張雪=聞き手
「パブリック・ディプロマシー(公共外交)を強化し、民間の友好交流を幅広く展開して、人と文化の交流を推し進め、中国人民と各国人民の相互理解と友情を深める」。このことばは、第十二次五カ年規画(「十二・五」)の制定に関する中国共産党中央委員会(中共中央)の提言の中にも書き込まれている。中国のパブリック・ディプロマシーが新しい春を迎えようとしていることは、この一事をもってしても知ることができよう。
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インタビューを受ける趙啓正主任(写真・董寧) |
中国人民政治協商会議全国委員会(全国政協)外事委員会の趙啓正主任は、長く中国国務院新聞弁公室の主任を務めたが、中国におけるパブリック・ディプロマシーの提唱者であり、また実行者でもある。「中国のパブリック・ディプロマシーの目的は世界に中国を説明することだ」と趙氏は語っている。趙氏の著書『世界に中国を説明する』『江辺対話(リバーサイド・トークス)』は中国で対外広報と対外文化交流にかかわる多くの人々に読まれ、広く影響を及ぼしている。趙氏はまたその提唱する理念を自ら実践しており、外国訪問の際には、分かりやすくユーモアに富んだ言葉で現代中国を紹介している。
今年の「両会」(全人代と全国政協の両会議)の会期中、趙氏は全国政協のスポークスマンを務め、各メディアへの対応に余念がなかった。趙氏は何度も日本を訪れ、数多くの日本人の友人を持つ。多忙の趙氏に時間を割いてもらい、中国のパブリック・ディプロマシーの現状を中心に話を聞いた。
――中国の国内総生産(GDP)は世界第二位になりましたが、これは中国と世界の交流にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。
趙啓正(以下趙と略す) 中国経済はこの三十年に急成長を遂げましたが、このことは世界中の人々の予想をはるかに超えたものでした。のみならず、中国人自身にとっても思いがけないことだったでしょう。いきなり第二位のGDP規模を持つ中国が登場したことが世界に大きなショックをもたらしたのは事実です。
他国はまず、自国の利益にどのような影響を与えるのかを考え、その中で、経済面あるいは政治面で衝突する可能性があるかどうかに思いをめぐらしたことでしょう。経済面での衝突が発生することはほぼ明らかです。一部の国の輸出品構造は中国と似ているため、いきおい市場をめぐる競争が生じます。政治面では、歴史上、経済が強大になると、軍事力も強大になり、ひいては他国に不平等な振る舞いをし、覇権を求めて、戦争を引き起こすことも少なくなかった。中国もこの道を歩むのかどうか。一部の国は自分たちの考え方を当てはめて、不安になっています。彼らは強大な中国は今、十字路に立っていると言う。二十年後の中国はさらに強大になって、横暴に振る舞い、自分たちの国に干渉するのではないか、といった不安を示す文章も多く見られます。
こうした言説が民衆に影響をあたえ、本当の不安に変わることにもなりかねません。実は、政治家は軍事力の面でも、経済力の面でも、彼らの国と中国との間には全体的な実力において、まだまだ大きな隔たりがあることを知っています。
中国の歩む道は平和、発展の道であり、しかも断固として変わることなく、この道を歩むことを世界中に分かってもらうには、われわれの解釈・説明が必要なのです。中国文化の伝統は侵略の伝統ではなく、覇権を唱える伝統でもなく、われわれは温和で善良な民族であるということを説明しなければなりません。そのためには、物語や歴史を話し、今日を語り、明日を語るべきだと思います。
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2010年7月29日、11カ国から100人近くの高校生が上海にやってきた。彼らは中国演劇、武術、書画、龍舟競技を学び、東方明珠テレビ塔、上海博物館、豫園などを見学し、万博を見て、上海の市民生活なども体験した(東方IC) |
――中国のメディアが海外に向けて中国のことを説明するときによく悩むのは、国際舞台での発言権がまだ弱く、そのピーアール効果も理想的だとは言えないことです。この問題についてどのようにお考えですか?
