江西省 農村振興の道 〜オレンジ、観光、インターネット〜

2018-09-28 16:31:39

高原=文 江西省党委員会宣伝部=写真提供

 

 江西省は昔から農業を主要産業として栄えてきた。現在江西省では、食糧生産を保障すると同時に、積極的に新しいアイデアを取り入れている。インターネットやビッグデータを利用して野菜果物の栽培を推進し、農村観光を発展させることで、農民の所得を増加させ、江西省の特色ある農村振興の道を切り開いている。

 

ネーブルオレンジが「豊かになる鍵」に

 

ネーブルオレンジ果樹園で手入れに忙しい鄧大慶さん  

 江西省瑞金市の龍湖村では、60歳近くになる果樹農家の鄧大慶さんが自分のオレンジ畑を眺めながら、「今年も豊作だろう!」と満面の笑みを浮かべた。鄧さんの家が有する30ムー(1ムーは約007)余りのネーブルオレンジ畑は今年、生産量が50トンに達する見込みだ。

 鄧さんは貧しい家庭で生まれ育った。家計を改善させるため、鄧さんは1998年から、自分の家の畑でウメ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジの栽培を試みたが、思ったような結果は得られなかった。故郷の土地が果樹栽培に最適だと強く信じていた鄧さんは2011年、親戚と友人から2000元を借り、四川省、湖北省などの地域を駆け回り、ネーブルオレンジの育て方を学んだ。翌年の春、鄧さんは地元政府の支援の下、銀行から4万元を借り、16ムーの土地で800株余りのネーブルオレンジを栽培し始めた。そして14年にはついに、鄧さんのオレンジ畑の生産高は3万元を超え、15年には6万元以上に達した。

 「一人ではなく、皆が豊かにならないと本当の豊かさとは言えない」という思いを抱く鄧さんは16年2月、自ら先頭に立って果樹産業専業協同組合を設立し、村の人々に協同組合に入り共にネーブルオレンジ産業を発展させようと呼び掛けた。しかし、初めは周りのモチベーションがあまりにも低く、設立時のメンバーはたった5人であった。

 鄧さんは「村の皆の不安を取り除き、ネーブルオレンジ産業の可能性を信じてもらうため、私は村の役人一人一人の家へ出向き、協同組合に入るメリットを伝え、ネーブルオレンジ栽培における『独自のノウハウ』を少しも隠すことなく伝えました」と語った。16年末には、協同組合のメンバーは56人に達し、その影響は周辺の村にまで波及し、果樹園の面積は3200ムーにまで広がった。協同組合は、別々に作業をしていた農家たちを集結させ、統括的な土地運用や技術教育、農機具供給、病害対策、マーケティング方法の指導によって、農家のために経済効果の最大化を図った。

 今でも鄧さんの歩みは止まらない。「まだまだ学ばなければならないことがたくさんあります。木の下に防草シートを敷き、木の上には防虫ネットをかぶせ、物理的防除法を全面的に使うことで、除草剤の使用を減らし、病虫害を防ぎ、ネーブルオレンジの質を高めることができます。贛南(江西省南部)オレンジを『体にいいフルーツ』『環境に優しいフルーツ』『安心フルーツ』にし、世界各地へ販売し、村の皆が豊かな生活を送れるよう頑張ります」と鄧さんは決意を示した。

 

インターネットで農業の発展を後押し

 村の人々が汗水垂らして育てたネーブルオレンジの販路を拡大するため、15年7月、息子の助けを借りて鄧さんはEコマースを始めた。インターネットの力で、村のネーブルオレンジは長沙市、武漢市、西安市、瀋陽市などにまで販売されるようになった。それだけではなく、1当たりの値段も1元上がった。さらに16年には、瑞金市農村のEコマース産業発展のおかげで、鄧さんはネットでネーブルオレンジを20トン以上出荷し、平均して1当たりの値段は2元上がり、売上高は4万元増加した。

 「インターネットプラス(インターネットが他の産業と結び付くこと)」は、贛南オレンジの発展を力強く後押しし、ネーブルオレンジは、村の人々にとっての「豊かになる鍵」となった。

 江西省贛州市贛県区の河埠村にある野菜の温室では、56歳の陳貽英さんが肥料をまいている。陳さんの家のブロッコリーは間もなく出荷され、収入は1万元以上に達する見込みだ。

江西省農村の野菜温室栽培 

 陳さんは「政府と企業は温室や野菜の苗、技術教育を提供するだけでなく、販売まで支援してくれるので、私たちは野菜の栽培にだけ集中すればよくなり、収入は以前より何倍も増えています」と現在の変化について述べ、思わず笑みを浮かべた。贛州銘宸現代農業集団は地元が誘致した、農業界におけるリーディングカンパニーで、村の人々に無料で野菜の苗や栽培技術の教育を提供し、また市場価格で農作物を買い上げている。さらに、同企業はビッグデータを使い農民の生産活動を指導している。

