雲南省大理は、少数民族のぺー(白)族の故郷である。大理の周城村では、山に生える植物の葉から採った染料で染める絞り染めが盛んだ。これはペー族の独特の技法であり、伝統の技を復活させたものである。
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ジ海のほとりにある周城村 |
「3月の大理は風景がすばらしく、コ蝶泉のほとりできれいに化粧する。……蒼山の麓で金花を捜す、金花は私の恋人だ」――中国で人口に膾炙しているこの歌詞は、1950年代末期の有名な映画『五朶金花』(五人の金花)の主題歌の一節である。
映画の中で描かれているペー族の若者、阿鵬と金花の恋人同士が、コ蝶泉のほとりでめぐり会うシーンは、まさに大理の周城村にあるコ蝶泉のほとりで現地ロケしたものだ。当地では、娘さんのことをみな「金花」と呼ぶ。
人々を感動させたラブストーリと美しいペー族の服飾は、観衆の心の中に強い印象を残した。とりわけこのすばらしい歌は、いまでも広く歌われている。
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周城村の典型的なぺー族の民家 |
周城村は、雲南省大理ペー族自治州の北端にある。背後には標高4000メートル以上の蒼山がそびえ、前方には251平方キロもあるジ海が広がっている。
昆明から大理を経て麗江にいたる大麗自動車道が、村の東を走っている。この道路を南へ400キロ下ると、省都の昆明市に着く。北上すれば麗江古城までわずか165キロだ。
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舞台の前に集まって、雑談に興じるペー族の老婦人たち |
現在、村には合わせて2183戸があり、人口は一万余人。ペー族の人口は99%を占め、中国で最大のペー族が居住する自然村である。
周城の街は、人口が密集しており、住宅が折り重なるように並んでいる。蒼山の上から望むと、白壁と灰色の瓦の建物がびっしりと立ち並び、紺碧のカ海に映え、まるで岸辺に生息している白鷺のようだ。
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周城村の古い舞台の周囲は、村民たちのふだんの営みのセンターとなっている |
村の中には、古い舞台がそのまま残っており、二本のガジュマルの樹の下で、土地の人たちは昔と同じように、舞台の周囲に屋台を並べ、商売をしている。お年寄りたちはのんびりと、覆い茂ったガジュマルの木陰に座り、涼をとったり、雑談に興じたりしている……。
ここは自然に、村の経済とコミュニケーションの中心になっているのである。夕食が終わると、人々は次々に家を出てここに集まり、夕涼みしながら時を過す。ここではいまだに、伝統的な習慣が残されている。
舞台の周りでは、子どもたちが屋台の前の人ごみに入ったり出たりして遊んでいる。若者たちは一カ所に集まって笑ったり、話したりしている。彼らは、歌垣のやり方で、互いに愛情を表現する。婦人は三々五々、かたまって地面に座り、絞り染めの手仕事に余念がない。
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周城村の手作りの絞り締め製品は、観光客に好まれている |
周城村の面積はわずか4.7平方キロしかない。一人当たりの耕地の面積は、平均0.34ムー(1ムーは6.67アール)しかない。1990年代初め、村の人たちはこの土地に伝わる伝統的な民間工芸である絞り染めを復活させた。制作された作品は、デザインが美しく上品で、色合いも雅やかであり、この村の特色があるお土産品となった。
周城村の絞り染めの名を慕って、多くの国内外の観光客が周城へ観光に来るようになり、周城村の絞り染めの工芸品を買い、村の観光業の発展を推進した。ここ数年来、村の人たちは、自分たちで作った絞り染めの製品を、遠く日本、米国、シンガポール、香港、台湾などで販売した。
三百年の歴史もつ染めの工芸
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張全鳳さんの家で、娘さんたちが車座になって、いっしょに布を縄で縛ったり、針で縫ったりしている |
現在、村には、あわせて四千六百人以上が絞り染めの生産と販売に従事している。これによって耕地が足りないために引き起こされる余剰労働力の問題を解決し、人々は豊かになる道を歩んでいる。
1996年、周城村は、中国文化部によって「中国民間芸術の郷」と命名された。ペー族の伝統的な絞り染めの芸術は、全国的及び世界的に、その名声をますます高めている。
周城の絞り染めは、300年の歴史がある。古代では、「纐纈染」と言われ、布のところどころを縄で縛って染め、縛られた所が染まらないで、それが模様となる。俗に「扎花布」とも言われ、昔ながらの手づくりの、染めの工芸である。村のどの家も、忙しく絞り染めを作っている。
絞り染めの作業をしているのは、ほとんど女性である。若い女性と年配の主婦が主な労働力で、彼女たちは自分の家の庭に車座に座って、ペー族の民謡を鼻歌で歌いながら、休むことなく、これから染めようとする大量の布を縛っている。
縞模様のネッカチーフで髪を巻いた娘たちが、門に寄りかかり、白い房の飾り物が頭の片方から垂れ下がって、腰に締めた縞模様のエプロンが風に揺れる姿は、まるで美しいコ蝶が泉のほとりをひらひらと飛んでいるようだ。
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ビニールの上に絵を描いている張全鳳さん |
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図案の輪郭に沿って均等に針で穴をあける |
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刷毛に染料をたっぷりつけ、ビニールの上に均等に塗る |
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染料は穴を通って、下の白い布を染める |
