国にとっては、対日交流の大幅な拡大は、一部の民衆が日本に対して感情的になる傾向を克服する助けとなり、国内の安定にも役立つ。2002年に行なわれた世論調査では、日本と交流したり、日本に住んだことのある人の約60%が、日本に対し「親近感」を持ち、そうした経験のない人で日本に「親近感」を持つ人は約6%にすぎなかった。60%と6%の差は、両国人民の交流の強化が、両国人民の相互理解の改善と両国関係の改善にとって重要な意義を持つことを十分に説明している。(2007年9月号より)




 
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