@Chinaわたしと中国
 
 
 北京林業大学日本語科外国人教師   宮崎いずみさん
中国農村の実家で迎えた春節
 
     
 
 
 

 農村研究をきっかけに、意気投合した中国男性と結婚し、中国へ移り住んできました。夫の実家は、河南省の淮河の南にある農村です。食べるものには困りませんが、現金収入が少ない貧困県です。

 夫の両親は、文字どころか数字さえ読めません。そんな両親と大学院卒の息子である夫は、別世界に住んでいるような感じです。

 この春節は、日本の母も連れて、夫の実家で過ごしました。ここでは、かまどに薪をくべ、油条(揚げパンのようなもの)や包子作り、鶏やアヒルの羽むしり、門や入り口の框に張る、赤い紙に祝いの言葉を書いた春聯の貼り替えなど、毎日が体験の日々でした。油条は生地や揚げ方が難しいそうで、夫の姉は、近所の家を回って、油条を作ってあげていました。

陜西省北部楡林地区米脂県楊家溝村、冬のヤオトンの様子

 義母は鶏を絞めるとき、「鶏よ、鶏、私を恨まないでおくれ。お前はこの世ではおかずの一つにすぎないのだから。早く(あの世へ)行って、早く(この世へ)戻っておいで」と唱えるのだそうです。また、はがした前年の春聯は、文字が書かれた神聖なものなので、特別に扱わなくてはいけません。

 大晦日の夜はもちろん爆竹大会。近年は農村にも花火が入ってきて、爆竹のけたたましさに華やかさが加わりました。犬や猫たちはかわいそうなことに爆音に逃げまどっていましたが……

 私たちが実家に帰ると、家事はしなくてもかまいません。両親の生活費の面倒と、甥・姪の教育が私たちの担当です。

 夫の両親とは共通の話題があまり存在しませんが、このような分業が、逆に家族のつながりと自分の価値をより強く感じさせます。

 また、農村の環境だから生まれる習慣、例えばゴミをその場で地面や床へ捨てても、土に返ったり、犬が食べに来たりするのだということを自分で体験することで、「だから、街の中にもこういう人がいるんだ」と理解が広がり、お金では買えない見識の機会をたくさん与えてもらっています。

 私にとって、このような空間と階層を越えた理解の機会を与えられていることは、本当に貴重です。しかし義母は学がない自らを卑下して「役立たずで、ブタと同じだ」と言います。そんな義母は、私たちが北京に帰る時に、「せめて実家で作った農作物や食べ物を持って帰れ」と言い、食べきれないほどたくさん持たせてくれるのですが、いつもそのやりとりが帰省のなかで一番たいへんです。でも、義母たちの作ったものを喜ぶことで、そんな義母の気持ちを少しでも和らげられたらと思っています。

 結婚前、夫が私を紹介するために実家を訪れた際、「農村を嫌がらない子だ」と気に入ってもらえたと聞いています。中国の農村では、まだその良さを本人たちが自覚し、自信を持っているという状態ではないようです。せめてこれからもちょくちょく農村へ帰り、たくさん楽しんで、大切な家族を励ましていけたらと思います。(2006年4月号より)

 

 

【プロフィール】


 奈良県出身。大阪外国大学修士修了。専門は中国環境・農村問題。学生時代から黄土高原の緑化ボランティアなどに参加。現在は北京林業大学日本語科外国人教師。

北京郊外のある農家で、ご主人と一緒の宮崎さん    


 
 
 

 

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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