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過去40年間で最も安定している中国経済
   

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 瀬口清之(談)

2017年、中国のGDP成長率は6・9%と7年ぶりに前年を上回った。私は17年の中国経済を説明する際、「市場経済化に踏み切った1990年代以降最も安定した状態で、恐らく2018年も同様の状態が続くだろう」と言っているが、むしろ「1978年の改革開放以降の40年間で最も安定している時期」と言っても問題ないだろう。

 

見当たらぬ不安定要素

 経済が良いと判断できる根拠はいくつかある。

 まず輸出が回復していること。輸出は2015、16年においては依然ドルベースでのマイナスが続いていたが、17年からはプラスに転じ、しかも第4四半期は9%台という高い伸び率を達成している。

 供給側改革の成果は投資方面で実りつつある。不動産開発投資は3級、4級都市の在庫水準がほぼ適正化に近づき、不動産投資が回復しつつある。次に設備投資だが、これは新興産業と伝統産業の二つに分けられる。新興産業は特に景気の状態が良く、ほぼフル生産の状況にあり、需要が今後も伸びていく見通しにあるため、自動車、液晶、スマートフォン、半導体を中心に、設備投資が今後も増えると思われる。伝統産業は鉄鋼、電力、造船、アルミなどの分野を指す。鉄鋼設備の稼働率は結構高いが、それ以外については稼働率が低い。このため、以前に比べて稼働率も収益も上がってはいるものの、まだ新規の設備投資を増やせる状態ではなく、投資全体では緩やかな低下が続いている可能性が高い。しかし17年後半あたりから新興産業の設備投資が強まることで、設備投資の低下傾向に若干変化が現れ始めている。新興産業が推進力となり投資全体を押し上げる傾向は、中国経済にとって良いことである。現在の設備稼働率は78%に達し、13年のピークである77%をすでに超え、企業利潤率も6・46%と11年の水準まで戻っているなど、全体的には設備稼働率も収益率も良い状態だ。これは習近平指導部が続けてきた供給側改革の成果と言えよう。特に過剰設備の削減は、数年間の構造改革の努力が実った結果と言えるだろう。

 1982年東京大学経済学部卒業後、日本銀行入行。91年より在中国

日本国大使館経済部書記官。2009年に日本銀行退職、キヤノングロ

ーバル戦略研究所主幹。10年にアジアブリッジ(株)を設立。16年に

UNOPS中国長春食品安全プロジェクト・シニアアドバイザー。

著書に『日本人が中国を嫌いになれないこれだけの理由』(日経BP社)

など。(写真・本人提供)

 最後に消費だが、都市化の進展を背景に、サービス産業の発展が引き続き勢いを保ち、雇用を安定させ所得を押し上げていることが消費堅調の土台である。加えて中間所得層の増加で生活必需品以外の、旅行、教育、娯楽、健康、運動、医療、介護などの消費が活発だ。さらにコマースやフィンテックなどの発展が消費意欲をさらにかき立て、消費を支えている。物価と不動産価格もほぼ安定している。マクロ経済政策の担当者が「あまり大きな問題がない」

 

「下押し圧力として心配する問題が見当たらない」と感じる経済状況は、1990年代の市場経済化以降最も安定しているというのが私の評価だ。今年半ばくらいには、不動産投資の背景にある過剰在庫がほぼ適正水準になり、不動産開発投資も上がることが予想される。よって、今年は昨年以上に堅調だと予測している。

改革を支える経済の安定

 17年末の中央経済活動会議では、金融リスクの防止、貧困脱却、環境汚染の防止という三つの重点課題が提唱された。足元の経済が安定しているからこそ、こうした長期的な改革にも取り組めるのである。特に金融リスクの防止は注目に値する。これまでは地方債務問題とシャドーバンキング問題に着手すれば、地方の不動産開発投資が制約を受け、財源が減ることで地方経済が厳しい状態に陥ることが懸念されていたため、この問題に着手するのは非常に難しいことだった。

 ところが今年に入り、二つの大きな変化が現れた。第1に、経済が最も安定している今、地方経済で不動産収入が減少しても、他の税収で補える可能性が高まったこと。第2に、成長率よりも経済の質や効率を重視し始めたことである。このため、質や効率が改善すれば成長率が落ちても国家目標に反しなくなったため、今まで手がつけられなかった金融リスクの防止という難問に着手し、改革を本格的に推進できるようになったことが、中央経済活動会議の最も大きな特徴だ。私はこの決断は非常に重要かつ良いことだと思っている。

 

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