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『沙坪新村』
81×81センチ油彩 1944年
中国美術館蔵
写真提供・中国油画研究学会
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写実油絵は、20世紀の中国油絵芸術の主流で、百年の間に数多くの才能ある画家が生まれた。その一人が李瑞年だ。
彼の芸術創作は個性にあふれ、清新で自然な写実手法を用いて日常生活を描き出し、変化が乏しい日常にある真実や物事の本質を追求し、芸術家が生活や自然を愛する心を表現した。彼の油絵は、ちょっと見ただけでは心に響いてこない。深く味わえば味わうほど良さがわかる作品だ。まるで長年寝かした高級酒のようにこくがあり、すがすがしい香りがして陶酔させてくれる。中国写実油絵の重鎮である徐悲鴻は、李瑞年の油絵を抒情詩と評した。また、著名な画家である呉作人は、彼の油絵は自然への執着が強く、高い芸術的品位を持っていると述べている。
李瑞年は、静物や風景を題材にした油絵が多く、真摯で深い愛情を注ぐことで描く対象物に強い生命力を与えた。また、平凡な日常生活の情景から芸術家の偽りのない気持ちと詩趣を表現した。
『沙坪新村』は、1944年の作品である。抗日戦争の時代、多くの文化人が芸術系学校の移転にともない重慶にやってきたため、重慶は一時期、文化人が集う町となった。李瑞年は当時、重慶市郊外の沙坪ーモにあった中央大学芸術学科で教鞭を取っていた。『沙坪新村』は、まさにその風景を描いたもので、冬の日の光の下、ぼんやりとした色に包まれ、光が葉のまばらな木の枝を通り抜け、遠くの山の斜面には、臨時に建てられた粗末な小屋が分布している。それこそが、中央大学芸術学科の教室であり、教師の住まいだ。戦争という苦しい環境の中で、物質的には困窮していたが、芸術家たちは芸術教育に力を入れ、中国現代芸術の命脈を守りつなぎ、その発展を追求していた。このような努力は、一幅の普通の風景画に映し出され、深い含みを感じ取ることができる。表面的に見れば、表現されているのは、荒れ果ててわびしい景観だ。しかし、『沙坪新村』と名づけられたこの一幅は、画家の未来に対する希望と楽観を反映している。
李瑞年は1910年に生まれ、1933年、北平大学芸術学院西洋画学科を卒業した。同年、ヨーロッパに留学し、ベルギー・ロイヤル美術学院、フランス・パリ高等美術学校で学んだ。ヨーロッパでの彼は、厳格な写実油絵の訓練を受け、芸術的基礎を固めた。彼の風景画は、フランスの有名画家・コロット
フ影響を受け、自然風景の中にいる人物の活動を表現したり、濃厚な詩的境地を追求している。1937年に帰国し、昆明国立芸術専門学校、中央大学芸術学部、北平芸術専門学校で教えた。50年代以降、前後して北京師範大学美術学部、北京芸術学院美術学部、北京師範学院美術学部の教授を務め、1985年に死去した。李瑞年は、一貫して自らの感受性で創作し、名声や一時のセンセーションなどを意に介さなかった。彼の芸術的業績は、人々の称賛を受けていて、人柄や作品は尊敬を集めている。(2001年12月号より)
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