若 虹
中国・西部地区にある油田を訪ねた人はみな、そびえ立つ松明のようなガス燃焼塔に目を奪われることだろう。それは、天然ガスの採掘施設である。 西部地区は豊かな天然ガス資源に恵まれているが、はるか離れた東部地区は慢性的なエネルギー不足を抱えている。とくに、経済が発達した長江デルタ地区では、必要なエネルギーの85%が他の土地からの供給だ。また、天然ガスに代表される良質なクリーンエネルギーはなかなか得難く、それだけに西部地区からの天然ガスの供給が待たれていた。 中国で使われるエネルギーの構成は、きわめて不均衡である。産業や生活のために使われるエネルギーは、石炭が70%、石油が18〜20%を占め、汚染の少ない天然ガスはわずか2・1%でしかない。そのため、石炭を燃やす時に出される亜硫酸ガスや酸化物、煤塵などの量が年々増える一方で、大気汚染はもはや深刻な問題となっている。 大都市・上海の例を見てみよう。上海の石炭使用量は、年間4200万トンあまり。煤煙による汚染がひどくなる一方で、生態環境も破壊されている。統計によれば、酸性雨の年間降雨率は、上海が11%、江蘇省が21%、杭州など浙江省の主な都市が50%に上り、環境破壊の大きさを裏付けている。 クリーンエネルギーを東部へ
こうした不均衡なエネルギー利用を改善するため、中国の第十次五カ年計画では、とりわけ「西気東輸」(西部の天然ガスを東部へ輸送する)プロジェクトが重視された。 朱鎔基総理は、政府活動報告で次のように述べている。 「中国は、西部大開発の序幕となる『西気東輸』プロジェクトのために、力を尽くさねばならない」 中国・中西部地区の石油・天然ガス田はこれまでに、新疆ウイグル自治区のタリム盆地、ジュンガル盆地、トルファン・ハミ盆地、青海省のチャイダム盆地、内蒙古自治区のオルドス高原、四川省の四川盆地などで発見されている。天然ガスの埋蔵量は22兆4000億立方メートルと推定され、これは天然ガスの総埋蔵量、38兆立方メートルの58・9%にあたる。こうした状況と経済的効果、環境改善への期待を十分に検討した結果、「西気東輸」が国家プロジェクトとして可決され、着工されたのである。 これまでに、陝西省―北京市を結ぶ天然ガスパイプラインが完成し、それ以外の三つのパイプライン、つまり、タリム盆地―上海市、青海省渋北ガス田―(西寧市経由)―甘粛省蘭州市、四川省重慶市忠県―湖北省武漢市を結ぶラインは、建設中か、まもなく着工する段階にある。 なかでも、タリム盆地―上海市(長江デルタ地区)間の工事は、「西気東輸」プロジェクトの「代名詞」となっている。工事は昨年着工し、2004年までに完工、2005年には天然ガス120億立方メートルの輸送が可能になる予定だ。
このパイプラインは、全長4200キロ、直径1メートル11センチ八ミリで、新疆ウイグル、甘粛、寧夏回族、陝西、山西、河南、安徽、江蘇など八つの省・自治区と上海市を経由する。パイプライン設置予定地の地形は複雑で、砂漠や高原、森林のほか河川、鉄道、幹線道路もある。黄河を三回、長江を一回渡り、呂梁山と太行山の二つの山脈を越えなければならない。投資額は推定384億元。都市部におけるパイプライン網や関連プラントの建設費用を合わせれば、投資総額は1200億元に達すると見込まれる。 専門家は、次のように予測する。 「中国は今世紀から、天然ガスの開発・生産のピークを迎える。天然ガス貯蓄量は年に1200億立方メートルずつ増加し、年に120億立方メートルの供給が可能になり、10年後には天然ガスが使用エネルギーの8%を占めるようになるだろう。石炭から天然ガスに変わることで、使用エネルギーの構成を変え、沿線都市の大気汚染を改善するのだ」 東部と西部が利益を 中国の大地を貫く天然ガスパイプラインは、西部の豊かな資源と、東部の広大な市場とを結ぶものだ。西部と東部が互いに影響を与え合い、共栄するのである。 新疆ウイグル自治区の西北部に位置するタリム盆地は、石油・天然ガスの埋蔵量が中国で最も多い地区の一つだ。56万平方キロにわたり探査した結果、天然ガスの埋蔵量は8兆4000億立方メートルで、中国の全埋蔵量の22%を占めることが判明した。