現在位置: Home>社会
民生を重視する政府の船出

 

第11期全人代の閉幕式で演説する胡錦涛主席

  今年3月上旬、第11期の全国人民代表大会と全国政治協商会議(「両会」)の第一回会議が北京で招集された。毎年一回開かれる「両会」はその年のニュースの焦点となるが、今年の「両会」は5年に一度の、新しく選ばれた全人代代表と全国政協委員による大会なので、とくに注目された。

 

新階層や農民工の代表

 

全国レベルの「両会」が開催される前、各省、自治区、直轄市で地方レベルの「両会」が開催されたが、その新メンバーの選挙で、新しい特徴が現れた。

 

例えば、新たに選ばれた省クラスの公務員たちに、明らかに若返りの傾向が見られる。1960年代に生まれた人々が政策を決定する階層に入り始めたのである。また、学者型の公務員の比率が増加し、その70%が大学院修士課程の学歴をもっている。文科系、とくに法学部出身の公務員が増加した。さらに非共産党員が重要な職務を担当する人数が増加した。

 

取材を受ける農民工の代表たち。左から朱雪芹さん、胡小燕さん、康厚明さん

  こうした公務員が全国レベルの「両会」のメンバーに選ばれるにともない、新たな気風が「両会」にもたらされた。

 

「両会」の代表や委員の中で、新しく現れた階層もメディアの注目を浴びた。いわゆる「新階層人士」とは主に、私営企業の管理者、個人経営者、弁護士、公認会計士、資産評価士や自由業のインテリを指す。中国の経済を成長させる重要な推進者として、彼らは10兆元ほどの資本を掌握・管理しており、その地位と発言力は、日増しに軽視できなくなっている。こうした「新階層人士」がどのような社会的責任を負うかなどの問題に、人々は大きな関心を持っている。

 

今年の「両会」の中でもっとも注目されたのは、3人の農民工の代表である。その3人は、45歳の重慶市の建設労働者の康厚明さん、江蘇省に出稼ぎに来た若い女性で、現在、ある服装会社の責任者になっている朱雪芹さん、四川省出身で、現在、広東省仏山市のある工場で現場主任をしている胡小燕さんである。

 

全国政協委員で「新階層」の代表である劉紅宇弁護士。彼女は「新階層」の代表は、新富裕階層の利益代表ではない、と考えている

   全人代の代表に選ばれたこの3人は非常に感激したが、それだけでなく、周囲の友だちもこれを非常に重視し、農民工に代わってたくさん訴えてほしいと望んだ。北京で会議が開かれる前、いつも朱雪芹さんといっしょに働いている農民工の若い女性たちは、お金を出し合って、ペン型ボイスレコーダーを買い、朱雪芹さんに「両会」での農民工に関する討論を録音し、それを持ち帰って聞かせてほしい、と頼んだ。

 

中国の農民工の代表が、中国の最高権力機関である全人代に参加し、政治を論じるのは、初めてのことである。この3人の背後には、1億5000万の、土地を離れ、都市に出稼ぎに出た農民工がいる。農民工の代表が全国レベルの「両会」で、直接、自分の願いや訴えを表現するのは、これが初めてである。

 

農民工の代表として、3人がもっとも関心を持っているのは、農民工の福祉や保障、養老などの、解決が待たれている問題であった。康厚明さんは「私は建設労働者であり、第一線で働く農民工です。我々建設労働者にとっては、高所での作業や上り下りする作業が比較的多く、安全率がかなり低い。我々には労災保険や養老保険、医療保険、職業病の予防・治療が必要です。我々が従事する業界は、汚染がひどいことが多いので、この面を政府が重視してほしいと思います」と述べた。

 

また胡小燕さんは、農民工の子女の教育と農民工の待遇向上の問題にかなり関心があり、二つの提案をした。一つは、農民工の子どもが現地の学校で、その地の子どもと同様の待遇を受けられるように希望する、もう一つは、労働者の収入を物価と同じに上げ、社会保険の面で、全国共通の「一枚のカード」方式で管理を行なうよう希望する、というものであった。

