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『九月』
153×170センチ
油彩 1996年
本人所蔵
写真提供・中国油絵学会
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油絵画家・羅爾純氏は、1930年湖南省に生まれた。顔文梁氏に師事し、51年、蘇州美術専科学校を卒業、北京の人民美術出版社の編集者となった。59年には、北京芸術学院の講師となり、64年、中央美術学院油絵学部に移った。現在は同校で教授を務めている。
羅氏は、長年にわたり、油絵創作と後進の育成に力を注いできた。82年以降、中央美術学院、ニューヨーク、パリ、台湾などで油絵の個展を開き、主な作品に、『望』『小鎮』『歳月』『傍水人家』『九月』などがある。また、第1、2回の全国油絵展、第6、7、8回の全国美術展、中国油画学会展などで受賞経験がある。
彼をよく知る同僚や学生は、「とても誠実な内向的な先生です。動きはゆったりしていて、話をする時に緊張で顔を赤らめ、声も小さいので、田舎者っぽい印象を受けることすらあります」と、声をそろえる。
その一方で、作品は、色づかいが華やかではっきりしていて、タッチもとてもおおらかだ。中国では長い間、ロシアのリアリズムの手法を除いて、印象主義を含むあらゆる現代流派が排斥された。しかし羅氏は、自分の風格を貫きながら、西側の後期印象主義の「栄養」を吸収した。すでに70歳を超えたが、まだまだ若い心を持ちつづけている。
羅氏は、古典絵画のつやつやした感じ、特に、個性のない表面的な美しさを嫌い、印象派の後に登場した表現方法を愛する。そして、描く対象と作者自身との間にある内在的な心理や精神を描くべきだと考えている。そのため、明暗と透視を強調せず、その代わり縁取りと色彩を重視し、描く対象の個性を表現できる範囲内で、適宜に変形させる手法を取り入れている。具象表現と抽象表現の間で、独自の感覚を表現する最も適切な方法を模索し、しかも見る人に理解される視覚効果を生み出そうとしている。
専門家は、「古い写実の枠を飛び越えただけでなく、彼自身の教養によって作り上げられ、創造した、統一性があり、独特の、芸術性の高い風格が、彼に成功をもたらした」と評価している。
油絵『九月』に描かれているのは、故郷湖南省の女性である。収穫の季節を迎えた赤土の土地は、すべてが赤く染まり、温かい色調になっている。若い女性は、子どもを背負ってこちらに歩いてきている。整った顔からは、かすかに憂うつが感じられる。子どもを授かった時から、母親としての責任を負ったことを思い、何の心配もない若い未婚時代の生活に別れを告げた。そして、彼女の希望は、背中の子どもの未来にある。
これは、作者の子供時代の母親への追憶、あらゆる人の母親への追憶を表現したものではなかろうか。(2002年12月号より)
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