祝 中日国交正常化30周年

脅威ではなく協力のパートナーに


     中国国際問題研究所アジア・太平洋研究室 副研究員 姜躍春

 

 日本での勤務を終え、帰国準備のためデパートへ土産物を買いに行ったときのことである。「メイド イン ジャパン」の品物を買おうとしたが、それは簡単ではなくなっていることを発見した。服も玩具も日用品も、ほとんどが「メイド イン チャイナ」のラベルがついていた。このことから、最近、日本でよく言われる「中国脅威論」を考えた。

 2001年5月に出版された『通商白書』の中で、日本は初めて中国を、「東アジアにおける主要な競争相手」と見なした。この後、日本国内で中国経済脅威論に関する一連の議論がいっせいに起こってきた。この種の言論は、中日関係に直接的な影響を及ぼしている。中国経済の成長が日本国民に及ぼす影響をどう見るべきか、今後、中日両国はさまざまな分野での協力をどのように考えるべきか、中日国交正常化30周年を機会に、これを詳しく検討することは、大いに意義あることだ。

中国製は恐れるべきか

 確かに、近年来、中国経済の発展の勢いは猛烈で、世界経済の中でも稀有なことである。中国の製品が世界貿易の中に占める地位、とりわけ中日貿易に占める地位には、重大な変化が起こった。その直接的な結果として、「メイド イン チャイナ」の製品がいたるところで見られるようになったのである。

今年、北京で開かれた国際モーターショー(写真・馮 進)

 その一方、日本は、対外貿易黒字が減少し続け、国際競争力が低下するにつれ、企業は製品コストを下げるため、生産拠点を海外に移している。その移転先として、中国および東アジアの発展途上国が重要な選択肢となっている。そして中国に投資し、工場を開設する企業が増えるのにともなって、日本国民は、中国製品が日本製品の重要な競争相手になり始めたと考えるばかりでなく、企業の海外移転によって、国内の産業空洞化が引き起こされ、それによってもたらされる失業などの問題への心配が日増しに深くなっている。

 中国の製品輸出と日本企業の海外移転は、日本にとって何を意味するだろうか。

 もし、経済法則からこの問題を見れば、これは正常な現象だとすぐわかる。最小の支出で最大の消費を行うことは、商品社会においてすべての消費者が追求する最終的な目標である。こうすることによってのみ、収入が増加しない状況の下で、人々は消費をさらに拡大することができる。

 近年来、中国製品の質の向上につれて、その低コストの優位性が日増しに明らかとなってきた。東京での日本製の洋服一着の価格は、中国製の三倍以上する。その他の製品もだいたい同じようなものだ。日本経済はこの十年連続、不景気で、日本国民の消費水準は大幅に下降している。こうした状況下で、中国製品が日増しに、市民によく選ばれるようになるのは自然な成り行きだ。

 価格が安く、品物が良い中国製品が日本の大衆にもたらしたのは、実益である。これが近年、中国製品の人気上昇の重要な原因である。去年、中国のネギやシイタケなどに対して日本が輸入制限を実行したあと、日本の市場ではネギやシイタケの価格が大幅に上昇したが、これは中日貿易が双方にとって有利であるばかりでなく、すでに国民生活と密接に結びついていることを示している。

 だから客観的に見て、中国製品は日本にとって恐るべきものなのか、それとも愛すべきものなのか、その答えは明らかだ。

海外移転の経済合理性

 経済学には、さらに一つの永遠に変わらぬ原理がある。それはすなわち、最小のインプットで最大のアウトプットを得る、ということである。どんな企業もみなこうである。

 日本では、終身雇用制と年功序列制が依然として企業、特に大企業の基本的な雇用制度と分配制度であり、これが日本の人件費をずっと低くできないようにしている。高止まりの生産コストが、日本国内での生産拡大の大きな障害になっている。

 2001年に日本の経済産業省が、七つの国と地域の152の工業製品、33のサービスの価格について調査を発表した。調査したのは、2000年9月から11月までで、その結果は以下のようになっている。

 日本の価格は、ドイツの2・08倍、韓国、中国の台湾地区、香港地区、シンガポールの2・29倍から3・83倍。中国大陸と比べると、日本の工業製品の価格は2・49倍、サービスは8・44倍であった。

