取材先のビルの1室。テーブルの上には、しゃれたヘアカラーの箱が次々と並べられた。「この秋、中国で販売する新製品です。ツンとしないフローラルな香りで、アロエなどの天然素材を配合し、髪を染めながらもヘアケアができるんです。質がよいので、中国の方にも自信を持ってオススメしたいですね」。てきぱきと明るく話すようすからは、仕事に打ち込む情熱のほどがうかがえる。
白髪染めの「ビゲン」など、ヘアカラーのブランド製品を製造販売している大手メーカー、ホーユー株式会社(本社・名古屋)の中国独資企業である朋友化粧品(蘇州)有限公司の北京事務所立ち上げや、市場拡大のために奔走している。同社の製品が、輸入品として中国市場に入ったのが10年ほど前。2002年には中国・蘇州に工場と事務所が、つづいて上海と広州にも事務所がそれぞれ設けられたが、北京を主とする中国の北部には、まだ足場が築かれていない。
そこで、名古屋でのセールスプロモーションの仕事や中国留学などの経験をつんだ彼女が、抜擢されて現職に。北京では、代理店の中国人担当者と2人3脚で情報収集をしたり、販売促進(販促)企画を練ったり、店頭販促員(マネキンさん)にメーカーの立場から教育したりと、忙しい日々を送っている。
販促員の姿勢には、日本のそれとの違いからギャップを感じることもあった。中国の販促員たちは積極的に声を出さず、商品をアピールしない。しかし、日本的に「セールストークを大声で連呼する」ようなやり方を、そのまま押し付けてもいいものかという疑問も覚える。
「よく見てみると、中国では週末だけのキャンペーンを張ることがなく、長期態勢による販売が多いのです。日本の販促員は短距離ランナーですが、中国は長距離ランナー。毎日、大声を出していたら疲れてしまう。そういう中国の販売方法や習慣を理解した上で、よりよい販促につなげられたら……」と語る。
売り上げをのばすためには、もちろんのこと課題もある。中国内で販売される主な製品は蘇州で作る「中国産」だが、日本から原材料を輸入するため、価格がいくらか高くなる。高級感のある商品を、どうしたら富裕層だけでなく一般の人たちにも手にとってもらえるか――。
「原材料を輸入するのは、日本製と変わらない『安心、安全、品質のよさ』を保証するため。使っていただけたら、そのよさがわかりますし、買って損はない製品だと思っています。それを知ってもらうには、広告宣伝はもちろんですが、販促員によるお客様との積極的な交流が大事。あまり流行にとらわれない白髪染めが一気に売れることはありませんが、お客様の感想や口コミによってじわじわと売り上げが伸びていく。それだけに、店頭での現場重視の姿勢を大切にしていきたいですね」
ここ数年は、めざましい経済発展によって中国の人たちのショッピング感覚も変わってきた。「高くても、いいものを買おう」とする層が確実に増えてきており、同社の製品もしだいに知名度を上げている。男女の別も年齢も問わず、美しく髪を染めることには何の抵抗感もなくなっている。近い将来は北京市内の有名百貨店のみならず、一般消費者がよく訪れるスーパーにも商品を並べて、知名度をさらに高めたいと意欲を語る。
「業績をのばすことも大事ですが、なによりもまず、いいものだから多くの人に勧めたい。中国のお客様にも手軽なおしゃれを楽しんで、ハッピーになってもらいたいのです」。明るい声が、大きく響いた。(文=銭海澎、小林さゆり、写真=小林さゆり)(2005年10月号より)
|