【上海スクランブル】


未来都市・上海 個性競う高層建築群

                             須藤美華

個性的な建物が並ぶ浦東地区。左端が「東方明珠塔」



 見る角度や高さによって目に映る風景は変わるものだが、上海はことさら劇的だ。街を歩くと、超モダンの高層ビルの隣に、物干し竿が窓からにょきにょき水平に飛び出した、古い里弄住宅の町並みがあったり。かと思えば、租界時代のロマンチックな洋館があったり。いくつもの時代感覚が共存する上海の街は、角を曲がる、道を渡るだけで時空を超えた気分になる。

超モダンと伝統がマッチング

ライターのように見える「恒隆廣場(PLAZA66)」

 そんなそぞろ歩きもたまらない楽しさだが、高速道路をクルマで駆け抜けていくのも格別だ。林立する高層建築物の間を走ると、超モダンと中国の伝統をマッチングさせた未来都市・上海の姿が見えてくる。

 最近は特に、上海のパワーを反映してか、個性的な外観の建物が増えていて、目を楽しませてくれる。

 市の西部に位置する虹橋空港から高速道路を駆ける。十分もすると、オフィスビルの集まる虹橋開発地区に。右手少し遠くには、てっぺんに円盤を冠した段々状の「上海廣播電台(ラジオ局)」が見えてくる。

 ラジオ局もそうだが、上海の窓はぴかぴか光ったタイプが多い。90年代半ば以降、雨後の筍のごとく建てられたビルには、ピカピカ光る緑色の窓が多い。都市として発展すればするほどピカピカも増えていく。街のピカピカは、豊かさのバロメーターのひとつなのかも知れない。

 ここで高速道路は三方向に分かれる。外灘(バンド)や金融街のある浦東方向へ行くなら、「延安高架路」だ。この道を通るとき目を向けずにいられないのが、蓮の花が天に向かって咲いた巨大オブジェがある「中欣大廈」。蓮の花は「開花富貴」、すなわち事業の発展と富を象徴するという。

蓮の花を模した巨大オブジェがある「中欣大廈」

 中欣の隣には「ホテル・リッツ・カールトン」、世界のスーパーブランドがテナントとして入る「恒隆廣場(PLAZA )」が続く。「恒隆」はなんでも国際的な建築の賞を受賞しているらしいが、どうかすると巨大なライター。周囲を圧する「蓮の花」とそびえたつ「ライター」に挟まれてしまうと、シックな高級ホテルも存在感が薄くなってしまうようだ。

 「内環高架路」との交差を過ぎると、左手に見えるのは古代青銅器芸術をモチーフに設計された「上海博物館」と、ガラス張りでハイテク感漂う外観に、明代に生まれた劇場の伝統的様式を取り入れた弓形の屋根が印象的な「上海大劇院」(オペラハウス)。その後方には、鉛筆のように先が尖った「明天廣場」がキラキラ輝く。

派手な色使いも上海ならでは

上海博物館

 そうそう、このあたりにも開花富貴的な建物が最近、姿を現した。市西部から移転したWホテル。昨年まで営業していた場所は「方角が悪い」と噂されることしきりだったが、王冠のようなオブジェで心機一転となるだろうか。

 ここを抜けると、もう外灘だ。左に租界時代のアールデコ調建築群、右にSF近未来映画ばりの世界が広がる浦東地区を見ながら高速道路を下りていく。バンドでは、当時「スエズ運河以東では最高の建築芸術」と称された香港上海銀行総行(現・浦東発展銀行)をはじめとして、各国が自国の建築美を競い合った建物群が並ぶ。

外灘近くに出現した王冠のついたビル

 浦東には、世界一の高さを誇るグランド・ハイアットが入る「金茂大廈」などがそびえ立つ。超モダンでありながら、仏塔や生命力の強い竹を模すなど、ここにも富や幸福へのメッセージが隠されている。ピンク色の「東方明珠塔」も、地球儀のような「国際会議中心」も、他の都市では絶対収まりきらない派手さ加減だが、この街にはなぜかしっくりくる。さまざまな価値観を飲み込みながら、上海は未来に向かって走り続けていく。(2002年8月号より)