 

政府の機構改革も進む

 

国務院の機構改革で、従来の交通部が廃止され、新たに交通運輸部が設立された

 いわゆる「大部制(大省庁制度、部は日本の省に相当する)」とは、政府の部門の設置する際に、職能が近く、業務の範囲が同じような事項をなるべく集中し、一つの部門が統一的に管理し、最大限、政府の職能の重複や管理の重複を避け、それによって行政の効率を高め、行政のコストを引き下げる、ということである。

 

今回の全人代で決定した国務院(政府)の機構改革によって、工業・情報化部、交通運輸部、人力資源・社会保障部、環境保護部、住宅・都市農村建設部が新設され、元の部や委員会は廃止、合併、再編成された。改革後、国務院弁公庁を除き、国務院の部クラスの部門は27となった。「大部制」改革は、その第一歩を踏み出したのである。

 

昨年10月に開かれた中国共産党の第17回党大会は、政府の職能を「サービス型の政府を建設する」方向へ明確に転換し、政府の仕事を、経済の発展を主とすることから、社会正義を維持し、公共のサービスを提供し、社会の調和を保障することを主とするように提起した。「大部制」改革はここから指導・推進されてきたのである。

 

例えば、従来の建設部は、住宅・都市農村建設部に拡充されたが、これは人々の住宅問題に対して政府が関心を払っていることを明確に示すものである。近年、中国の都市の住宅価格はうなぎのぼりで、所得が中程度の多くの人々は、廉価な住宅に住む資格も与えられないし、商品化された住宅にも手が出ない。住宅がもたらす経済的な圧力は大きく、一種の社会問題になっている。住宅・都市農村建設部の設立以後は、この問題が専門機構による十分な関心を得る望みが出てきた。

 

また、2003年の機構改革のときは、衛生部の中から国家食品薬品監督管理局を分離し、病院が高額の薬を売り、薬で医療を支えるという問題を抑制した。いまは、さらに医療体制改革を進め、人々がなかなか病気を診察してもらえず、患者が大病院に集中するという現象を解決するため、再び国家食品薬品監督管理局を衛生部の下に戻した。これによって、薬価を抑制する前提の下で、医療改革の過程で「医」と「薬」が別々に管理され、なかなか意見が統一できないという問題を避けることができるようになった。

 

このほか、国家環境保護総局が環境保護部に昇格したことも注目に値する。以前の環境保護総局は、部クラスの組織だったとはいえ、普段は国務院の重大会議や常務会議には参加できず、その職責の範囲内の事柄を討議するときに会議に列席できるだけで、発言権や議決権はなかった。このため環境保護総局は、一部の重大建設プロジェクトの遂行の過程で、効果的に監督・管理の役割を果たすことが難しかった。今回の環境保護部への昇格によって、国務院での討議の中での十分な発言権と政策決定への参加の権利を持つことになり、国家の環境保護政策をさらに良く制定し、環境保護計画を遂行できるようになる。

 

「大部制」改革は、政府の行政能率を高める見込みだが、部門の職能は幅広く、その総合的な協調能力に対する要求はますます高くなっている。今後、「大部門」内の協調能力をいかにして高め、さらに大きな利益集団が生まれるのを避けることができるか、それは今回選出された政府の、一つの試練である。

 

インフレと物価を抑制

 

豚肉を公定価格で売るスーパーが四川省華にオープンした。そこで豚肉を買う市民たち

 2007年4月から、中国では、物価上昇の兆しが現れた。最初は豚肉の価格が上昇した。しかし人々は、ブタの青耳病が流行し、供給に影響が出たためで、半年か一年で落ち着くと思っていた。ところが意外なことに12月から、肉、食糧、食用油など食品の価格が全面的に値上がりし始めた。そのうえ政府が物価を抑えようとしていたとき、米国のサブプライムローンの問題と中国南方の雪害に見舞われた。

