【上海スクランブル】


東西文化が交差するいま時のレストランへ
                             須藤美華

創作中華レストレン「穹6人間」
 むかし3S、いま4S。日本人ビジネスマンが駐在したい世界の都市と言えば、以前ならサンフランシスコにシドニー、シンガポール。頭文字をとって3Sだったのが、最近はそこに上海が加わって、4Sになっていると聞く。ここ数年で上海の生活環境はグググンとアップ。気候といい、暮らしやすさといい、3Sにひけをとらなくなってきたというわけだ。上海は今、まさに高度経済成長の真っ只中。世界中からお金と人間が集まってくる。街は日々刻々と変貌を続け、人々は希望と夢をふくらませる。活力と進取の気象に富む上海では、食のシーンにもそんな街の空気が漂っている。

 3、4年前の「インテリアは欧米の家庭料理レストラン風」を経て、最近は欧米の食文化のエッセンスを加えた創作中華というジャンルも台頭しつつある。

創作中華のジャンルも

右のオブジェに手を入れるとドアが開く

 旧フランス租界の閑静な地区に、竹林と瀟洒な建物が絶妙な雰囲気を醸し出す、レストラン「穹六人間」がある。入口の自動ドアは、右横のオブジェに手を差し込むと開く仕掛けだ。女優オードリー・ヘップパーンが映画「ローマの休日」で演じた一シーンが「仕掛け」のヒントになっているという。

 室内は、ステンレスにガラス、セメント打ち出しのシンプルな作りで、若いカップルたちに好評だ。一階席はドリンクオンリ1、2、3階で食事をとる。料理は一階の厨房から、ガラス張りの小型エレベーターを使って運ぶ。

鯛の中華風刺身
冷たくアレンジされたデザート「酒釀碎玉」

 テーブルに並ぶ料理も、スタイリッシュにアレンジされたもの。鶏肉を春巻きの皮で包んで揚げたスティックサラダ(筆筒色拉)や、二百度近くに熱した調味料をジュっとかけた鯛の中華風刺身(薄切鮮魚)など、わくわくするような一品ばかり。本来温かいはずのデザート「酒醸碎玉」もここでは、緑茶団子にモクセイ、イチゴ、キウイなどが入った冷たいデザートに生まれ変わる。理科の実験で使った試験管に、カクテルを入れたセット(試管)など、お酒にいたるまで、「仕掛け」が考えられている。

 少人数でも食べられるように、一皿の量もほどほど。カップルでの利用も多く、2月14日には「バレンタイン・スペシャル」のセットメニューも準備した。

 上海は19世紀半ばに開港以来、国際的な都市として発展し、他都市よりいち早く海外の文化を吸収してきた歴史がある。油ひかえめで、海外の食文化のエッセンスを加えた創作中華というジャンルは、新しい物好きの上海っ子たちの心をとらえ始めている。

 創作料理ほど走っていないが、上海料理の伝統の中に、ほどよいエッセンスを効かせたレストランにも人気が集まっている。「新吉士酒楼」はその代表格だ。今一番上海でホットなスポット「新天地」にある。

上海特有の石庫門建築を利用した「新吉士酒楼」

 上海特有の石庫門建築の一戸建てを利用したレストランで、店内は「穹六人間」と同様にカップルや少人数も想定したテーブルセッティングだ。20世紀初頭をしのぶオールドシャンハイの写真に、天井まで届く大きな木枠の窓。真っ白なテーブルクロスが店内を明るくし、モダンレトロとモダン、東洋と西洋が交差する空間で供される品は、古き良き上海家庭料理の味を損なわずに、ほどよい新しさとヘルシー感を出したもの。

 例えば、「蒸し暑い上海の夏向けにオススメ」と出された前菜は、甘酢漬けにしたキュウリの皮をくるくるっと巻いたもの(涼拌黄瓜巻)と、100%オレンジジュースに漬け込んだ冬瓜果珍冬瓜条。なるほど、体にたまった余分な水分を除いてくれる冬瓜は、冷たい飲み物についつい手が出てしまう夏にぴったりだ。

 上海を歩けば、租界時代の低層階の建物と高層ビルが隣接する風景と、そこここで出合う。現在と過去、東洋と西洋が融け合った独特の雰囲気だ。異なる価値観の共存、これこそ上海の魅力だが、そんなシャンハイ・マジックを「穹六人間」や「新吉士酒楼」は体現している。(2002年7月号より)