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山口廣秀 両会の注目議題を解説

 

山口廣秀

日興リサーチセンター理事長、元日本銀行副総裁

中国経済について

現在の中国経済は、全体的に減速している。鉱工業生産が落ち込み、企業マインドも悪化している。需要面をみれば、個人消費、住宅投資が弱含み、固定資産投資もインフラ投資を中心に力強さに欠けるなど、内需が全体として低調だ。さらに、対米貿易摩擦もあって、輸出が減少している。

先行きについては、輸出のさらなる下振れなどから、減速感を強める可能性が高い。

以上が生産、マインド、需要項目といったものを見渡しての、中国経済への現状評価と見通しだが、このような動きの背景には、次のようなことがあるのではないか。

一つは、明らかに対米貿易摩擦の影響が出ており、輸出や生産に下押し圧力が掛かっていること。

二つは、中国も含めたグローバルな半導体のサイクルが後退局面に入っている可能性があること。

三つは、かねてから言われてきたことだが、中国国内における設備ストックの行き過ぎた積み上がり、一部都市での住宅の供給過剰、企業の債務過多など、経済全般でいろいろな過剰が存在し、この面から調整圧力が強く掛かっていること。

政府活動報告について

政府活動報告に対する印象の一つは、中国当局が今の中国経済について、相当厳しい認識を持っているのがはっきりしたということ。私は先ほど、中国経済が減速しており、この先もさらに減速すると言ったが、政府も、そのような認識を持った上で、より厳しい可能性も踏まえながら、大規模な景気対策を打ち出したということだろう。

具体的には企業向けの減税、公的年金保険の企業負担の削減、地方政府の債券発行枠拡大、国有銀行の中小企業向け貸出の増加など、様々な手段を講じている。そういう点では、大胆な施策を必要な時にきちんと打っていく、いわば「果断さ」を感じる。

一方、李克強総理は、「ばら撒き型の景気刺激は行わない」と発言しており、政策のバランスへの配慮もうかがわれる。また、今年のGDP成長率を6.06.5%と低めの見通しを頭に置いていることも、現実的だ。

ただ、気になるのは、先ほど述べた通り、中国が直面する課題が大きいということだ。対米貿易摩擦は、交渉がある程度前進しても、完全な解決は期待しにくい。景気下振れ懸念に対し、当局が刺激策を打ち出しても、設備ストック、住宅ストック、企業の借り入れなどが過剰となっている下では、効果が出にくいかも知れない。その時には色々な手立てを中国政府や党が考え対応すると思うが、ぜひ柔軟な構えでかつ迅速な対応をされることを期待したい。

外商投資法について

外商投資法の成立によって、外資系企業の権利や権益がしっかりと確保されれば、外資系企業にとってメリットは大きい。同法がしっかりと実施されることが大切だ。そうなれば、結果として、中国経済が一段と対外的な開放の度合いを強めることになる。外資系企業の権益がしっかりと守られるというのなら、日本企業の対中投資をプッシュする材料になるだろう。 

(外商投資法の実効性について懸念の声があるようだが)中国政府も様々なことを考慮にいれて法律を作ったのだから、懸念の声などにも耳を傾けながら、きちんと実施して欲しい。

中米貿易摩擦について

私自身は、中米間の貿易摩擦、広く言えば経済摩擦の根は深いと思っている。中国のみなさんも感じていると思うが、米国には中国経済の急速な台頭に対するある種の懸念があると思う。トランプ大統領が唱える米国第一主義は、中国を意識している面が、間違いなくある。中米間のフリクション(摩擦)は一朝一夕には解決しにくいのではないか。

過去の歴史を振り返ると、先進国と台頭する新興国との激しい対立の例は、枚挙にいとまがない。こうした対立を円滑に解決していくためには、両国の知恵と互いを尊重する姿勢が欠かせない。中国と米国の間にも必要なのは、そうした姿勢だろう。場合によっては、第三国が中米の間に立って調整役を果たすことも必要なのかもしれない。日本がそうした役割を果たせるのではないかと思っている。

「一帯一路」構想について

昨年までの東京—北京フォーラムでも、「一帯一路」構想について、日本として協力すべきはきちんと協力することを確認してきた。それが、第三国におけるインフラ発展などを促し、世界経済の発展につながるものとして、「一帯一路」構想を捉えていくべきだという議論を行ってきた。私も基本的にはそうだと思っている。

しかし、「一帯一路」構想の下で行われている様々なプロジェクトについては、中国側が急速に物事を進めようとしていることもあって、当事国が漠然とした不安を抱いているという話もある。また、債務返済などについても、非常に厳しい条件がついていることへの懸念もあるようだ。中国には、是非そうした不安や懸念を払拭する努力をして欲しい。いずれにせよ、アジアを中心に非常に多くのインフラ需要があるのは事実だし、そうした需要に「一帯一路」という枠組みでの中で応えていくのは大切なことだ。アジア開発銀行との協調も重要だ。

金融面での第三国協力の可能性について

これについても、急いで色々なことをやろうとすると、関係国からある種の懸念や不安が出てきかねないので、関係国の受け止め方をきちんと念頭において対応することが大切だ。その上で日本の金融機関も必要に応じて対応していくのではないかと思う。特に日本の金融機関は海外での展開を非常に重視していることもあり、「一帯一路」構想の枠組みの中で、日本の金融機関もできることがあれば、それを模索することになるだろう。

今後の中国の発展と日本との関係について

かねてから言われてきたように、日本と中国は一衣帯水の隣国だ。しかも、世界経済の中では第二位と第三位を占める両国は、これまで以上に密接な関係を築くべきだろう。その意味では、日中は、昨年来、政治的にも経済的にも非常に良好な関係にあり、これは今後も維持していくべきだ。ナショナリズムや自国第一主義が世界的に広がる今、日本と中国が手を携えて協力関係をより密なものにしていくことは、アジア経済、ひいては、世界経済にとって非常に重要なことだ。こうした面も含め、日中関係がますます密なものになっていくことに期待したい。

人民中国インターネット版 2019315

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