王焱=文・写真
電動自転車が普及し始めた1999年の年間生産量は、10万台だった。当時公布されていた『中国電動自転車技術基準』には、電動自転車の定義が次のように定められている。「人力を補うため、原動機を用いるか、ないしは電動補助機能のついた特殊自転車。」
れから10年後、中国の電動自転車の年間生産量は2370万台を突破し、全世界の総生産量の9割を占め、国内総保有台数は1億2000万台に達した。
電動自転車産業は、中国に巨大な経済効果をもたらすと同時に、さまざまな論争が絶え間なく起きている。
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北京市中関村海龍電子城広場前の駐輪場。さまざまな電動自転車が駐輪してある | 人力無用の全電動タイプ
日本で売られている一般的な電動アシスト自転車と異なり、中国の電動自転車はペダルをこぐ必要のない全電動タイプで1回の充電で30~40キロ走ることができる。デザインは自転車風のものとスクーター風のものがあり、ハンドルの部分には電量メーターやヘッドライト、方向指示器などが備え付けられている。広く電動自転車と称されるが、一部のものは時速60キロ以上も出すことができる。
中低レベルの電動自転車の価格は2000元にも達しないので、新卒者の1ヵ月の収入で購入可能だ。北京の中関村南大街にある自転車店では、電動自転車が毎月40~50台は売れるという。積水潭付近の店では、毎月70~80台が売れるそうだ。
電動自転車は構造が複雑なので、ベストの状態を保つには、定期的なメンテナンスと電池の交換が必要だ。1億2000万台という中国国内の総保有台数から考えると、専門のアフターサービス業にもたらされる経済効果は、はかり知れない。
リチウム電池の普及に期待
電動自転車の特徴として、排ガスゼロで環境に優しいことが上げられる。しかし電池には、以前から疑問の声が出ていた。
電池は一般的に300回充電をすると使用できなくなるので、新しいものと交換する必要がある。現在、鉛電池を用いているものが、9割以上におよぶ。初期の鉛電池はカドミウムを含んでおり、廃棄処分後、環境汚染を引き起こす原因ともなるので、いくつかの都市では電動自転車禁止の理由にさえしている。現在の鉛電池はカドミウムを含んでいないが、廃棄処分後、適切な回収がされなければ、中に含まれている重金属が依然として外に漏れ出す恐れがある。
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マクドナルド、ケンタッキー、吉野家などの有名ファストフード店では、電動自転車で配達をしている | しかし解決法はすでに見付けられ、数年前から実行に移されていた。それがリチウム電池だ。同じ容量でも、リチウム電池の重さは鉛電池の3分の1で、寿命は3倍と長い。また、リチウム電池は、無毒性や低毒性の材料を使っているので、有害な重金属を含んでおらず、廃棄しても環境汚染を引き起こすことはない。問題は、リチウム電池の値段で、鉛電池の2.5倍もする。
便利なうえに環境に配慮したリチウム電池を選ぶ人が増えつつある。しかし普及までには、まだ時間を要するだろう。
ラクラク通勤、時間も短縮
オリンピック村近くに住む祁さんは、毎日8キロ離れた会社まで電動自転車で通勤している。彼女によれば、自宅には車と自転車があるが、2005年の冬に電動自転車を一台購入した。
「北京の通勤時の交通は大変混雑しています。バスに乗れば1時間はかかります。自分で車を運転していけば少し早く着けますが、駐車場所を探すのに骨が折れます。自転車だと、北京の風は強いので、ペダルを踏んでも時々前に進まなくなりますが、電動自転車はその心配がありません。ペダルを踏まなくても進むし、出勤時間も短縮することができます」
祁さんが電動自転車に乗り始めてからすでに4年が過ぎた。友人たちも、彼女の電動自転車をよく借りに来る。彼女はもう一台買おうと計画中だ。
都市では、祁さんのように通勤のために電動自転車を購入する人が一般的だ。中国星恒電源電池製造公司の2008年末の調査結果によると、北京では77%、上海では91%の電動自転車所有者が、主に通勤に利用している。
日本人留学生も通学に愛用
