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この珍しい「夫婦芦笙には千年以上の歴史があるという」 |
貴州省東部に位置する施秉県に「杉木河」という河がある。両岸が杉に覆われているため、そう呼ばれている。山々や峡谷の中を流れているので落差が大きく、昔の人は切り出した杉の運搬にこの河を利用していた。
近年は現地の政府と観光部門が観光地として開発し、施秉県は「ラフティング(激流下り)の町」としてその名を挙げた。旧暦5月5日の端午節(端午の節句)には、ラフティング祭りが開かれる。今年は6月15〜17日に、第3回ラフティング祭りが開催された。
施秉県はミャオ族の居住地である。そのため、祭りもじつに豊かな民族色に彩られている。開幕式では歓迎アーチの傍らに、民族衣装を着飾ったミャオ族の若い娘がズラリと並んだ。なみなみと酒を注いだ牛角杯をささげ持ち、客人が来ると歌をうたって彩色卵や酒をすすめて、その幸せを祈るのである。
祭りの間、施秉の町はたいそうなにぎわいだった。昼には、村々から集まってきた漕ぎ手がブ陽河で竜舟レースを、騎馬名手たちが郊外の山で競馬を行った。公園の中では飼い鳥の鳴き声を競う「闘鳥」が、河辺では民謡の歌垣が行われた。夜になると、河原にかがり火が焚かれて、民族服で盛装をした若い男女が輪になって踊った。爆竹や花火が鳴り響く中、たくましい男たちが竜灯(竜の形のちょうちん)を高く掲げて、力いっぱい舞い踊るのだ。その勇壮な眺めといったらなかった。
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美しい杉木河でのラフティングはロマンとスリルに満ちている |
翌朝、ラフティングに向かった。500人あまりもの貴州省内外の観光客たちが、シャツや短パン、サンダルなどを携帯し、施秉の町から西北へ約14キロのスタート地点にバスで向かった。杉木河は全長20キロ以上。すでに開発されたラフティングのコースは約14キロだ。私は、数人のカメラマンとともに河沿いを上り、最適の撮影スポットを探し歩いた。
杉木河の風景は、じつにすばらしい。一帯はカルスト地形で、両岸に奇岩怪石が連なっていた。たとえば、その形が似ているものに、座禅をする羅漢、腰の曲がった老人、子に乳を与える母親、雄たけびを上げるオンドリ、遠路を行くラクダ、尾羽を広げた孔雀などがある。河沿いの道を進んでいくと、まるで自然が生み出した「芸術回廊」を歩いているかのようである。
両岸の山々には、亭々とそびえる古木やうっそうとした竹林、また、下がり藤などが生い茂っていた。岩崖の裂け目からも低木、野草が伸びていた。霧深い谷間では、葉の上の露が雨のようにしたたり落ちる。現地では「霧雨」と呼ばれる現象である。林からは時おりヤマガラの鳴き声が聞こえ、幽谷の静けさをいっそう引き立てていた。
杉木河の河幅は約2、30メートル、最大河幅は50メートル足らず。水深は約30センチで、最大でも約一メートル。急流や浅瀬が多く、スピードが生じるために、観光客にとってはスリル満点である。しかし、穏やかな流れのところは、水面が鏡のように澄みわたり、河底の石や細かい砂もハッキリと見える。とりわけ、そのやわらかな砂の河原は、観光客が休んだり、バーベキューを楽しんだりするには格好のポイントとなった。
河の水は、美しく澄みわたっていた。その水源は、施秉県風景区にある雲台山の原始林や、岩崖の裂け目から流れ落ちる滝である。両岸に民家や田畑がないので、河の水も汚染されずに安心して飲むことができる。そのため杉木河は「ミネラルウォーターの河」とも呼ばれるのであった。
私たちは、激流の撮影スポットを数カ所選んだ。そのうち、ラフティングのゴムボートが下ってきた。サンバイザーをかぶり、ライフジャケットを着用した乗客は、ほとんどが若者や中年層の男女であった。女性はボートの前方に、男性はパドル(櫂)を手に持ち、後方に、それぞれ分かれて座っていた。軽くて柔軟なゴムボートは、急流や浅瀬で激しく上下に揺れたり、渦に巻かれて回ったりしながら、みるみると下っていった。彼らはみな大喜びで、手を振ったり、Vサインを送ったりしながら、私たちのカメラに愛嬌をふるまった。
もちろん、岩にぶつかり、急流に飲み込まれて転覆したものもある。しかし河が浅いので、たとえ落ちても起き上がり、またボートに乗ればいいのだ。ある若い男性は、スリルを求めてわざとボートを揺すっては、河に投げ出されるのを楽しんでいた。また、ある男性は(おそらくベテランの「ボート乗り」だろうが)、ボートが浅瀬に入ろうとした時、十字形に腹ばいになった。結局、ボートは岩にぶつかり転覆したが、彼はすっくと立ち上がり、びしょぬれの顔を拭って、友人に「おもしろい!」と叫んでいた。
「壇子口」は、流れに百メートルあまりの段差がある場所だ。両岸に怪石が迫り、河幅が狭く、落差が大きい急流で、よくここでボートが転覆するという。過去にけが人が出たので、杉木河でのラフティングが禁止された唯一の場所となった。観光客は、ここで一旦ボートを降りて、肩に担いで、その先の下流へと歩いていくのだ。
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バーベキューで腹ごしらえをしてから、また河を下る |
観光客のグループが、砂の河原で休憩し、バーベキューを楽しんでいた。バーベキュー用コンロの上には「バ(米に巴)バ」と呼ばれるもち米をこねて作った食べ物やベーコン、豆腐乾(半乾燥か燻製にした豆腐)、トウモロコシなどが焼かれていた。また、釣り上げたばかりの魚を金串に挿して塩、トウガラシ粉をふり、あぶっている人もいた。もくもくと魚を焼く煙と、何ともいえない香ばしいにおいが辺りに漂っていた。
観光客に話を聞くと、そのほとんどが貴州省の貴陽市や遵義市から訪れていた。広西チワン族自治区や四川省、湖南省、広東省、海南省などから、はるばるやって来た人もいた。遼寧省から来た二人のお年寄りも、若者たちといっしょに大いに楽しんでいた。
貴陽市から来た張さんは、40過ぎの男性だ。杉木河でのラフティング・ファンで、これまでに21回も経験したという。その豊かな経験を、こう楽しそうに語ってくれた。「一回目は恐くて恐くて、すぐにボートにつかまった。ボートが崖にぶつかるたびに、ワーワーと叫んだのです。でも、そのうちだんだんと落ち着いて、おもしろくなってきました。二回目はリラックスして、ロマンやスリルを楽しむようになった。三回目になると、きれいな景色やさまざまな形の岩を観賞する余裕が生まれた。それらの石はまるで生きもの。私と対話をするかのように見えるのです……」(2002年12月号より)
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