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秋空にひびく音楽

                         写真・佐渡多真子  文・原口純子
 

 それぞれの街に、その音があります。北京では、時折、「鴿哨」と呼ばれる笛の音が、遠い空から響いてきます。

 ヒョウタンを材料に作った軽い小さな笛を、ハトの尾羽にとめつけます。ハトが飛ぶにつれ、笛が風を受け、ヒュルヒュルと汽笛のような音を鳴らす仕組みです。笛の管の数と、その長短で音の高低が調整できるので、趣味を極める人は、何羽ものハトに一つずつ違う形の笛をつけ、空から響いてくる我が楽隊の演奏ぶりを楽しみます。

 こうしてハトで遊ぶ人が多くいた清末には、家ごとに微妙に音の違う楽隊を飛ばし、互いにその音楽を鑑賞しあったとか。さらにハトが飛び立ち、空を旋回して演奏し、飼い主の合図一つで、中庭に一斉に戻ってくるまで、そのすべてが完璧に行われるよう、飼い主たちは精魂を打ち込んでハトを訓練したといいます。

 今ではさすがにオーケストラ級の楽隊は、ほとんど見ることができませんが、胡同を歩いていると、時々、数羽のハトの群れから、ヒュルヒュルとその音が聞こえてきます。

 デリケートな音色が聞こえると、どんなに急いでいても一瞬立ち止まって、耳を澄ますことにしています。灰色の小さな家が続く胡同の空間で、ハトが奏でる音楽を聴くことが、今、とてつもない贅沢に思われるからです。 (2001年10月号より)