北京ウォッチングQ 邱華棟=文 劉世昭=写真
 
都市化のシンボル 地下鉄網
 
 
 
北郊外を結ぶ13号線は北京初の都市鉄道

  米国の詩人エズラ・パウンドはイマジズム派の代表であり、『地下鉄の駅で』という非常に有名な詩を書いた。「人混みのなかのさまざまな顔のまぼろし 濡れた黒い枝の花びら」(日本語訳は新倉俊一訳『エズラ・パウンド詩集』小沢書店より――編集部注)

  地下鉄の中で、私はいつも彼のこの詩を思い出す。地下鉄から出たとき、私も自分がまるで一枚の濡れた花びらのように感じるからだ。

  地下鉄は都市における快速な軌道交通機関で、近代都市のシンボルの一つである。中国では現在、北京、上海、天津、広州に地下鉄が建設されている。

  2005年の時点で、北京の地下鉄の総距離は113.5キロ、一日の平均利用客数はのべ200万人。上海の地下鉄はすでに140キロ以上に達しているが、天津はたったの10キロ余り、広州も40キロほどである。

  07年6月、北京には、北から南まで27キロの大屯から宋家荘を結ぶ地下鉄5号線が開通する予定。オリンピック選手村を通る39キロの10号線と27キロの空港都市鉄道も、08年6月には開通する見込みだ。こうして08年には、地下鉄の総距離は約220キロに達する。また、西直門から頤和園にいたる4号線も09年には竣工する。

西直門にある都市鉄道のターミナル「西環広場」

  順義や昌平、良郷を走る郊外の都市鉄道三本の建設も始まれば、2010年には、北京の軌道交通は300キロ以上になる。このとき、北京の地下鉄ネットワークシステムはようやく一応の形となるのだ。今のところ、北京の地下鉄の始発電車は早朝5時すぎ、最終は夜11時前後で、市民の「足」として非常に便利である。

  地下鉄システムの完全さとその密集度は、都市の経済力と近代化レベルを体現している。たとえば、ニューヨークには約400キロの地下鉄があり、数百の駅がある。

  中国の地下鉄の建設費は一キロあたり約6億元。ここから、地下鉄の建設が遅れている原因の一つは、巨額の費用がかかるためであることがわかるだろう。これに加えて、都市の地下を走らせる建設技術は難度が非常に高いため、中国における地下鉄建設の進展は決して順調ではない。その上、運行すればするほど赤字がふくらむのは、すべての地下鉄建設に共通する、頭の痛い難題だ。 

  地下鉄は摩天楼と同じく、工業化時代およびポスト工業化時代の人類の傑作であり、人類が大自然に対して自らの威力を見せつけた作品でもある。地下鉄によって、私たちは地下で快速に行き来することができ、再び地上に出てきたときには、すでに目的地である新しい街に到着している。このため、地下鉄は便利や快速の同義語となっている。

北京の地下鉄は毎日「超飽和状態」だ

  地下鉄は列車の駅と同じように、見知らぬ人々が最も多く集まる場所である。ほとんどの場合、同じ車両に乗っている人を誰一人として知らない。地下鉄の中では、人と人の交流はほとんどない。多くの人は本や新聞を読み、恋人たちは人目もはばからずイチャイチャしている。

  米国の大都市の地下鉄の中では、人々は他人と関わりたくないばかりか、お互いに警戒し、遠ざけあっているように見える。ある友人は、ニューヨークの地下鉄の車両内でひどい目に遭ったと次のように話した。

  ある晩、帰宅の際、彼は乗客が少ない車両に乗っていた。ぼんやりしていたので、知らず知らずのうちに向かいの人を見つめていた。すると、その人が目の前にやってきて、すごんで言った。「なんで俺を見てるんだ? 何かようか?」
 
  彼らは絶対に人と関わり合いたくないのだ。
 
  東京の地下鉄は混み合ってはいるが、乗客たちは新聞や漫画を読むのが好きで、秩序は整っている。
 
  北京の地下鉄では、大半の人が声を発さず、大声でしゃべっているのはほとんどが地方からやってきた人だ。彼らが話しているのは自分の行き先や行き方。しかし大多数の人は、自分の行き先を明かしたくはなく、くたくたに疲れているため、できるだけはやく温かい我が家へ帰りたいと願っている。(2006年6月号より)


 
 
邱華棟 1969年新疆生まれ。雑誌『青年文学』の執行編集長、北京作家協会理事。16歳から作品を発表。主な著書に長編小説『夏天的禁忌(夏の禁忌)』『夜晩的諾言(夜の約束)』など。他にも中・短編小説、散文、詩歌などを精力的に執筆し、これまでに発表した作品は、合わせて400万字以上に及ぶ。作品の一部は、フランス語、ドイツ語、日本語、 リ国語、英語に翻訳され海外でも出版されている。  
 

 
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