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貧しい人々の暮らしをどう支えるか

 

専門家 インタビュー

 

インタビューを受ける北京大学社会学教授の佟新・博士(写真・魯忠民)

現在、低所得者層の社会保障の問題が、社会の広範な関心と注目を集めている。しかし低所得者層をどう画定するのか。低所得者層が生まれた原因は何か。低所得者層の現状は?こうした問題について、北京大学社会学部教授の佟新博士に聞いた。

 

――中国では、低所得者層をどのように画定していますか。

 

佟新博士(以下は佟と略す)正確に言えば、このグループを「低所得家庭」と言った方がもっと適切だと思います。なぜなら、彼らのほとんどが家庭単位で存在しているからです。例えば、一人が毎月1000元の賃金を得るなら、決して低所得とは言えませんが、もし彼が老人や子どもの一家5人を養わなければならないなら、毎月1人当たり200元しかありません。このような一家は低所得家庭となります。

 

現在、中国各地では、その地の実際状況に基づいて最低所得家庭の基準を画定しています。この基準に合う家庭が通常、私たちが言う「低保家庭」です。しかし、低所得家庭については、まだ明確で、統一した画定はありません。さらに画定基準も多種多様です。低所得者層とは、家族1人当たりの収入がその地の「低保」基準の150%以下の人々であると、個人的には考えています。

 

――現在、中国には低所得者層はどれくらい存在していますか。

 

佟 現在、正確な統計データはまだありません。政府が発表しているのは、「低保」対象者の数ですが、低所得家庭については、統一した基準がないため、統計することはできません。ここ数年、「低保」を受ける都市住民の数は常に2200万人前後を保っています。「低保」基準の150%以下の家庭まで含めば、保守的な見積もりでも、低所得者層は5000万人いることになりますが、これは都市部の低所得家庭だけの数です。さらに農村部を加えると、かなり膨大な数字になるでしょう。

 

――低所得者層が形成された主要な要因は何でしょうか。

 

済南市の郊外にある黒峪村の老人たちは、養老保険金を受け取った
佟 低所得者層はいかなる国にも、いかなる社会にも存在します。中国について言えば、社会形態の転換が低所得者層を生んだ重要な原因だと思います。現在、中国は計画経済から市場経済へと転換する過程にあり、過去には国家と企業が背負っていた社会問題が、今はすべて個人に転嫁されました。国有企業の制度改革の過程の中で、多くの労働者がレイオフされたり、失業したりしました。彼らが都市部の低所得者層の主な部分となっています。

 

また、市場経済が実行された20年の間に、安い労働力は企業が勝ち残る重要な手段の一つとなりました。そしてこうした低賃金が、多くの人々を貧乏な状態に陥らせたのです。

 

もう一つの原因は家庭の扶養係数が高いことです。病気の治療や子どもの養育、親の扶養など、家庭の負担が重いことも要因の一つです。

 

――この数年、低所得者層の生活を保障するため、政府は一連の措置を取りましたが、低所得者層の社会保障の面で、さらにどんな問題があるのでしょうか。

 

佟 政府は低所得者層の社会保障に一歩一歩、着実に力を入れ、各種の政策を打ち出し、低所得者層が住宅や医療、教育、基本的生活など各方面で効果のある保障を得られるように保証してきたことは否定できません。2007年から、安い賃貸住宅の建設や農村「低保」制度の全面的な推進などの措置を全力で進めていることは、その有力な証拠だと言えるでしょう。

 

新疆ウイグル自治区コルラ(庫爾勒)市ティエクス郷の責任者は、郷内に住む50戸の老人の「低保」家庭に「低保」金を届けた(新華社)

それとともに我々は、中国の低所得者層に対する社会保障制度の建設をやっと始めたばかりで、なお解決が待たれる問題が存在し、その中でもっとも大きな問題は「板ばさみ層」の出現であると考えています。現在、中国で社会保障を受ける対象のほとんどは、「低保」基準以下の人々です。彼らは「低保」金をもらったうえに、医療や住宅、子どもの教育の方面でも一定の保障を受けています。しかし、収入が「低保」基準と中レベル収入の間にある人は、「低保」待遇も受けられず、また住宅を購入したり、病気を診てもらったりする力がなく、生活は保障されていません。

 

もう一つの問題は社会構造の固定化です。社会の最下層にいる低所得者層は、絶えず豊かになっていくべきであり、社会の主流から遠く離されるべきではありません。中国が全力で進めている安い賃貸住宅の建設は、間違いなく、低所得者たちの住居困窮問題を解決する効果的な措置です。しかしもし低所得者層が集中して住めば、おそらく新しい「スラム」が形成され、貧富の格差はより鮮明になるでしょう。そのうえ、安い賃貸住宅があまりに集中すれば、低所得者層の子どもたちに「自分は社会の主流ではない」という心理的な暗示を与え、そこから強い劣等感を感じるようになるかもしれません。

 

――こうした問題をどう解決すべきでしょうか。

 

佟 もっとも直接的な方法は、「低保」の対象範囲を拡大し、「板ばさみ層」にいる低所得者たちの生活を保障することです。政府はすでに、社会構造が固定化する問題を認識し、一般住宅や「エコノミー住宅」の中にあわせて建設された安い賃貸住宅を、政府が回収したり買い取ったりして、それを低所得者層に貸すという措置を打ち出しています。こうすることによって、低所得家庭も、都市の発展がもたらした便利さ、質の高い公共サービスを平等に受けられます。またよりオープンで、多様な環境の中で子どもを育てるのに役立つと思います。それと同時に、政府は住宅賃貸制度を引き続き改善し、住宅賃貸市場がより多様的な形式で、十分育つようにしなければなりません。(張春侠 沈暁寧=文)

 

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