 バブル経済崩壊後、日本の土地の価格やサービスの価格はやや下がったとはいえ、その絶対価格は依然として高い。中国企業の賃金はだいたい日本の20分の1で、その他のコストもずっと低い。例えば横浜市の工場用地の価格は、上海の61・6倍、電話の月々の基本料金は北京の3・9倍、電気料金は上海の2倍である。このため、日本企業は競争力を高める客観的な必要性から、人件費の安い中国に工場を設立し、製品を生産するのだ。

 現在、世界経済がグローバル化に向かって日増しに加速している時代に、いかにして競争力を高め、もっとも適した生産地点で最大の効率と利益を追求するか、それがすでに、世界各国の基本戦略の選択肢となっている。この意味から、日本企業が絶えず高コスト社会の日本から海外へ向かい、コストが日本国内より数倍も低く、しかも広い市場を持つ中国などの発展途上国へと向かい、日本が国際的規模での産業の再編成を加速することは、グローバル化の中で、企業が国際市場での競争力を保持するための重要な戦略転換である。そしてこれは利潤の法則にも合致し、当面の世界経済発展の趨勢にも合致しているし、日本の産業の活きる道である。

 現在、世界の先進国の海外移転の比率を比べて見ると、日本の海外移転の比率は欧米などの先進国に遥かに及ばない。米国の製造業の海外での生産は30数%に達していて、日本のほとんど2倍だが、産業の空洞化を心配する人は誰もいない。

 さらに仔細に分析するなら、日本が中国などの東アジアの国々に移転した産業は、その多数が日本国内で相対的優位性を失った産業や製品であり、中国に出てはじめて、発展できる一定の空間を見つけることができる。こうした産業の海外移転は、日本経済の発展にとって利益こそあれ、害はない。

 現在、中国に移転した企業の中にさえ、デジタルカメラやDVDなどの高付加価値の製品を生産しているものもあるが、依然としてロット生産を主とし、かつまた生産工程の中で使われる先端技術も大部分が日本からの輸入に頼っている。当然のことながら、最近は日本の研究開発基地が海外に移転するという状況も出てきたが、こうした研究開発基地の目標は、現地の市場をにらんだものであり、現地の特色に合った製品を開発するのに、現地の優秀な研究者を十分利用するためであって、日本の研究開発基地に取って代わるためのものではなく、これを補完するものにすぎない。

 だから日本の産業の中国移転には、経済合理性があると言える。

日本の1%は中国の7%

日本の1%は中国の7%

 中国の現在の実力と発展速度を日本経済と比べてみると、なお、かなり大きな格差があり、日本の脅威となるのはなかなか難しい。たしかに近年、中国経済は毎年、平均10%近い高度成長を続けている。経済の規模から見れば、日本の国内総生産(GDP)は実質でだいたい中国の5倍である。これは中国が現在のように七%で経済成長しても、日本は一%経済成長すればよいということになる。

 中国の人口は、日本の10倍であり、一人当たりで計算すると、中国人のGDPは世界で128位ぐらいにあり、正真正銘の発展途上国である。まして中国は、資金や技術から設備、部品にいたるまで、その大部分を国外からの導入に頼っている。さらに中国に進出した外資系企業の輸出が、中国の対外貿易額の半分にも達している。これは中国の輸出の50%が、中間製品であることを意味している。

 例えば日本の店頭に並べられている中国製のカメラは、その中の多数の部品が日本のものである。その他の製品も同じようなものだ。だから、最終的に中国の利潤となるのは、ごくごく一部である。

 さらに言わなければならないのは、中国の国土は広く、人々が理解しているのは、北京や上海などの大都市の状況が多い。実際は、中国経済の地域の発展は不均衡で、中国東南部の沿海地域の発展レベルは、中国全体の状況を表しているとは言えないし、内陸部と東南部の沿海地域は、経済の発展や所得レベルなど各方面で相当大きな格差が存在している。一部の地区では、最低限の「衣食」の問題さえ、まだ解決していない。

両国関係を発展させるには

2000年9月13日、中国からの初の一般旅行団の一行95人が東京・成田の空港に着いた(新華社)

 中日国交正常化から30年、両国の経済関係にはすでに、質的で飛躍的な変化が現れた。従来の単純な相互補完関係から、相互依存の関係に発展したのである。こうした協力は、両国人民に巨大な利益をもたらすばかりでなく、アジア・太平洋地域の経済協力を進めるうえでも必須のことである。

