中国雑貨店 街角でおみやげ探し

律儀にかぶる帽子

                         写真・佐渡多真子  文・原口純子
 
 「ここには帽子のない人はいません」。こんな説明のついた大きな写真パネルが老舗の帽子店「馬聚源」に掲げてありました。民国初期の街頭で、お金持ちも庶民もそれぞれ帽子をかぶっています。暑さ寒さやほこりから身を守り、地位や職業を表し、全身のスタイルを整える帽子は、中国では昔から生活に欠かせないものでした。

 解放後は青い、前ひさしのついた―いわゆる「人民帽」と日本で呼ばれる―帽子が人々に愛用されました。八〇年代初頭まで、街頭の写真を見ると、今度はほとんどの人がこの帽子をかぶっています。

 そして今、「人民帽」姿は本当に少なくなっています。日本の友達から買ってきて、と頼まれ、「馬聚源」の片隅でやっと見つけたわけですが……。よく街を見てみると、愛鳥を入れた鳥カゴを下げて公園で過ごしていたり、街頭で将棋を打っていたりするおじいさん達には、まだまだ愛用者が多いのに気がつきました。ちょっと出かけるにも、何年も使っているお気に入りを、毎日またちゃんとかぶる―そういう律儀な感じのする、いい帽子の風景がまだあったのでした。(2000年8月号より)