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縄で縛ったり、針で縫ったりして、図案の描かれた布を絞る |
金花に似た女性経営者
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染料に浸した布は繰り返し取り出されて、晒される |
村の南端にある「徳勝祥」という民間の絞り染め工場を経営しているのは、張全鳳さんである。彼女は映画の中の金花と少し似ている。すでに中年になったとはいえ、なお人より優れたあでやかさを保っている。
すでに結婚した張さんは、いつも微笑みを浮かべながら話をし、爽やかな性格をうかがわせる。いま、二人の老人と二人の子どもの面倒を見ている。20歳の時から、家の人について絞り染めの技術を学び、長年にわたって多くの経験を蓄積した。
しかし、最初の数年、彼女はずっと衣類販売をしていた。1991年以後、周城村で個人経営の絞り染めが次第に盛んになり、張さんも絞り染めの服の加工生産と販売に仕事を切り替え始めた。
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染料に浸した布は繰り返し取り出されて、晒される |
だが、当時、絞り染めの原料の供給が需要に応じきれなかった。村では、現金がないと、一枚の絞り染めの布も仕入れることができなかった。そこで張さんは、自分で布を染めようと思いついた。最初は、自分の姉妹と資本を出し合い工場を作った。まず5000元で絞り染めの道具と染料を買うとともに、自分の住宅の一室を染物工場にした。
図柄のデザイン、染料の配合、縛り、縫合、染色、抜糸、洗浄と晒しなど、すべての工程をこまかく、繰り返し実験した。あまりうまく染められなかった布は、自宅でシーツやテーブルクロスとして使い、うまく染めあがった布を背負って大理の街まで出かけて行き、販売していた。
この数年、張さんは、自分で作った絞り染め製品を売りに、各地の大通りから横町までくまなく回った。彼女が染めた布は質が良いので、得意先も次第に増えてきた。
現在、張さんの工場は、6、7人の労働者を雇っている。年間収入は、2〜3万元以上にのぼる。村の30%の農家が、彼女の工場のために布を絞る仕事をしている。これによって農民に、就業のチャンスを創り出しただけではなく、かなりの経済的な収入をもたらしている。
絞りと染めの二つの工程
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村の多くの家では、絞り染め工場のために、絞りの手仕事に従事している |
周城村には、ある程度規模の大きい絞り染め工場が15軒ある。ほとんどが家内工業で、張さんの「徳勝祥」もそうである。村でもっと多いのは、工場のために布を絞る手仕事をする家で、ほとんどすべての家がこれをやっている。
張さんの家の庭には、晒された各種の絞り染め製品が所狭しと掛けられている。張さんによると、ぺー族の絞り染めの制作工程は大きく分けて、絞りと染めの二つあるという。
まず、絞りである。絞りは絞り染め工芸の重要なポイントである。
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竜泉寺の「九皇盛会」で吉祥と健康を祈るペー族の女性
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最初にビニールの上に、各種の図案を描き、そのあとで図案の線に沿って均等に、針で小さな穴をあける。そして白い木綿の布を、穴のあいた図案の描かれたビニールの下に固定し、刷毛に染料をたっぷりつけて、ビニールの上を均等に塗る。染料がビニールの穴を通って白い布の上につき、最初の図案ができあがる。かつてビニールがなかった時代には、こうした技法はなく、単純に布を絞るだけだった。
図案が染めあがったあと、布の上のさまざまな図形や紋様に基づいて、縄で縛ったり、針と糸で縫い上げたりして、絞る。この方法をこの地では「線扎針法」と呼んでおり、その方法は26種類にも達する。
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ペー族の中年女性の美しい頭の飾り物 |
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ペー族の中年女性が腰に巻いて飾っているベルト |
また、異なる絞り方によって、千を超える模様の変化を生む。これを染めると、色彩にも珍しい変化が起こることがある。中でも、花鳥魚虫や福禄寿の伝統的な図案は、ぺー族がもっとも好む絞り染めの一つで、観光客にも喜ばれている。
次に、染めの工程である。
染料の調合は、ぺー族の絞り染め独特のものである。新鮮な「板藍根」(エゾタイセイ)の葉が染料の主な成分である。染料を作るときは、この「板藍根」の葉と少量の石灰をいっしょに甕の中に入れ、15日から20日間、発酵させて使う。「板藍根」は消炎、殺菌の効果がある漢方薬材なので、それを使って染めた布で服を作って身にまとうと、皮膚に一定の効果があるという。
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竜泉寺へ祭りに行くペー族の女性 |
絞った布を、直径1メートル以上、深さ約1.6メートルの大きな染料桶に入れ、一週間、浸す。しかし3時間おきにこれを取り出して、陰干しにしなければならない。毎日、この作業を三回繰り返す。一週間後、染めあがった布を取り出して水洗いし、陰干しにする。縛ってあった糸を抜くと、図案や色彩が面白く変化した絞り染めができあがるのである。
周城村では、毎年、旧暦の9月1日から9日まで、「九皇盛会」という祭りが催される。人々はみな、村にある竜泉寺に出かけて行く。村中のお年寄り、とくにおばあさんたちは、艶やかなぺー族の民族服を着て、ピンクの花模様の刺繍をした婦人靴をはき、大勢で寺にやって来て線香を上げ、お祈りし、串に刺した花や鈴、小さな木魚をしっかりと手に握り締め、これを上下左右に揺らしたり叩いたりして、口ではお祈りの言葉を念じながら吉祥平安を祈るのだ。(2005年4月号より)
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