 二国間貿易から見れば、日本はすでに連続八年、中国の最大の貿易パートナーとなっている。中国もまた、日本の第二の貿易相手国だ。2001年の日本の世界各国への輸出は全体で15・7%減少し、輸入も7・9%減り、低迷した。しかし、対中国の貿易は、その伸びが緩やかになったとはいえ、主要貿易相手の中で唯一、輸出入ともに増加している。例えば日本の対中輸出は、すでに台湾地区や韓国を抜き、第二位に上がった。

 同様に、中国は依然として日本の輸入の第二位を占めている。日本の対中貿易は、日本の貿易総額の中で初めて10%を突破し、11・8%に達した。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したことで、中日貿易はさらに大きく発展する余地ができた。2002年の日中貿易は、去年の892億ドルを超え、1千億ドルの大台に乗せる可能性がある。

 1984年以後、中国はすでに、日本の対アジア投資の中で最大の投資対象国となっている。中国に対する直接投資は、香港・澳門、米国についで日本は第三位である。今年1月から8月までに中国が日本から受け入れた投資項目は1244件で、前年同期比で31・4%の伸びを示した。中国の対外開放と経済発展は、新たな歴史的段階に入ろうとしている。

 中国のWTO加盟は、投資の分野で、全方位の、予測のできる開放をもたらし、外国企業が中国市場に進出するために、さらに多くのチャンスを提供するだろう。同時に、日本もまさに社会経済の大変革の時代に突入しており、これは必然的に産業構造と流通構造の大規模な調整をもたらす。このことは、中日二国間の経済貿易協力をさらに深めるうえで、広々とした天地を提供することになろう。

 多国間協力の面では、現在、東アジアの十三カ国の国民総生産(GNP)は、世界のGNPの20%以上を占め、輸出も世界の輸出総額の20%以上を占めている。東アジア地域の域内貿易総額は、国際貿易全体の60%以上を占めており、またこの地域は、全世界の外貨準備高の60%以上を持っている。

 中国と日本はともに東アジアの大国であり、貿易や投資の規模を拡大し、国際協力を強化するという観点から考えれば、双方はこの方面の研究と協調をさらに強め、いっそう開放する姿勢で国際的な経済協力を積極的に進めることによって、東アジア地域の経済発展に有利となるような実務的協力を提唱し、推進することが大切である。これは、この地域の経済発展に貢献するばかりではなく、さらに高い次元での二国間協力をいっそう早く前進させることができる。

 欧州や北米地域に比べ、アジア地域の経済貿易と金融の協力はまだ始まったばかりの段階にある。しかし現在、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス中日韓の「10+3」の枠組みのもとで、中日両国はすでにかなり良好な協力の基礎ができた。最近、中日両国は、金融協力の面で通貨互換協定に調印した。これによって両国の経済協力は新たな段階に進んだ。

2001年11月5日、ブルネイの首都で挙行された東南アジア諸国連合(ASEAN)と中日韓の首脳会議で、中国の朱鎔基総理(右)と日本の小泉首相(中)、韓国の金大中大総統(左)は昼食会で握手した(新華社)

 経済のグローバル化と地域経済の一体化がさらに進むのにともなって、中日両国は、高遠な観点から、二国間協力の発展のために、さらに広々とした空間を拓かなければならない。これは両国人民にとって有利であるばかりでなく、東アジア地域の発展と協力を促進するうえでも重要な貢献をなすことになるだろう。

 当然のことながら我々は、中日経済関係は広々とした前途が開けていると同時に、両国の経済分野でのマイナス要素も少し増加していることを見てとらなければならない。今年は中日国交正常化30周年である。中日関係はさまざまな起伏を繰り返してきたが、ある問題は、すぐには共通認識に達することができないし、ある問題は相互に誤解がある。それにもかかわらず双方は、両国の長期的利益を考慮し、相互の信頼を増やし、相互の猜疑心を解き、両国の多分野での全方位の協力を強めることを今後の両国関係発展の重要な着眼点にしなければならない。

 そのためには、第一に、両国国民の交流を深めるために、子どもから始めなければならない。第二に、両国の協力を強化するためには、両国の発展の根本的な利益から考えなければならない。第三に、協力の範囲は、二国間から多国間へと進め、さらに地球的な視野から見なければならない。

 ここで私は、ある中国の外交官の語った言葉で、この文章を締めくくりたいと思う。それは「中日両国は、二匹の虎のように死闘してはならず、二頭の良馬のようにともに前進しなければならない」という言葉である。(2002年9月号より)