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春節を振り返って

 

元宵の火に輝く笑顔

『北京週報』勝又あや子=文・写真

北京に住んで十数年。春節の最終日「元宵節」(今年は2月6日)というと、団子を食べ、爆竹を鳴らし、花火を打ち上げて、にぎやかに過ごす――それが伝統的な元宵節だと思ってきた。しかし、今回取材に訪れた山西省中部の晋中市には伝統行事が今に伝わり、ランタンや大がかりな花火のほかにも、さまざまな民間芸能や出し物などで盛大に元宵節を祝っていた。

■多彩な晋中市の社火節

晋中市は山西省の中部に位置し、北京から約500㌔、車で5~6時間ほどの距離にある。晋商と呼ばれた山西商人の本拠地として有名で、また世界遺産として名高い平遥古城は晋中市内にある。

伝統劇の衣装に身を包んだ小さなドラマーはわずか6歳

社火節は春節期間中、特に元宵節前後に行われる民間の娯楽活動。「社火節」の「社」は土地の神、「火」は火の神を指し、その起源は土地と火の神に対する崇拝にある。最近ではそうした共同体儀式の色合いが薄れ、面白さや楽しさを求める娯楽性の高い催し物へと変化してきた。晋中の社火は2500年という長い歴史を持ち、形式が豊富で、その種類は二百余りにのぼる。2007年、晋中市は中国民間文芸家協会から全国で唯一「中国社火の郷」の称号を与えられ、08年から「晋中社火節」を開催している。

「晋中社火節」の目玉は元宵節当日に行われるパレードだ。このパレードには、銅鑼や太鼓の演奏、龍踊りや獅子舞、「高蹺」(竹馬に乗って踊る)、「鉄棍」や「背棍」(子どもを鉄の棒の上に乗せて担いだり輿で持ち上げたりする出し物)、「旱船」(船と漕ぎ手を模した民間舞踊)など、域内各地区から多種多彩な出し物が集まる。

■家の入り口に「火盤」

さらに伝統色の濃い社火節が行われているのが、晋中市に属する左権県だ。左権県は標高1000㍍以上の山間にある農村だ。

左権の人々は誰もがみな歌や踊りを好み、その普段の生活は歌や踊りと切り離せない。そのため左権は「中国民間芸術の郷」と呼ばれている。村々には「芸術団」や「文芸隊」と呼ばれるパフォーマンス集団がいくつもあり、子どもたちは幼稚園や小学校で左権に伝わる民謡や踊りを習う。社火節の期間中、街頭には至る所に舞台がしつらえられ、にぎやかな演奏が響き、歌い踊る人々の姿が見られた。

左権の社火節で最も興味深いのは、「串火盤」と呼ばれる習慣だ。「火盤」は家々の入り口や広場に薪や練炭を円錐状に積み上げて作ったかがり火のことで、文芸隊や芸術団がこの「火盤」のそばで出し物を演じてまわり、「火盤」の主はその礼としてクルミや落花生、タバコなどを渡す(現在では現金を渡すことが多い)。またこの地方には、「本命年」にあたる人(年男・年女)が厄除けのために出し物を演じる習慣があるという。左権の社火節には、土地と火の神への崇拝とともに、「消災祈福」すなわち駆鬼逐疫と幸福祈願の意味が込められているのだ。

背棍や鉄棍の上に乗った子どもたちは6歳から12歳。演奏に合わせて白い袖を振る

こうした社火の費用は文芸隊、芸術団が持つこともあるが、基本的には村が負担するという。金額は村の状況によっても違うが、少ないところで2000~3000元、多いところでは30万元という巨額をつぎ込むというから驚きだ。社火節をどれほど人々が楽しみにし、重視しているかがうかがえる。

■「どんと焼き」思い出す

日本にも、元宵節にあたる小正月を祝う習慣が一部の地方に残っているが、左権の火盤を見ながら、「どんと焼き」を思い出した。「どんと焼き」は「どんど焼き」「とんど焼き」、または「左義長」などと呼ばれるもので、日本各地に残っている。毎年春節になると、「日本は旧正月を祝うのか」とよく聞かれる。「日本では元旦を祝う。昔は旧暦で正月を祝っていたけれど、1872年(明治五年)の改暦以降は新暦で新年を祝うようになった」と説明してきたが、考えてみれば奇妙なことだ。中国で旧暦を身近に感じて生活していると旧暦がいかに実際の季節の変化に合っているかを実感するが、日本人はその旧暦を捨て、旧暦に合わせて営まれてきた伝統行事だけをそっくりそのまま新暦にあてはめた。実に器用というか、強引なことをしたものである。正月だけではない。端午節しかり、七夕もまたしかりである。

■貴重な伝統行事の保存

中国では旧暦は依然身近な存在だが、それでも北京などの大都市では形骸化してしまった。「伝統行事は行事食を食べるくらいだ」と、北京っ子はつぶやくが、晋中市、とりわけ左権に昔ながらの伝統芸能や行事が残っているのは極めて貴重なことだ。

「交通が不便で外部との交渉が少なかったことが、この地の民間芸能の保存にかえって役立った」。地元の人はこう言うが、では、道路が通り、鉄道が通り、インターネットが通じるような現代において、左権の社火節は今後もこのままの姿を保っていけるだろうか。農村が現代化と産業発展を遂げつつ伝統行事や民間芸能を守っていくことはできるのだろうか? 地方政府主導の大型パレードや花火大会はそのための施策の一つだろう。それと同時に、伝承者自身が伝統を守ろうとする強い意志も必要だと思う。演者・観客ともに笑顔が弾けた左権の「串火盤」からは、自分たちの伝統を心から慈しみ、楽しむ精神が感じられた。勢いよく燃え上がるかがり火にあたりながら、「この笑顔こそが伝統保存の一番の原動力だ」との思いを強くした。

 

人民中国インターネット版 2012年3月

 

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