はじめに |
一つの博物館は、“もの”に表れた歴史の集積である。
北京には大小、新旧さまざまの博物館があり、形式的な違いはあるとはいえ、一つ一つの博物館は異なる歴史の記録者ともいえ、それぞれの意義がある。
本連載では、大通りから横丁まで博物館を訪ね、その物語を探していく。
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中華民族の服飾の庭園――北京服装学院民族服飾博物館
文=段非平 写真=王丹丹
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【館長の言葉】
本館の展示品は代表性をそなえた民族服飾の粋であり、審美的にも文化的内容においても、見る人に大きな満足を与えるものと確信しています。 |
【博物館の宝】 チャハールのモンゴル族王妃の珊瑚の頭飾り
この文物は、王妃の末裔から購入されたものであり、頭飾りの色彩はむらがなく、加工には工夫が凝らされ、モンゴル族の王妃の高貴な身分をあらわしている。モンゴル族の伝統では、王妃は娘が結婚する時に、自分の頭飾りの半分を娘に与え、嫁入り道具とする。ゆえに、このような完全な形の頭飾りが残されたのは、非常に稀なことである。 |
北京服飾学院民族服飾博物館は、2000年に開館した中国初の服飾を専門テーマとする博物館であり、また現在、最も良質の民族の服飾をテーマとする博物館である。館内には中国各民族の服装、アクセサリー、織物、ろうけつ染め、刺繍など一万点あまりが展示され、中国の主要な民族と地域の典型的な服飾を総括している。また、館内には20世紀20~30年代のイ族、チベット族、チャン族など、少数民族の生活風景の写真が千枚以上収蔵されており、参観者は、長い歴史のなかの中国の服飾の進展と多様多彩な姿を通して、中国の民族服飾文化を理解できる。
貴重な民族の服飾が集まる 五大テーマホール
博物館には、総合服飾ホール、ミャオ族服飾ホール、金属加工装飾品ホール、錦織・刺繍・ろうけつ染めホール、写真ホールの5つのホールがあり、面積は約1680平方メートルである。各ホールには、大量の代表的かつ貴重なコレクションが展示されている。
■総合服飾ホール
中国民族の優れた服飾の逸品を展示する。そのなかで清代から中華民国初年の服飾コレクションは総数の半分を占め、高い芸術的価値と文物としての価値を備える。
*館長の推薦 ホーチョ族の魚皮の衣
魚皮の衣は、ホーチョ族特有の伝統の服飾である。同館に所蔵されている魚衣は、サケ、コクレンなどの魚皮で作られており、このような魚衣は世界的にも珍しく、同館は比較的完全な一そろいを収蔵している。
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ホーチョ族の魚皮の衣 |
施洞ミャオ族の銀衣 |
マオナン族の錦織 |
■ ミャオ族服飾ホール
中国の少数民族のなかで、ミャオ族の服装の種類と色彩は最も豊富、多様である。同博物館は、ミャオ族の服飾2000点余りを収蔵しており、このような系統だった包括的なミャオ族の服飾のコレクションは、中国の博物館のなかで非常に少ないものである。
* 館長の推薦 施洞ミャオ族の銀衣
この服飾は、施洞ミャオ族の女性の盛装である。銀のプレートの主な模様は、蝶、コウモリ、龍などの縁起物であり、手織り木綿の服装に銀の飾りを掛けて揺らすと、銀の鈴、銀片から悠揚とした音色が流れ、静と動、音色と色彩の総合的な効果が感じられる。
■ 錦織・刺繍・ろうけつ染めホール
錦織、刺繍、ろうけつ染めは、中国の民族服飾工芸を成す重要なものである。文字の出現前には、多くの民族が織物、ろうけつ染め、刺繍の絵画的効能を用いて、その模様のなかに自分の思いを込めた。これらの品々の価値は、実用と装飾のみの価値をはるかに超えたものである。
* 館長の推薦 マオナン族の錦織
マオナン族の錦織の特色は、鮮明である。抽象的な図案と柔らかな色彩を使い、その他の民族の比較的鮮明な色合いと模様とは違いがある。
■ 金属加工装飾品ホール
中国の多くの民族には、銀の装飾品を身につける習慣がある。伝統的な考えでは、銀の装飾品は、厄除けであり、吉祥と幸福を祈る意味を含む。同館は、伝統的な金属加工コレクションと展示に関し全国一である。
* 館長の推薦 黄平鳳冠
黄平ミャオ族の銀鳳冠は、ミャオ族の数多くの服飾のなかで、もっとも華麗なものの一つである。一般的には、銀冠に使用される飾りのパーツは、150個~200個ほどだが、コレクションの銀鳳冠には300パーツ余りのものがある。飾りは立体状であり、トップの三羽の鳳凰は、羽をたかくあげ、まるで生きているようである。
■ 写真ホール
写真ホールには、著名な民族学者であり写真家である荘学本氏が20世紀の30年代に撮影した大量の少数民族の写真がコレクションされている。これらの写真は、イ族、チャン族、およびチベット族などの民族地域社会の様相である。写真のなかの多くの事物は、すでに失われており、ゆえに写真の貴重さは際立っている。
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20世紀の30年代に撮影した貴重な少数民族の写真(民族服飾博物館提供) |
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