中国雑貨店 街角でおみやげ探し

虫愛づる小道具

                         写真・佐渡多真子  文・原口純子
 

 「墓場のコオロギは死体をエサにしているから強い。そういわれてたから、夜になると家をこっそり抜けて城壁の外の墓地に行くのさ。そして、草むらでコオロギが鳴き出すのをじっと待つ。いや、怖かった。ほんとうに」。城壁のあった時代の北京で少年時代を過ごした知人の思い出話です。

 急速に市街化が進む今では、コオロギもなかなか捕まらなくなり、このごろの北京の市場には、山東省産が並ぶようになりました。夏の終わりからにぎわい始める売場には、中高年の男性が多く、コオロギを飼うのはこちらでは立派な大人の趣味。鳴き声を愛でるほか、二匹のコオロギを戦わせる遊びも、たまらなく彼らを夢中にさせるようです。

 売り物のコオロギのそばには、飼育のための道具も並んでいます。コオロギの「家」となる粘土の円筒形の筒。その中に、コオロギの寝床となる小さな「鈴房」を入れます。この「家具」の脇に水とエサを入れてあげる「食器」類を置き、こうして自分好みの道具で「コオロギハウス」を築きあげるのも、飼い主たちの楽しみなのです。

 小さな昆虫とその小道具にこうして昔から熱狂してきた中国の男性たち。その行為にも道具類にも、楽しさとともにどことなく哀しみも漂うように思えるのは、コオロギの命の短さゆえでしょうか。(2001年9月号より)