北京大学に留学している川又さんは、毎日、電動自転車に乗って通学している。以前、彼女は「電動自転車は年配の人が乗るもので、若者が乗るのは恥ずかしい」という考え方だったという。中国に来てすぐ、彼女は普通の自転車を買った。しかし、周囲の同級生たちはみな電動自転車を使っているのに気づき、彼女も1800元の電動自転車を買った。「一番良いのは、買い物に行っても、たくさんのものを載せられることです」と言う。
同級生の千田さんは、日本にいたとき、自分が電動自転車に乗るとは一度も思わなかったという。実家にある一台は祖母が使用するものだ。中国に来た後、彼も川又さん同様、考え方が変わった。「少し高いが、とても丈夫です」
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電動自転車販売店では、修理に追われている | 車体も電池も重いのが欠点
北京市在住の馬さんは、かつて通勤するために電動自転車を買ったことがある。しかし結局は乗らずに駐輪場に置いてあるだけになっている。彼女も、電動自転車の速さを認めているが、不満もある。
「充電のため、毎日、重たいバッテリーを抱えて階段を上り下りするのが負担なの」
彼女の電池バッグは、電池が4つ続きで、重さは十数キロになる。
「電動自転車の車体はもっと重いですよ。ある日、道路の段差を越えようと、後ろを持ち上げたら腰をひねってしまいました。今でも電動自転車を見ると、かすかに痛みを感じます」
電池の寿命は、充電の回数が増えるにつれ短くなる。いつも長い距離を乗っている人ならば、毎年新しい電池に替える必要がある。もし、乗っている途中で電池が切れると、ペダルを踏むしかない。
死亡事故多発、禁止の動きも
電動自転車は都市の交通渋滞を緩和したと賞賛される一方で、安全面をめぐり論争が起きている。電動自転車は中国で急速に普及した。無論、それ自体の良し悪しではなく、外的要因が関連している。いくつかの都市は早い時期に、安全面や騒音に考慮し、オートバイの進入禁止区域を設けている。そこで、速くて簡単、便利で、安価な交通手段への需要が、電動自転車へと向けられた。電動自転車の生産に対して、「時速20キロを超えてはならない」という規定が出されたが、市場の需要に同調し、いくつかの企業は、基準スピードを超え、足踏みペダルやチェーンを取り払った「電動スクーター」を発表した。
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「雪にも負けず」活躍する電動自転車 | 現在、相応する交通法規が不備なため、交通管理部門は、基準を超えるほとんどの自転車を「電動自転車」と見なし、軽車輌として管理せざるを得ない。その結果、交通安全上、多くの危険をはらむことになった。
瀋陽市では、60万台の電動自転車が走っている。2007年の電動自転車の事故による死亡率は、前年比で81%も増えている。2008年はさらに増え、前年比222.7%だった。2009年8月から、同市は、市内12の幹線道路での電動自転車の通行を禁止した。広東省では、珠海、東莞、広州の3市が電動自転車の幹線道路での通行を禁止し、30万台の電動自転車を保有する深圳市も、電動自転車の使用を禁止する予定だ。
しかしこのような方法は、社会の批判をあびた。学者らは、電動自転車の交通における貢献を評価し、困難を恐れて導入を止めてしまうことがないようにと呼びかけた。今日なお、さまざまな意見が入り乱れている。
最終的な解決策は?
国家標準管理委員会は『電動バイク及び電動軽便バイクの安全基準』を2009年末に公布し、2010年から施行した。これによると、最高時速20キロの電動二輪車を電動軽便バイクとし、同50キロを電動バイクと定義している。これまで定義が曖昧な「非原動機自動車」として扱われてきた電動自転車が、新基準を超えている実態に合わせて、今後「原動機自動車」として管理することを狙っている。また運転者の法律知識、安全意識の向上も目指している。ただ、今の段階で運転資格や運転免許証に変更はない。一方、従来の基準によって電動自転車を生産している企業は、ハードルが高く、より高度なバイク生産認可の獲得が必要になる。
しかし、この新基準は国内の1億人以上の電動自転車の所有者、数百万人の生産従業員の利益に密接な関係があり、公布後直ちに、時間をかけて執行することが発表された。これは関連企業、利用者に対する緩和措置だが、将来的に、電動自転車の管理が強化されるのは間違いない。
人民中国インターネット版 2011年2月21日
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