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保存と建設で変貌した天津

魯忠民=文・写真

新旧の建築が共存する天津市の小白楼広場の一角

4つしかない中国の直轄市の中で、北京と天津の二つの直轄市は115キロしか離れていない。2008年に北京─天津間を結ぶ高速鉄道が開通した後、両市はわずか28分で往来できるようになった。外国から北京を訪れる多くの観光客が、時速350キロの高速列車で天津まで足を伸ばす人も増えてきた。

天津駅や市内の環境整備も進んでいる。旧租界に建つ洋館や歴史的な建物は、修復、保存された。北京の発展の陰でやや目立たない存在だった天津は、新しい都市に生まれかわりつつある。

修復された「小洋楼」

1922年に建てられた小白楼音楽ホール。2005年に取り崩されたが、2009年6月上旬に再建された

イタリア風景区のマルコ・ポーロ広場

2009年1月、修復工事を終えた「イタリア風景区」で、街開きの式典が挙行された。多くの観光者が訪れ、イタリア情緒あふれるパフォーマンスを楽しんだり、本場のイタリア料理を味わったりした。しかし、もっとも注目を集めたのは西洋風の建築物である。

「北京の四合院、天津の小洋楼」といわれるように、昔から天津は、「小洋楼」と呼ばれる洋館で有名だった。現在、天津で、「小洋楼」が集中している地区は二カ所ある。一つは「五大道」、もう一つは「イタリア風景区」である。ここには最近まで住民が住んでいたが、立ち退きが終わり、建物は修復されて、いまは観光地区、文化産業区として一般公開されている。

天津にこうした「小洋楼」が多いのには、歴史的背景がある。

1860年に天津が開港されてから、英国、フランス、米国、日本などの列強が天津に9カ所の租界をつくった。さまざまな様式の「小洋楼」が次々と建てられたが、意外なことに、中国人が出資して建てたものが多く、外国人所有のものはきわめて少なかった。

誰が「小洋楼」を建てたのか。これもまた意外なことに、金持ちの商人や企業家は少なく、没落した清朝の皇族や権勢を失った軍閥、落ちぶれた官僚、それに革命の闘士が多かった。とくに1911年の辛亥革命の後、9カ国の租界は、首都北京の「政治の舞台裏」となった。

「小洋楼」が集中している五大道の一角

租界という「治外法権の地」は、さまざまな政治勢力の避難所となっただけでなく、彼らが再起の機会をうかがう政治の震源地となった。退位した清朝皇帝の溥儀(1906〜1967年)から、その父君の載澧のような王侯貴族や大臣、さらには宦官の小徳張までもが天津にきて、多くの「安住の家」を建てた。

北洋軍閥政府(1912~1928年)の五人の大統領、袁世凱、黎元洪、馮国璋、徐世昌、曹錕はみな天津の租界に豪邸を持っていた。北洋軍閥政府の歴代総理の三分の一が天津に邸宅を構えていた。

清朝末期から民国初期にかけて、大物、例えば梁啓超や張作霖らもここに屋敷を持ち、米国の第31代大統領のフーヴァーや国務長官のマーシャルら百人を超す外国の有名人もここに住んだことがある。各界の著名人の故居は、1000カ所以上にのぼるという。

2005年、天津市政府は『天津市歴史風貌建築保護条例』を発表し、「小洋楼」を法律によって、基準を設けて保護するようになった。ここ数年、天津市はこの条例に基づいて、746棟の「歴史風貌建築」と6カ所の「歴史風貌建築区」を認定した。

「イタリア風景区」は天津駅の向かい側にあり、敷地面積は28.45ヘクタール、もとはイタリア租界として1902年につくられた。区内には、イタリア風の「小洋楼」や劇場、学校、レストラン、兵営など百余棟とマルコ・ポーロ広場、ダンテ広場などがある。道沿いの建物は同じスタイルのものは一つもない。建物の上につくられた望楼の高さはまちまちで、アーチや回廊の柱があちこちに見える。建物と建物は広場やガーデンで結ばれている。この中に、曹禺や梁啓超、李叔同ら多数の中国近現代の著名な文化人が住んでいた。

「五大道」にある「小洋楼」は、芸術家にとって、現代アートを展示する場所になっている

梁啓超故居記念館

「五大道」は天津市の中心部の南にあり、成都道や重慶道、常徳道、大理道、睦南道、馬場道が通っている。面積は1.28平方キロ。百年以上前、ここは、昔の天津城の外側にある静かな沼沢地にすぎなかった。天津開港後、英国人は最初にここに租界をつくり、競馬場と高級クラブを建設した。現在、ここに、1920~1930年代以前に建てられた西洋風のガーデンや洋館は2000以上残っている。その中にはもともとの風格をいまも保っている建物や著名人の故居が300以上ある。

「五大道」はいまなお優雅でちょっと奇抜な風格を保ち続けている。ここはまるで万国の建築博物館のようだ。建築の専門家によると、ここの「小洋楼」にはルネサンス、ロマネスク、ゴシック、バロック、それらの折衷主義などさまざまな様式があるという。

 

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