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経の版木を今に伝える南京・金陵刻経処

 

周総理が保護を指示

深柳堂を出て、「経版楼」と書かれた二階建ての建物の前にやってくると、しっかりと錠のかかった門には神秘的な雰囲気が漂っている。中に入ると、版木が一枚一枚整然と棚に並べられている。肖主任によれば、黒ずんでいて一見どうということのないこれらの古い版木は、唐代以降すでに散逸した仏教の経典で、いずれも極めて貴重な版木であるという。現在、全国、ひいては海外の多くの寺院が所蔵する経文は、みなこの経版楼の版木によるもので、「金陵版」と呼ばれている。

経版楼の内部には、唐代以来の13万あまりの経版が整然と並べられている

金陵刻経処は幾たびの世の移ろいを経て、今日まで歩んできた。

楊仁山が亡くなった後、金陵刻経処は引き続き布施を募り、『大蔵輯要』を彫刻した。20世紀初めには、刻経処で彫刻・印刷され流通している仏教経典は百数万巻に達し、印刷された仏像画は十数万枚、収蔵されている仏教経典は1440種類以上となった。さらに大量の明代及び清代の経典の版木も所有していた。

しかし、その後数十年にわたって続いた戦争のため、刻経処は風雨にもまれて次第に衰退していった。そして1940年代末、完全に業務を停止した。1952年になってようやく、政府と仏教界の努力のもと、経典の彫刻業務が再開された。のちに仏教協会会長となる趙樸初の提案によって、揚州や四川、北京、天津、常州などの多くの寺院の経版木をここに集めることになり、金陵刻経処の経版木は15万枚以上に増え、全国の漢文仏経彫刻・印刷、収蔵の中心地となった。また、資料を補って『玄奘法師訳撰全集』などの経典を印刷・発行した。「文化大革命」中には取り壊しの危機に瀕したが、周恩来総理の指示で災難を逃れた。

1973年、海外から帰国した楊仁山の孫娘である楊歩偉と著名な学者であるその夫の趙元任は、周恩来総理に刻経処の復旧を願い出た。周総理はただちに、「金陵刻経処の保護・復旧」を指示した。こうして、金陵刻経処の復旧活動は「文化大革命」の最中に始まった。全国の仏教界において、ほかに例をみないことである。

1981年より、金陵刻経処は流通業務を全面的に再開し、大量の経典を相次いで彫刻・印刷して流通させ、仏教界の需要を満たした。1990年、金陵刻経処は最新の印刷設備を購入し、国内外の仏経印刷・流通業務を引き受けるようになった。

多くの経版はいまでも仏教経典の印刷に使われている

金陵刻経処の経典を制作する工程を一通り見学させてもらった。版木に文字を彫る工程では、20歳を過ぎたばかりの若い女の子が、熟練した動作で文字を刻み込んでいる。金陵刻経処では、古書の木版印刷は顔料を水で溶くのを特徴とする「木版水印」、糸綴じで厚いカバー付きの本を出すなど伝統的な工芸を完全に受け継いだもので、さらに専門の仏学研究室も開設されている。

職人たちは代々師匠から弟子に伝えるというやり方で技術を身につける。一部一部の経典の出版は、版木に文字を書き写すことから彫刻、印刷、装丁まで、30近くに及ぶ工程がすべて手作業となっている。そのうち装丁の工程だけでも、ページ選び、二つに折る、版型を揃える、カバーを貼るなどのいくつかの段階があり、どの作業も緻密に丁寧に仕上げられる。仏経を彫刻・印刷するときの材料も凝っている。版木は一般的に、堅いがきめ細かく滑らかなマンシュウマメナシの木を選ぶ。印刷に用いる墨は自家製の松煙墨(松を燃やしたすすから作る墨)である。墨をつくるためのくぼみに材料を入れておき、三年以上水に浸すことでようやくできたものだという。紙は上質な画仙紙を使う。

無形文化遺産の登録を申請

140年あまりにわたり、金陵刻経処は優れた彫刻・印刷工芸によって、国内の仏教界及び東南アジアの仏教国において高く評価されてきた。現在、金陵刻経処は世界的な漢文木版仏経の出版センターとなり、毎年十数万冊の経文が彫刻・印刷され、国内の寺院及び世界中の国々や地区に流通している。また木版の仏教経典及び仏像を収蔵する文物センターとして、全国各地から集めた各種の経版やここで彫刻された経版計13万点以上(仏教経典1500数種を含む)、仏像の版18種、大量の貴重な古代仏教経文を所有している。多くの古い経版木は、現在も仏経の印刷に用いられている。

金陵刻経処の莫大な価値は、次第に国内外の注目を集めるようになりつつある。2006年、金陵刻経処は第一次国家レベルの「無形文化遺産保護プロジェクト」に認定された。今年初め、金陵刻経処は江蘇省揚州の「広陵古籍刻印社」、四川省の「徳格印経院」とともに、世界無形文化遺産への登録を申請した。

 

人民中国インターネット版 2009年12月

 

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