農村医師の新しい生活
記者が来安県大英鎮大黄村の衛生室についたのは、午後4時過ぎだったが、まだ何人もの患者が診察を待っていた。「午前中はもっとたくさんいて、部屋は患者さんであふれていました」と、言いながら取材に応じてくれた沈家忠主任(41)は「月間外来患者は延べ1300人を超え、注射を打つ手が痛くなるほどです」と語った。そこへ村民の呂祖蘭さん(48)が風邪薬をもらうためやってきた。甲状腺機能亢進症を患っていることがわかると、沈さんは彼女に日常の注意事項を説明し、この病気は慢性病なので、診察を受けるとき診療費給付の優遇政策が適用され、普段でも衛生室に来て無料で診察を受けることができるとアドバイスした。
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大英鎮大黄村衛生室の薬剤室。ここの薬剤はすべてネット上の一括調達による上乗せゼロの基本薬 |
沈さんは子どもの時、体が弱かったので、医者を志した。1988年、自費で合肥市にある衛生学校に入り、卒業後さらに、試験を受けて農村医師(村医)の開業免許を取得し、村医の道を歩み始めた。「当時、2000人余の村に、4人の医師がいて、競争が激しかったですよ」と、次のように話してくれた。衛生室は完全に自主経営で、すべての損益は自己責任。主な収入源は薬代の上乗せだった。「上乗せはごく当たり前で、その比率は50%~100%で、ある時は完全に過当競争でした」。2005年8月、大黄村衛生室が設立され、4人の村医は鎮のセンター衛生院が統括的に管理するようになった。
新プログラムによって、沈さんら村医の仕事や生活にも変化がおきた。「診察以外に、公共衛生サービスが重要な仕事になりました。新生児が生まれると、すぐに健康記録をつくり、生後24時間以内にBCGワクチンと一回目のB型肝炎ワクチンを接種し、1カ月目に2回目のB型肝炎ワクチン、そして2カ月目にポリオワクチンを接種します」と、沈さんは事細かに説明してくれた。 村医の意欲を引き出すために、安徽省は村医を「御上」が食べさせるようにした。つまり公務員並みの給料生活になったわけだ。それまで、沈さんの収入は薬代への上乗せによって、毎月4、5000元の収入があった。現在、県財政部門は村医の診療費、基本薬上乗せゼロに見合う補助、公共衛生サービスといった三つの面から、村民への貢献度に基づいて給料を算定している。「今の月給は2500元前後で、前より少なくなりましたが、リスクが減り、順番に休暇も取れるし、国が養老保険を支払ってくれるので、後顧の憂いがなくなりましたよ」と、満足気に話してくれた。
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衛生室の職員は全員いつも資格証明書を身に付けている |
2009年、中国は都市部と、農村部の住民に向けて、健康記録管理を含む9項目の基本的公共衛生サービスを提供しはじめた。来安県衛生局の張松林局長は「基本的公共衛生サービスは『予防第一』で、住民が病気にならないように、病気になることが少なくなるように、発病を遅らせるように、大病にならないようにしていきたい」と、説明してくれた。この重任はむしろ村医の双肩にかかっている。
銅陵県鐘鳴鎮新聯村の150平方㍍の衛生室には、診療室、点滴室、消毒室などすべてが整っている。記録室で、朱克友さん(54)が整然と保管されている健康記録を見せてくれた。「全村民2991人の健康記録は全部ここにあります。赤ラベルは高血圧、緑ラベルは糖尿病、青ラベルは老人病、三色のラベルが付いているのはハイリスク層。これらの記録はそれぞれ対応する電子記録がつくられています」
1975年、朱さんは安徽省銅陵県の「はだしの医者(1968年9月〜1985年1月、農村の医療衛生活動に従事する半農・半医の衛生要員)」養成所を卒業した後、新聯村に戻り、村医になった。医術がすぐれ、診察態度も親切だったため、近隣の村々の住民もわざわざ診察に来ていたため、当時の収入は毎月4、5000元になっていた。2009年に新プログラムが実施され、県内の村衛生室が統合され、基本薬物制度が実施されると、朱さんの収入はあっという間に2000元ちょっとに減った。これについて、朱さんは不満を持っていない。「まず真人間になって、医者の仕事はそれからだと、考えました。そして、人々の健康を見守ることが出来れば、それが最大の幸せですよ」と、静かに語っていた。新聯村の人口は4000人を超え、鐘鳴鎮最大の村だ。どのようにしたら全村民の健康管理を万全にできるか、朱さんはいつも頭を悩ませていた。200*年、県の支持を受けて、朱さんは無料で村民の健康記録をつくった。最初、村民の理解が得られなかったので、一軒一軒説明に回りやっと納得してもらい、また無料で健康知識の普及にも努めた。その後、朱さんは全国優秀村医に選出され、李克強国務院副総理の接見を受けた。
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大英鎮大黄村衛生室の沈家忠主任はいつもバイクに乗って村内を回り、村民たちに疾病予防の知識を普及している |
銅陵県鐘鳴鎮新聯村に住む全村民2991人の健康記録をつくった朱克友医師 |
安徽省には沈さん、朱さんのような村医が約6万人いる。安徽省では郷・鎮衛生院と村医務室の建設を民生プロジェクトに確定し、2007年から15億元を投入して、政府主導のスタンダードに適合した郷・鎮衛生院1230カ所と、村の衛生室1万5069を建設した。2011年末に、同省はすべての行政村にスタンダードな衛生室を建設し、村民に公共衛生と基本的医療サービスを提供している。
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