 同社担当者の張向江さんは「農業部門の市場情報プラットフォームにアクセスし、全国各地の野菜価格をモニタリングすることで、何を栽培すべきかという農民の問題を解決することができます。また、収集した気象データと、遠隔地技術指導で農民たちにどのように栽培すべきかを教えることができます。さらに、ビッグデータを使うことで、市場のリスクや栽培のリスクを回避することができ、まさに『魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える』ことが実現できました」と述べた。

 贛州市は現在、野菜産業を農民を豊かにするための支柱産業に発展させ、贛州を江南地方(長江中下流部の南の地域)における重要な野菜集散地に築き上げることを計画している。今のところ、贛州市全域では野菜栽培エリアが622カ所建設され、総面積は12万9000ムーに達した。生産された野菜を冷蔵庫に保存し、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」(チャイナレールウェイエクスプレス)でモスクワに月に3回輸送することで、年間の市全域の野菜輸出量は2000万以上増加した。

 

農村観光で所得拡大を図る

 同省の石城県は、江西省と福建省が隣り合う境目に位置し、「山々に抱かれた、城のごとくそびえる町」として知られ、千年以上の歴史を有している。石城県は昔、客家(ハッカ)人(客家語を共有する漢民族の一支流)が南へ移動した際の重要な経由地だった。そのため、「客家の揺り籠」とも呼ばれている。水も空気もきれいな山紫水明の石城県は、森林率が97%を超え、マイナスイオンが1立方ミリ当たり10万個に達し、「自然の酸素バー」と言っても過言ではない。そのため、石城県は「第1回中国住みやすいエコシティ」に選ばれた。

石城県の観光スポット通天寨 

 白蓮は石城県における伝統的な商品作物である。石城県の白蓮栽培の歴史は300年以上にわたり、1950年代から大規模栽培が始まったという。96年、石城県は中国国務院農業発展研究センターに「中国白蓮の都」と名付けられた。白蓮栽培産業のおかげで、地元ではハス公園、ハス文化館などの観光スポットが建てられ、大勢の観光客が訪れている。その流れに乗り、周りの住民たちも民宿、お土産ショップ、「田舎生活体験ツアー」などを運営し始めた。農村観光の振興は地元の農民たちにとって新たな収入を得るチャンスとなった。

 「うちの店にはテーブルが十数卓あるが、週末はツアー客の予約でもうびっしり!」と石城県琴江鎮大畲村に住む「田舎生活体験ツアー」運営者の黄運宝さんは笑いながら言った。以前は、ハスの花が咲くシーズンしか観光客が来なかったが、今は一年中観光客が絶えないため、黄さんの家は毎月純利益が1万元を上回った。

 その他、豊かな地熱エネルギーを有する石城県は、スパリゾート施設九寨峡谷温泉をすでに建設した他、大畲双石花海温泉、睦富森林温泉、高田民俗温泉、木蘭天国温泉などのプロジェクト開発も進めており、「中国温泉の都」と名付けられた。石城県の農民たちは、自分たちにとって、最も確かな豊かになる道を見つけた。

 

農業大省の農村振興の道

 「三農(農業農村農民)」問題は、国の経済や国民の生活に深く関わる根本的な問題である。農業を主要産業とする江西省は、優先して農業、農村を発展させる姿勢を堅持し、「産業隆盛住みやすく環境にやさしい民度向上効果的な管理ゆとりのある生活」という大原則に基づき、同省の特色ある農村振興の道を積極的に切り開いている。

 江西省党委員会の劉奇書記兼省長(日本の県知事に当たる)の話によると、江西省はここ2年間で、食糧生産において大きな飛躍を遂げ、昨年、省全域の食糧総生産量は212億7000万に達し、14年連続の豊作を実現したのみならず、環境に優しいグリーン農業においても新たな進展を見せ、農業部(日本の省に当たる)から全国唯一の「グリーン有機農産物モデル拠点」に選ばれた。

南豊市農村部を視察する劉奇書記(中央)

 農業の発展で農民たちの生活水準は向上し、所得も増加した。昨年、江西省の農民1人当たりの平均可処分所得は前年比91%増の1万3242元に達し、伸び率が8年連続で都市部住民の所得伸び率とGDP成長率を上回り、都市部と農村部間の所得格差は縮小し続けている。

 より多くの農民たちが鄧大慶さん、陳貽英さんのように豊かな生活を送れるようにするため、江西省は今後5年間、農村部住民の所得を増やすための取り組みを拡大させ、より多くの農民が自宅周辺で就職起業できるよう力を入れていく。また、専業農家の数を増やし、新しい農業経営システムを構築し、産業グレードアップゆとりのある農民生活住みやすく環境に優しい新農村を築き上げていく方針である。 

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