 

2008年2月、中国の消費者物価指数(CPI)は8.7%に達し、人々はみな、物価上昇によるプレッシャーを感じるようになった。それまでは十数元で済んだ会社の食堂の食事が、現在2、30元必要となった。5リットル48元だった大豆油が70元に上昇した……。「劉翔(110メートルハードルのチャンピオン)に勝てなくても問題はないが、CPIには必ず勝たなければならない」と冗談を言う人さえある。

 

物価が上がり、製造業のコストも上がった。中国がいかにしてインフレを抑制するか、いかにして経済成長の減速を防ぐか、全世界は中国政府がどのような回答を打ち出すかを見守っていた。その答案によっては、中国の今後数年の経済の動向にも影響を与えるし、米国のせいで落ち込んだ世界経済が、中国などの新興の市場のおかげで迅速に苦境から抜け出すことができるかどうかにもかかわってくる。

 

3月18日、温家宝総理は記者会見で「今年はおそらく中国経済にとって、もっとも困難な一年となるだろう。難しいのは、国際的にも国内的にも予測できない要素が多いところにあり、そのため政策を決定するのが難しい」と語った。それにもかかわらず温総理は、依然、経済成長の目標を8%前後と定め、CPIを4.8%前後にコントロールし、「物価とインフレの抑制を今年の政府のもっとも主要な任務とする」と表明した。また温総理は、約1000万人の就職問題を解決し、都市と農村の失業率を4.5%前後にコントロールしなければならないと述べた。

 

ところが、この3つの目標の同時実現は、大きな難題だ。インフレを抑制するには、通貨の引き締め政策を実行しなければならない。そうすると必然的に国内総生産 (GDP)の成長にも、さらには就業率にも影響する。

 

いかにして物価の上昇を抑制するとともに、経済の高度成長を保つことができるだろうか。中国政府が出した案は、財政支出を拡大することであった。予算案の説明によれば、中央の財政収入は14%増加し、支出は22.6%増加するという、穏健かつ積極的な財政政策である。この予算案は、全人代で可決された。

 

とにかく、国内外の複雑な情勢を前に、2008年の中国の経済発展は厳しい試練に直面している。それに対し温総理は、こう語った。

 

「結果がどうなっても、来年の3月、私は皆さんにもう一度回答します。しかし私には一つの信念があります。それは、事がどんなに難しくとも、勇気をもってそれを引き受け、勇気を出して前進することです」(高原=文 王浩 高原 馮進=写真 )

 

第11期全人代と全国政協で選ばれた主な国家指導者

中華人民共和国主席

胡錦涛

全国人民代表大会常務委員会委員長

呉邦国

全国政治協商会議主席

賈慶林

国務院総理

温家宝

中華人民共和国副主席

習近平(新)

国務院副総理

李克強(新) 回良玉  張徳江(新) 王岐山(新)

国務委員 

劉延東(新)梁光烈(新)馬 凱(新) 孟建柱(新)戴秉(新)

国務院の部門とそのトップ
外交部 楊潔箎 国防部 梁光烈
教育部 周済 科学技術部 万鋼
国家発展・改革委員会 張平 国家民族事務委員会 楊晶
公安部 孟建柱 国家安全部 耿恵昌
監察部 馬馼 民政部 李学挙
司法部 呉愛英 財政部 謝旭人
国土資源部 徐紹史 鉄道部 劉志軍
水利部 陳雷 農業部 孫政才
商務部 陳徳銘  文化部  蔡武
衛生部 陳竺 人口・計画生育委員会 李斌 
中国人民銀行 周小川  審計署 劉家義
工業・情報化部(新) 李毅中 交通運輸部(新) 李盛霖
人力資源・社会保障部(新) 尹蔚民 環境保護部(新) 周生賢
住宅・都市農村建設部(新) 姜偉新

                                                             

  人民中国インターネット版

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850