片岡希監督に聞く中華学校の子どもたちの素顔
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片岡希監督(写真・賈秋雅) | ――監督の初作品に、どうして中華学校の子どもたちを選んだのですか。
私が北京電影学院に留学中、中国人同級生と歴史について語り合ったことがあります。見解も立場も全く異なり、自分がこれまで受けてきた教育との違いを改めて実感しました。横浜には在日華僑やその子弟が通う中華学校があるので、そこではどのような教育をしているのだろうと疑問に思ったのが、最初のきっかけです。
当初は、子どもたちの取材から開始したのですが、彼らを通して出会った両親や祖父母世代の方々が戦争の話をいろいろ教えてくださいました。横浜在住の私ですら、初めて耳にするような話でした。例えば、話を伺った皆さんは中華街の中やその周辺に住んでいますが、特に海辺に住んでいる方々は、戦時中は隔離政策によって、中華街の中に集められ生活せざるをえなかったということなどです。学校教育では学んでこなかった内容ですが、日本人として、知らねばならないことがいくつもあると強く思いました。
――取材をして中華学校に対する印象はいかがでしたか。日本の子供と違う部分がありますか。
先生の教え方で言うと、先生は「教師」ですが、子どもたちの「両親」のような存在なので、「先生の話を聞きなさい!」という押しつけ型の教育ではなく、生徒が意見を出しやすいアットホームな雰囲気で授業を行っています。一方、生徒たちも、クラスや学校は「家庭」だと認識しています。担任の先生は、小さいころから知っている「お姉さん」であるし、校長先生も良く知っている人という具合です。保護者同士も幼馴染という環境ですからしごく当然の感覚でしょう。
子どもたちは、お互い「兄弟」のようで、先輩後輩の関係は存在しますが、家族的な雰囲気の方が強いでしょう。この点が、日本の学校と比べ、特異であると思うと同時に、中華学校ならではの教育方法ではないかと感じました。
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授業は活発な雰囲気の中で行われる(ブロードメディア・スタジオ提供) |
――授業では、中日の言語を使ったり、中国文化を学んだりしていますが、生徒たちは、自分はどこの国の人だと思っているのでしょうか。
中学生になると、自分が中国人であるという意識が強くなっていくように感じました。両親の生活を見ていて、中国人であることを理由に家の賃貸を拒絶される、あるいは仕事を見つけにくいなどといった身近な事から、自分たちは中国人なのだという意識が高まる子もいるんだと思います。このようなことに直面して、自分は華僑としてどのように生きていくべきかを模索するようになるのでしょう。中学卒業後、中国人の代表だと見られても恥ずかしくないように、中国と日本両方のことをきちんと勉強しなければならないという意識を持つ子が多いようです。
また、取材中に一人の卒業生に出会いましたが、修学旅行で初めて訪れた中国で、現地の人に「あなたは日本人だ」と言われたそうです。中華学校には、このような経験をした人が少なくないと思います。中国人として日本に居るのが難しい一方、中国に帰っても外国人だと言われ、自分はいったい何人なのだろうかと思い悩む子も多いようです。しかし、成長するにつれ、自分たちは中国人でも日本人でもなく、「華僑」であるという意識が固まっていくようです。つまり、中国を父とし日本を母とする、その双方を熟知し、独自な文化を有する華僑だと思う人が多くなるのではないでしょうか。
――中日両国の事情に通じ、双方の文化を理解する人材である彼らは、両国の架け橋として、どのような貢献ができると思いますか。
華僑の方は通訳などの分野で活躍している方が多く、政治関係や文化交流面で、架け橋としての役割を果たしてきました。政治、経済、文化のいずれにおいても、パイプ役を担う人は、華僑ならではの両国の事情に長けているという特質を絶対に持っていると感じます。
例えば、私の経験ですが、日中合同で映画の撮影をしたとき、両国スタッフに明らかな文化の違いを感じました。特に、時間に対する観念が非常に異なります。撮影現場では、日本人は収録を優先するため、食事を抜いたり後回しにしたりするのはごく当たり前のことですが、中国人は食事の時間になると、まず食事をしてから撮影しようとします。ささいな違いですが揉める原因になりがちです。また、日本人俳優が中国で撮影するときなど、全く未知の環境でも、きちんと意思の疎通をし合う必要があります。これらのような場面では、日中の事情を理解している華僑ならではの特質を生かし、パイプ役として現場の潤滑油になり得る貴重な存在だと思います。
現在、中華学校と日本との間の溝が狭まってきており、日本側も中華学校に対する理解が深まってきています。将来、彼らは、おそらく日本のさまざまな分野において、日中友好のために活躍することでしょう。彼らの今後の活躍に期待しています。(于 文=聞き手)
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