趙 発言権は、いわば略称です。「発言権」の「権」は、「権利」でしょうか、それとも「権力」でしょうか。「利益」の「利」なのか、それとも「力量」の「力」なのか。私は当然「力」だと思います。つまり、言葉の持つ影響力です。
まず、あなたの国は十分強大なのかどうか。世界中で十分な実力を発揮しているのかどうか。次に、あなたの発言は論理にかなっているのかどうか。真実なのかどうか。つまり、信用できるのかどうか。信頼されるのかどうかです。第三に、その発言がうまく表現できたかどうか、です。
中国語は外国語とずいぶん違い、言葉の一つひとつをいちいち外国語に対応させることが難しい。たとえば、中国語の「感覚」「霊感」のような単語は、いくつかの外国語の単語に訳せるでしょうが、どんな場合にどんな訳語が適当かはなかなか分からないのです。
それでは、政治関係の言葉はどうでしょう。中国は社会主義国家で、国の制度はほかの国と完全に同じではなく、ある点では大きな違いもあります。ですから、私たちの言葉を外国語に変換する場合には、若干のこじつけが行われることもある。相手の言語の表現方法になじませようとして、結果、意味不明になってしまいます。これは、異なる文化間をカバーできる表現が十分でないということです。
歴史上、多くの例を挙げることができます。たとえば、「京劇」。英語では「Beijing opera」あるいは「Peking opera」と訳されますが、外国人に聞いてみてください。京劇を見たことのない外国人に聞くと、中国人が演じる『トゥーランドット』『カルメン』『椿姫』だと理解している場合が多いのです。そうではありませんよね。ご存知のとおり、「京劇」は私たちの特別な芸術で、外国にはないものです。「opera」にこじつけたために生じた誤解です。ここでは、異なる文化間をカバーできる表現がなされていません。
「国家修辞能力」という言葉をご存知ですか。一国が自国の政治、社会、文化の状況を伝えるときに使われる特定の語句や単語を外国語に変換する能力です。いかに外国語に変換するかは極めて熟考を必要とします。だから、発言権の向上は発言の影響力の向上でもあるのです。発言の影響力は事実に基づいて真実を求め、誠実や信用を重んじながら、同時に異なる文化を超えて相手に理解してもらえるような表現をする技能なのです。
――パブリック・ディプロマシーは今回の「両会」でホットな議題になりました。中国のパブリック・ディプロマシーの展開状況、またこの面で全国政協外事委員会がどんな役割を果たしているのかについて、ご紹介いただけませんか。
趙 中国がパブリック・ディプロマシーを展開し始めたのはここ数年のことです。この面での全国政協外事委員会の役割は世界各国の人々と友好関係を構築する中で、中国の事情を紹介し、中国の物語を語ることです。海外で展示会、フォーラム、講演会などのイベントを行ったり、中国に関する本を出版したりすることも、そのための重要な活動と言えます。
毎年千二百万人の中国人が海外へ行き、世界各地で中国や中国人のイメージを開示していますが、彼らの言行も世界の中国に対する印象を左右します。ですから、パブリック・ディプロマシーの展開は国民の一人ひとりに責任があると言えるのです。その主体はテレビ、新聞、雑誌などのメディアですが、メディアを通じて世界に中国を知らせることは、パブリック・ディプロマシーを展開する上で不可欠の伝統的な手段と言っていいでしょう。
また、世界と接触する機会が多く、世界的に影響力が大きい民間組織や社会団体、メディアはその中心的な担い手です。現在の中国ではパブリック・ディプロマシーという概念はまだ普及が必要で、国民一人ひとりがその責任者であり、一人ひとりの言行が中国を代表するのだという意識を身につけなければならないのです。総じて言えば、パブリック・ディプロマシーを展開する基礎は国民で、政府が主導し、民間組織や社会団体が中心的な担い手であるということです。
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早稲田大学の学生と交流する「笹川杯作文コンクール2011−感知日本」で優勝賞を受賞し訪日した中国の大学生たち(写真・王漢平) |
2008年3月12日、日本青少年友好使者代表団が重慶市の永川中学を訪れ、中国の生徒たちと一緒に茶摘みをした(東方IC) |
――中日両国の民間交流はずっと頻繁に行われてきました。近年は特に、両国青少年の交流が広く展開されるようになっています。中日両国間のパブリック・ディプロマシーは両国関係にどんな影響を与えているとお考えですか。
趙 中日両国の友好往来の歴史は唐代以前から始まり、千年以上の歴史を有しています。両国の非友好的な歴史は「甲午戦争」から一九四五年まで約五十年間続いたため、甚大な被害を中国人民にもたらしました。それは物質面だけではなく、精神面でも中国人を大きく傷つけたのです。しかし、中日両国が永遠に隣国同士として友好的に付き合っていくことは、両国にとってだけでなく、世界にとっても良いことであることを認識しなければなりません。
両国関係の発展途上にはいくつかの障害が存在していますが、その原因は主に日本側にあります。一つは日本政府の戦争責任に対する認識が不充分であることで、両国関係に大きなマイナスの影響を及ぼしています。もう一つは台湾問題です。日本人はまだ「歴史の重荷」から解放されていません。領土問題も両国関係に悪い影響を与えています。しかし、世界の多くの国々が同じように領土問題を抱えており、問題はその解決方法にあると言っていいでしょう。力ずくで解決するのではなく、平等の立場で話し合いを尽くして解決するよりほかありません。
一部の歪曲された歴史教科書の影響を受けた日本人の若者は中国に誤解を抱いている一方、歴史を比較的よく知っている中国人の若者は現在の日本への理解が足りないため、日本がこれからどんな道を歩んで行くのか、平和の道なのか、それとも軍国主義の道なのかが理解できません。私の知る限り、大多数の日本人は平和的発展の道を歩むことを望んでおり、極端な思想を持つ人は極めて少ない。極端な主張は国を誤らせると考える国民が大多数です。しかし、靖国神社に参拝する元日本兵がまだおり、その姿がマスコミを通じて中国国内に伝えられるなら、中国人に悪い印象を与えるのは当然のことです。
ですから、今日の中国は現在の日本を全面的に認識しなければならないのです。この面におけるマスコミの責任は極めて大きいため、中国のメディア関係者の訪日活動には重要な意義があります。
日本政府の招きで、中国青年代表団の第一陣が昨年の八月二十九日から一週間の日程で日本を訪問しました。私は同代表団と訪日前に会見しましたが、彼らが日本の社会を広く観察し、日本人と多く交流することを通じて、本当の日本を理解するよう呼びかけました。深く理解すれば、中国の発展に大きな役割を果たした日本の政府開発援助(ОDA)など、「改革開放」中での中日両国の協力と交流の史実を知ることができます。中日青年交流は、まずメディア関係の青年間の交流を手始めにすれば、両国の友好関係を急速に推進することができると私は考えています。
人民中国インターネット版 6月
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