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「流動児童」の学校はいま

 

出稼ぎ労働者が自らつくった学校

 

訓練中の学校のダンスチーム(同心実験学校提供)
同心実験学校を創設したのは、自分も出稼ぎ労働者だった孫恒さんである。彼は今年33歳。河南省開封市の出身で、1998年、北京に出稼ぎに来た。

孫さんはまず運搬の労働者から始め、セールスマンとなった。「毎日毎日働きづめで、余暇を楽しむ余裕もなかった。苦しく、空しい日々だった」という。

それを打開しようと、孫さんは2002年に「出稼ぎ青年芸術団」を立ち上げた。自分で歌曲を創作し、仲間の労働者たちといっしょに歌った。芸術団の団員はみな出稼ぎ労働者だったので、農民工の生活をテーマにした内容だったから、農民工たちの評判はよく、多くの仲間ができた。そして彼らの共通の心配ごとは、子どもの教育問題であることを知った。

農民工が出稼ぎに出る大きな目的は、金を稼いで子どもたちに良い教育を受けさせ、将来は貧しい生活から抜け出すようにするためだ。しかし、都市の公立学校の費用は高くなるばかりだ。しかも地方から出てきた子どもたちの入学手続きは煩雑である。こうしたことが公立学校の敷居を高くし、「流動児童」はなかなか学校に受け入れてもらえない。

子どもたちは学校の外でも、自分たちの踊りや歌を演じる(同心実験学校提供)
それならどうすべきか。孫さんは郷里の農村で、中学の音楽の先生をしたことがある。「農民工の子女のための学校を、自分たちで興してみたらどうだろうか」と、孫さんは提案した。この大胆な提案に、農民工たちは口々に賛成した。

だが「学校を興す」事業は、並大抵ではなかった。「出稼ぎ青年芸術団」が発売したレコードの印税の中から75000元を出し、現在の学校のある土地を借りた。当時、そこは雑草が生い茂り、壊れかけた小さな工場の廃屋があっただけだった。

「ここに農民工の子どもの学校を建てる」という話を聞いて、百人以上の農民工たちが駆けつけてきて、整地や建物の修理を手伝ってくれた。さらに、社会慈善団体が椅子や机、扇風機、図書など教育に必要な備品を寄贈してくれた。さらにスクールバスさえ寄付してくれたのである。

先生の多くは、大学や社会からのボランティアだった。多くの人々に助けられて、2004年8月、同心実験学校は正式に開校した。孫さんは校長になった。

昼休みに子どもたちは、名前を届ければ学校のスポーツ用品を借りることができる
それから4年余り。学校は比較的順調に発展してきた。現在、学校には、就学前のクラスから6年生まで、全部で10クラスあり、3歳から12歳までの子どもたち430余人が在学している。しかも、学校に子どもを通わせたいと望む農民工は、ますます多くなっている。

学費は平均、毎学期(半年)370元(約5000円)に過ぎない。これは学校の基本的な支出に当てられる。それ以上の経費は、社会からの支援に頼っている。学校の設備や教育条件は貧弱だが、時間割は、教育部(省)が制定した『教学大綱』に完全に則っている。

子どもたちの全面的な成長のため、学校の休みには、写真班、舞踊班、美術班の活動やサマーキャンプなどを行っている。子どもたちはわずかなお金で、楽しく、充実した休暇を過ごすことができる。時には、子どもたちを大学や工場に連れて行き、歌や踊りなどを演じさせる。これも、子どもたちの視野を広げるためだ。

学校は夜間には、「保護者の夜学」を開設している。教育水準が低く、子どもを教育した経験の乏しい父母たちに、無料で養成・訓練を行う。これは大いによろこばれているという。

社会各界からの寄付でつくられた閲覧室で本を読む子どもたち
しかし、学校が直面しているかなり深刻な問題は、校舎が足りないことだ。今は10教室しかない。6、70人の子どもがぎゅう詰めになっている教室もある。もし、さらに2階か3階の校舎を一棟建てて16教室増えれば、学校は800人近い子どもを受け入れることができる。そうすれば、さらに多くの「流動児童」が学校に通える。しかしそれには50万元が必要で、現在、それを調達中であるという。

この農民工の子女の学校を卒業した子どもたちはどうなって行くのか。孫校長はこの問題を日ごろから研究している。

「私たちの知る限りでは、小学校を卒業した『流動児童』が進む道は3つあります。家庭の条件が比較的良い子は、都市の公立中学に入ることができます。しかし、多くの子どもは、父母と別れて故郷に帰って勉強を続けます。もっともまずいのは、中学校に行かず、親といっしょに働く道です」と孫校長は言うのである。

現在、中国は都市化のさなかにあり、将来はさらに多くの農村人口が都市に流入すると見込まれている。彼らの子どもたちは将来、都市の主人公となるだろう。しかし、都市の教育のリソースには限りがあり、こうした子どもたちが良い教育を受けられず、成人した後、正常な社会生活に溶け込めないとすれば、一部の人は「社会の建設者」から「社会の破壊者」になってしまうかもしれない。

この問題は目下、社会的に関心を集めている。2007年の中央テレビ局の『春節(旧正月)交歓の夕べ』で初めて農民工子女による詩の朗読があり、全国の視聴者を感動させた。温家宝総理はとくに、「留守児童」と「流動児童」の教育と生活に関心を持たなければならない、と強調している。

孫校長は言う。

「実は、私たちにはさらに大きな夢があります。それは中等職業技術学校を創設することです。ここで、小学校を卒業した『流動児童』を技術労働者に養成するのです。それは、彼らが将来、都市に溶け込む際のつなぎ目となるばかりでなく、現在の社会の技術人材不足を補うことにもなるのです」

 

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