黄河を下る羊皮いかだ
                                       文・武 斌 写真・魯忠民
 

「こんなに大きくて
も、一人で担げるよ」

 羊の皮を使ったいかだは、俗に「排子」と呼ばれる。空気を入れてふくらませた羊皮の袋を、木枠につなぎ合わせて造った水上運搬用の道具だ。その歴史は、二千年前までさかのぼる。

 羊皮いかだは簡単な構造でできているが、その造りはなかなか凝っている。いかだに使う皮はまず、羊の頭のてっぺんから爪先までをすっかり剥ぎ取る。次に皮を加工して、皮の四本の足と両端の口の部分をしっかりと結いつける。その後、空気を吹き込んで、風船のように膨らませて浮き袋とし、木枠にくくりつけるのである。

 皮の加工も手間がかかっている。剥ぎ取られた皮は、日光で乾かし、毛をそり落とし、水に浸すなど三十六のプロセスを経て、はじめて気密性や耐久性が保証される。こうしてできた皮の値打ちは、一頭の羊にまさるという。また、いかだの木枠は、硬くて弾力性に富み、腐食しにくい柳の木が使われる。

 人や貨物の運搬には、羊皮の浮き袋十あまりをつないだ小さないかだで十分だが、大量の貨物なら数十か百くらいは必要となる。さらに、千ほどの浮き袋をつないだ特大のいかだもある。それはもっぱら長距離用として使われ、いっぺんに数十トンもの荷物を運ぶことができるという。

 4、50年前、交通の立ち遅れていた甘粛省蘭州市では、貨物の運搬のほとんどを羊皮いかだに頼っていた。水路は川を下るいかだの群で、活況を呈した。羊皮いかだは、そこでは「黄河」と並び称されるほど有名だった。

 いかだをあやつる舵取りは、「筏子客」と呼ばれる。いかだを巧みにあやつり、険しい浅瀬や急流の峡谷を越えて、千里の川を下ることができるのだ。その腕の良さときっぷの良さで、彼らは人々から慕われていた。

 交通が発達するにつれ、とくに1960年代から黄河の羊皮いかだは減少しはじめ、人々からも忘れられていった。しかし近年では、蘭州市そばの黄河で羊皮いかだがよみがえり、新しい観光スポットとなっている。昔日の風景を、再び目にすることができるのである。(2002年1月号より)