中国雑貨店 街角でおみやげ探し

夏景色をつくる

                         写真・佐渡多真子  文・原口純子
 

 昔の中国の書斎に必ずといっていいほど置かれていた盆景。一時はすっかりすたれたこんな風習が、生活がゆたかになるにつれて復活し、夏が近付くと、金魚売場の片隅などで、その材料が売られ始めます。

 ある六十代の知人は、夏休みにやってくる孫娘のために、ここ数年、毎年、盆景をこしらえています。

 「上水石」と呼ばれる吸水のよい石に、ウマゴヤシの種をまき、その成長につれて、夏の岩山ができあがっていきます。そこに小指の先ほどの小さな塔や、舟遊びの人形を添えて。毎年、少しずつ、岩山の形を変え、人形を選び、その年なりの演出を凝らすのが、ほんとうに楽しそうです。

 実は知人の孫娘は外国に暮らしていて、中国語はほとんど話せず、二人の言葉の交流はなかなか難しいのですが、小さな夏景色がじゅうぶん「大歓迎」のスピーチの代わりになっているようです。

 都会のアパートに暮らす知人の家の盆景を見ると、私まで夏の訪れを改めて感じることができます。

 季節ごと、自分の小さな恒例行事を持つ豊かさがそこに溢れています。(2001年8月号より)