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春節を振り返って

 

バスの中でも盛り上がる

井上俊彦=文・写真

旧暦の12月28日、すでに休みに入った人も多いためか乗客もまばらな早朝のバスに、セメント袋だけを持った若い農民工が乗ってきた。席に着くと、後部座席のおばあさんに、北京駅に行くにはどう乗り換えれば便利か質問している。それを耳にした前の座席のおじいさんが適切な乗り換え方法を教え、ついでに若者にいろいろ質問した。若者はハルビンに帰省するところで、セメント袋に入っているのはみな故郷に持って行くお土産だという。それを聞いたほかの乗客が、「ハルビンは寒いだろう?」「実家のご両親はお元気なの?」など、次々に若者に話しかけ、バスの中は春節を迎える温かな空気に包まれた。よく、中国人は日本の地下鉄は静かでいいとほめてくれるが、実は私はこうした「中国特色」のバスにより好感を持っている。

若い夫婦が協力してギョーザを作ってくれた

旧暦大晦日の夕方は近所に住む同僚の家へ。今年は帰省しないという新婚カップルが、外国で一人春節を過ごす私を気遣って招待してくれたのだ。かいがいしくギョーザやふるさとの料理を作るご主人が新鮮だ。日本ではこうした場合、女性が料理を作るのが一般的だからだ。テレビの『春節の夕べ』を見ながらギョーザを食べ、白酒を酌み交わし、中国式大晦日を堪能した。帰省できない彼らにとっても、私は少しはにぎやかしになったようだ。あっという間に時間が過ぎて、爆竹や花火でにぎやかな通りを歩いて家まで帰った。そうそう、来年の春節にはこの夫婦も帰省するはずだ、3人に増えた家族で。  

春節当日は、夜明け前に故宮の北に向かった。日本には元旦の日の出に向かって一年の幸福を祈る習慣があるが、中国にいる私は、最も中国らしい春節の日の出の写真を撮影し、ネットを通じて日本の友人に見せたいと考えたのだ。カメラを構えて西の角楼のそばで日の出を待っていると、男性が話しかけてきた。退職教師の彼も早朝の風景を撮影に来たようで、持っているカメラとレンズが同じ組み合わせということで意気投合し、二人の中高年は気温マイナス13度の中、連れ立って北海公園の廟会(縁日の市)などを撮影して回った。北京の中高年は人と人の垣根がけっこう低く、外国人でも共通の趣味があれば、すぐに親しくなれるのだった。

故宮の角楼から昇る春節の「初日の出」(1月23日午前7時57分)

翌日は、午後から日本人の若い友人二人と「賀歳片」(正月映画)を見に行った。実は、北京では企業に勤めるビジネスマンや国の出先機関で働くスタッフ、留学生など多くの日本人が春節を過ごしている。私たちは中国映画のファンで、よく集まって作品を鑑賞する仲間なのだ。この日は作品も興味深かったが、観客の様子にも興味を引かれた。私の前の席の父親は、家族全員を案内して着席させると、映画も見ずにすぐに眠ってしまった。春節休み中ずっと家族サービスに頑張ってきて疲れがたまっていたのだろう。上映が進むとちょっとしたラブシーンがあり、後列に座っていた子どもが「この人たち何してるの?」と質問する声が聞こえた。母親はひとこと「ダンス!」。続く質問を許さないという語気を感じてか、息子は黙ってしまった。どちらも、日本でもよく見る光景で、国は違っても家族のあり様は同じなんだと、改めて感じたのだった。

 

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