【上海スクランブル】


マイホームに情熱そそぐ
                             須藤美華

 最近、中国人の友人たちと寄るとさわると、「マイホーム」の話になる。

ファッショナブルなインテリア雑誌

 中国人の友人Wさん夫婦の住むマンションからは、上海を象徴する「オールドシャンハイ」と「新世紀」の二つの夜景が一望できる。1920、30年代のアールデコ調の建築物が並ぶ外灘(バンド)と、中国経済を牽引する浦東金融地区の超モダンの高層ビル群だ。

 外資系企業に勤める妻と、広告を中心にタレント活動をしている夫。30代後半の彼らが買った家は、これが二軒目だ。110平方メートルで、約60万元(1元は約15円)。30万元を頭金にして、10年ローンを組んだ。

家具屋さんもおしゃれ

 「一軒目のマンションを買った7年前は住宅ローンが始まったばかりで、ローンを組める物件はごくわずかでした。それに、国有企業で働いてないとローンは利用できないとか、制限もあって…。結局、キャッシュで払うしかなかったので、紙幣をパンパンに詰め込んだリュックサックを背負って、契約に出かけたんですよ(笑)」

 ローンが可能になったおかげで、若い世代にもマイホーム購入は夢ではなくなっている。投資会社に勤める27歳のH君は、元々購入を予定していた兄の海外赴任が急に決まったため、替わりに10年ローンで買うことにした。

 「いつかは買うつもりだったから、ちょうどいいチャンスだった」。これで、上海の女性たちが結婚相手に求める条件をひとつクリアしたことになる。「あとは、相手を探すだけ」と彼は笑う。

 地方出身で25歳のOL、Zさんも昨年末、中古マンションを手に入れた。彼女が借りていた部屋の大家がそこを売った資金で新しい物件を購入することになって、買うか退出するか決断を迫られた結果だ。こつこつ貯めてきたお金と親からの援助を頭金に購入を決め、3年ローンを組んだ。

 「引越しするのも面倒だったし、どうせ家賃を払い続けるなら買ったほうがいいもの。自分の家になったと思ったら、気持ちが安定しました。上海でずっと働くつもりだから、いつまでも賃貸では不安でしょう」

とことんこだわって自分の城をつくる

 中国では、マンションはコンクリート打ちっ放しの状態で売られる。最近でこそ、建て売りならぬ、内装のパック売りも出てきたが、ほとんどの人が自分好みの内装を業者に発注する。新聞で内装業者の広告を見ない日はないし、書店のインテリア指南本のコーナーは熱心に本をめくる人でいっぱいだ。若い世代のマンション購入熱を反映してか、女性ファッション誌もインテリア雑誌に参入している。

内装・建材関係の専門店
今、上海で最も売れている不動産物件の屋外広告

 マイホームに情熱をかける彼らに、「妥協」という言葉はない。とことん、こだわる。壁をぶち壊して間取りを変えるといった荒業も、そう珍しいことではなく、およそ一カ月半、平均7、8万元の時間とお金をかけて、自分の城をつくり上げていく。

 「今の上海は、本当に便利。前回家を買った時は、バスタブを買っても自分で運ばなければならなかったけれど、今は時間指定で配達してくれるんですから。洗面台ひとつとっても、前は3、4タイプしか選択肢がなかったけれど、今は百種類以上もあって、選ぶのに迷ってしまうくらい」と、前出のWさん夫婦。

 彼らが内装と家具にかけた総額は、18万元。3カ月を費やした。壁紙や床の色、タイル…、すべてが選びに選んだものばかりだ。バスルームには特にこだわった。朝シャンのできる洗面台もウォシュレットのトイレも、何度も水回り用品の店に足を運んだ成果だ。彼らの住まいには、ちょっと前まで中国のインテリアの主流だった「見かけ倒しの派手な装飾」は一切ない。使いやすさにこだわった、シンプルで洗練された空間だ。

 ローン制度が整備され、不動産市場やインテリア市場は成長を続けている。不動産をとりまく環境だけでなく、人々の住まいに対する意識にも変化が生まれつつある。(2002年6月号より)