「西気東輸」プロジェクトは、 新疆ウイグル自治区の経済発展にも絶好のチャンスを与えたのである。 プロジェクトの実施により、同自治区の天然ガス田に対して200億元以上が投資され、関連プラントへの投資を合わせれば同自治区の工業生産は26・8%の増加、それによる増収は数億元に上ると予想される。石油・天然ガス田の開発により、インフラ整備や設備の維持・補修、物資の輸送、建築材料・商品の供給など関連産業の発展を促すとともに、それによる雇用も増やす。天然ガスを年に120億立方メートル生産すれば、石油化学原料も数百万立方メートル生産できることになり、同地の石油化学工業の発展を促すのである。 同自治区を除く西部地区でも、プロジェクトによる恩恵は計り知れない。陳吉慶・中国石油西気東輸プロジェクト項目経理部総経理によると、「天然ガスパイプラインへの投資はその67%が西部地区にあたり、鉄鋼、建材、石油化学、電力など同地の関連産業が必ず発展する」と言う。西部地区経済の著しい発展が期待されているのである。 上海はパイプラインの終点であり、天然ガスの最大の利用地でもある。 2003年、上海市民は新疆ウイグル自治区から送られた天然ガスが利用できるようになり、2005年、上海の一次エネルギー(自然から直接得られるエネルギー)における石炭消費は、従来の70%から60%に減少する。一方の天然ガスは、供給量が30億立方メートルとなり、一次エネルギーにおける消費が5%から6%へと上昇する。上海の使用エネルギーの構成が大いに改善されるのだ。 上海市政府では今後、市民生活や工業、交通などの面で徐々に天然ガス利用を増やしていく方針を定めた。上海天然ガスパイプ網公司(会社)を設立し、安全で性能の良いガスパイプ網を各家にはりめぐらす計画だ。 天然ガスの到来は、上海の企業にも絶好のチャンスを与えることになる。データによれば、天然ガスを1立方メートル利用するための設備投資は、5元から8元。120億立方メートル利用するためには、設備投資が600億元に上るという。上海の鉄鋼、機械、電力、化学工業などの産業は、いずれもこのチャンスを待ち構えている。 天然ガスを歓迎するのは、上海の人々も同じだ。ある市民は「天然ガスが使えるようになれば、これまで以上に空は青く、水は澄んで、台所もきれいになるでしょう。それが一番うれしいわ」とプロジェクトの成功に期待を寄せていた。 対外開放で外資を利用 「西気東輸」プロジェクトは、どうやって莫大な建設資金を確保し、工事を順調に進め、各方面に利益をもたらすのか? これについて中国政府は、2000年7月にすでに表明している。つまり「プロジェクトの全面的な対外開放と、全面的な対外協力を求める」のだという。 従来は対外的に開放されなかった天然ガスパイプラインの建設と経営、都市部の輸送パイプライン網の建設・改造なども、開放の対象とされる。また、国の独立資本とせずに、外国側が自由に株を購入しコントロールすることができる。合資や協力などいずれの方法でもプロジェクトに参入できる――などの方針を打ち出したのだ。これは、政府の対外開放の決意を物語るものだ。 張国宝・中国国家計画委員会副主任によれば、優遇政策には次のような項目がある。 プロジェクトのインフラ整備に参入する企業に対し、国と関係機関が優遇政策を与えるだけでなく、西部大開発に参入する企業に対しても国が優遇政策を与える。中国の税収優遇政策の規定に基づき、エネルギー輸送項目などに投資する外国企業に対し、免税または減税の措置をとる。プロジェクトに投資する外国企業に対し、鉱山・鉱石採掘の権利費を免除または減額とする。設備の輸入税については免税または減税とする。外国企業の経営拡大、土地使用権について優遇する――などだ。 天然ガスパイプラインの工事は現在、順調に進められている。タリム盆地北部で新たに天然ガスの埋蔵が確認されたほか、同盆地のディナ地区でも二号大型天然ガス田が発見された。天然ガスの安定供給に向け、ますます期待がかかるのである。(2002年1月号より) |