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休日の自然の中での凧揚げは、心身ともにくつろげる |
広告会社を経営する唐鉄軍さん(33歳)は、北京市南部の方荘団地に住む凧揚げの「名人」だ。唐さんが広場にやってくると、人々は揚げていた凧をスルスルと収めて、唐さんの実演に見入るのである。人々は、その技をこう絶賛している。「唐さんの凧は生きものだ。彼の思い通りに飛んでいる!」
唐さんが揚げる凧は、「風筝鷹」(タカ凧)と言われる。その姿が本物のタカによく似ているので、別名「盤鷹」(空を旋回するタカ)とも呼ばれる。その特徴は、微風であっても周囲数メートルのせまい場所があれば、糸一本で凧をいかようにも操作できることだ。池や湖、木々のこずえ、丘陵、空き地、高層ビルの谷間など周辺環境の違いや、風向きの変化によって、その糸の操り方はかなり違うものとなる。凧揚げには技術だけでなく、揚げる人の観察力や判断力、機敏な動きが必要なのだ。
彼は、じつに熱心に中国凧を研究している。それによれば伝統的な凧の工芸・技術には、骨組み、はり付け、絵付け、凧揚げの四つがある。また、造型や絵付け、工芸制作では、もっともその技術が試されるという。
今では、社会生活もスピーディーになり、凧も商品化されているので、こうした凧作りの伝統文化も民間ではだんだんと失われている。そうした中で、一部の国や地域では、凧の工芸・技術がすでに中国を追い越すレベルだという。唐さんは言う。「凧揚げの技術を高めてこそ、人々の注目が集まり、凧文化への関心も高まるのではないでしょうか」。民間の凧文化をふたたび盛りたてようと、彼は自分なりの力を尽くしたいと考えている。
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タカ凧一色の自室で、唐鉄軍さん(写真 楊振生) |
自分の凧を本物のタカに近づけるため、タカに関するビデオテープや本などの資料収集にも努めている。彼の住まいはタカ一色で、まるで「タカ・ワールド」のようだ。唐さんは、こう冗談めかして言う。「わたしの生活の中で、タカはすでにトーテム(神聖視する動植物や自然物)となっています」
凧揚げを楽しむためには、かなりの経済的基盤が必要だ。質のいい風筝鷹を作るには、一つ千元(1元は約15円)以上もかかる。もし、凧が落ちて破れたら、一般市民の一カ月分の給料が、一瞬にして消えてなくなるのである。また、これほど複雑に作られた大きな凧を外で揚げるためには、自家用車がなければならない。
生活レベルが高まるにつれ、人々の住環境もだいぶ改善されてきた。北京の住宅団地には、レジャーやスポーツ、憩いの場がある総合的な大型緑地が増えている。そうした中で、自然に親しむ伝統的な凧揚げが、人々の暮らしの中でだんだんと復活してきているのも事実だ。
唐さんに盤鷹の揚げ方を教わる人も多くなった。天安門広場や団地の生活広場などは、いずれも彼らの「腕試し」の場所となっている。凧揚げファンの中では、唐さんたちの盤鷹もその知名度を上げている。現在、唐さんは、「タカ凧特技チーム」の結成を計画中だ。台湾にある「凧特技チーム」のように、「凧揚げをスケートボードなどの現代的なスポーツとドッキングさせたい」「自分のやるべきこととして、盤鷹の技術をさらに発展させたい」と考えている。唐さんは言う。「もっと多くの人々に凧を好きになってもらい、文化を広め、技術を向上させるためには、伝統文化に新たな血を注がなければなりません」
唐さんにはもう一つの夢がある。それは、2008年北京オリンピックの開幕式で、世界各地の人々に彼らの特技である盤鷹を、ぜひとも披露したいということだ。(2002年6月号より)
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