動き始めた「西電東送」プロジェクト

                                          侯若虹


 2000年に採択された国家の第10次5カ年計画には、四大プロジェクトがある。それは中国南部の水を北部に送る「南水北調」、青海とチベットを結ぶ「青蔵鉄道」、西部の天然ガスを東部に送る「西気東輸」、それに西部の電気を東部に送る「西電東送」の各プロジェクトである。いずれもすでに正式に計画され、実施に移されているが、とくに西部大開発のシンボル的プロジェクトである「西電東送」はすでに初歩的な成果を収めはじめている。

解消された停電

 中国西部には豊かな電力資源があり、東部は電力が足りない。そこで貴州、雲南、広西、四川、湖北、内蒙古、陝西、山西などの西部の各省・自治区の電力資源を開発して、電力がきわめて足りない広東省、上海市、江蘇省、浙江省や北京・天津・唐山地区に送る――これが「西電東送」である。

 改革・開放政策が本格的に始まった1980年代の初めごろから、広東省の経済は高度成長を始めた。しかし電力不足のため、地元の企業が製品のグレードアップや生産施設の増加を行おうとする時には、電力の割り当てを申請する必要があり、厳しい審査のすえ許可がおりてはじめて実施できるという状態であった。また地元住民の電力使用量も大幅に増加した。

 電力の供給不足を緩和するために、広東省は香港から電気を買うことさえもあった。電力不足は広東の経済の発展を制約するボトルネックになっていたのである。

2002年1月に着工した雲南省を流れる瀾滄江の小湾水力発電所。この発電所は2010年に最初のユニットが発電を開始する計画で、雲南省の「西電東送」の中心的なプロジェクトである。

 1988年、電力の需要が拡大し供給が不足するという、日増しに深刻になる矛盾を解決するため、国家計画委員会の支持の下で、当時の能源(エネルギー)部と国家能源投資公司、および広東省、広西チワン族自治区、貴州省政府は「合同出資による天生橋水力発電所の建設に関する協定」に調印した。これによって、紅水河流域の水力発電の資源開発が始まった。

 2001年、雲南、広西、貴州の境界を流れる紅水河に、天生橋の二つの発電所が相次いで完成し、中国では最初の、もっぱら東部に電力を提供する水力発電所となった。その年の6月には、天生橋変電所が広東に向け正式に送電を始め、直流の送電能力は180万キロワットに達した。大量の西部の電力が、貴州、広西を経て延々980キロ離れた広東省に送られたのである。

 中国国内で電力が不足しているのは広東省だけではない。1995年以前は、首都の北京でさえ電力が足りず、各地区ごとに順番に電力制限が行われ、毎週、各地区ごとに停電する日が決められていた。弊社の所在する地区は毎週火曜日が停電するので、火曜日は全社員会議の日と定められた。付近の商店は、停電の日になるとやむを得ず、ロウソクの火で営業した。

 1990年から北京市は、内蒙古自治区と電力の供給について協力を始めた。双方は、資金、技術、人材などの面において互いに利益があがるよう暗黙の了解があった。それ以来、内蒙古が毎年、北京に提供した電力は、それ以前の6億キロワット時から68億キロワット時に増加した。それは北京で使われる電力総量の5分の1を占めており、北京市の電力不足の状態は大いに緩和されたのである。

 そのおかげで、この数年間、エアコンの普及によって北京の夏の電力使用量は急激に増加したものの、電力が足りなくなるという切迫感はない。2001年7月17日、北京の気温は35度になり、この日の全市の電力消費のピークは705万キロワットに達し、前年の電力消費のピークより24万キロワットも多くなった。北京の電力供給の歴史で、これは最大の記録となった。しかしこれほど大きな電力消費にもかかわらず、市民は電気の使用を制限されなかったばかりでなく、商店や企業も平常通り営業や生産を続けた。これは過去には考えられないことである。

アンバランスな電力需給

 中国で電力不足の地区は北京、広東だけではない。中国の経済建設の急速な発展にともなって、東部全体と沿海地区および多くの大中都市は、程度の差こそあれ、どこも電気不足の悩みを抱えている。

「西電東送」のためには、長江にまたがる高圧線を建設しなければならない。三峡から湖北省・万州までの500キロボルトの送電線プロジェクトの牽引線が成功裏に長江の北側に達した。(NEWSPHOTO)

 中国は面積が広く、各地の持つ条件がそれぞれ異なる。このため電力資源の需要と供給の矛盾はきわめて深刻である。北京、広東、上海など東部の七つの省と直轄市の電力消費量は、全国の電力消費量の40%以上を占めているにもかかわらず、エネルギー資源は乏しい。石炭資源はほとんど陝西、山西、内蒙古西部に集中している。

 また水力発電の資源は、開発可能な発電設備容量の90%が中国西南部、中南部、西北部に集まっている。とくに長江の中・上流の本流と支流や西南部の国際河川は、開発可能な発電設備容量が全国の60%を占めている。水力発電の資源の分布と電気を消費する地域の分布は、きわめてアンバランスであり、これが客観的に見て西部の水力発電の開発と利用を制約してきた。1999年末現在、中国の水力発電設備容量は7300万キロワットで、水力発電の開発可能な設備容量の一九%しか占めていない。

 現在、中国はすでに多くの大・中型の水力発電所を建設し、さらに建設中の発電所も少なくないが、完成した発電所から見れば、その多くが十分に利用されていない状態にある。例をあげると、四川省を流れる金沙江の最大の支流であるヤーロン川の下流に、全国で二番目に大きな二灘水力発電所が建設された。この建設には280億元が投資された。しかし、需要が少なく供給が多すぎるため、やむを得ず一部の水は水力発電機を通さずにそのまま捨てなければならない。発電設備は十分使われず、2000年だけで赤字は1億元を上回った。

北・中・南 三ラインの布石

 西部の電気を東部に送る「西電東送」を実施することは、資源の分布と生産力の配置から来る客観的な要求であり、西部の資源の優位性を利用して経済を発展させ、東部と西部の地域経済をともに発展させる重要な措置でもある。

 現在、「西電東送」プロジェクトは順調に進み、北、中、南という三本のラインの配置が一応形成された。北のラインは、黄河の中・上流の水力発電や内蒙古、山西の火力発電の電力を北京・天津・唐山地区へ送る。中のラインは四川、重慶、湖北の電力を上海、江蘇、浙江など華東地区へ送る。南のラインは雲南、貴州、広西の電力を広東へ送る。

 三本のラインの中で、南のラインの建設が一番早い。広東省は投資が最も多く、西部の電気を最も多く受けとる省である。

 2000年に第十次五カ年計画で「西電東送」プロジェクトが正式に決まってから、国家電力公司はまず全体計画を立て、2000年11月に三つの水力発電プロジェクトと二つの送変電プロジェクトが同時に着工された。その総投資額は約百二億元にのぼる。その翌年、さらに六つの火力発電プロジェクトと三つの送電網プロジェクトが着工された。その総投資額は350億元以上である。これらのプロジェクトの着工によって、ますます多くの西部の電力が東部に送られる。そして国家が第10次5カ年計画で定めた、新たに1000万キロワットを広東省に送電するという目標を達成することができる。

 中国全国の電力網建設の計画によると、2010年までに全国では北、中、南の三つの地区にまたがる電力ネットワークが相互にリンクし、2010年から2020年までに、全国が統一的な電力網に基本的に覆われる。これによりさらに大きな範囲での資源の適正配置が基本的に実現できると見込まれている。(2002年10月号より)